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久しぶりの地元「川崎」に関する記事である
今回訪問するのは「川崎・散策」でGoogleで検索しても、ほぼ誰も取り上げていないマイナーきわまりない「古市場」という町と、その隣にあるメジャーな「小向マーケット」で知られる小向界隈である
古市場という地名は、古・東海道(池上道、あるいは鎌倉街道)沿いのこの村の神社に、月に2回の市場が立ったことに由来するそうだ
つまり、鎌倉時代からあった古い集落だったわけだ。しかし、その後、とくに大発展することもなく、マイナーな町として現在もこの場所に存在している
古市場は、川崎駅からも平間、鹿島田駅からも徒歩でゆくには厳しい陸の孤島じみた立地にある。しかし、ひところは小向の東芝工場のお膝元ととして、かなり栄えていたらしい
(ちなみに東芝工場の住所は、小向東芝町で番地はない)
“らしい”というのは、僕が初めてこの町を訪れた頃には、栄えていた……などとは、とても思えない寂れた町だったからだ。川崎には、南加瀬や新丸子のように、かつては隆盛をきわめたわりに、現在は見る影もない
ーーといった、過去の栄華が信じられないような町が多いような気がする
東京都大田区から国道1号線を、多摩川大橋でわたると、右手に東芝の巨大な工場と研究所が目に入る。その向かい側には、こんな建物が残っている
看板建築なのか石造りの洋風建築なのか、いまひとつ判断に苦しむが(おそらく、石造りの洋館のような……)、川崎に残った貴重な戦前の建物だ。去年までは、この並びに平屋の木造和風建築の金物屋の建物があったが、いつの間にか取り壊されてしまった
これほど見事な洋風建築は、川崎では珍しいので、取り壊されてしまう前に、日本民家園あたりに移築保存してほしいものだ
この建物の少し先に、僕がよく行く巨大なブック○フがあり、その裏側にあるのが、レトロ建築物マニアのあいだでは、知らぬ者とてない「小向マーケット」である
古市場は、その小向マーケットとは、ちょうど正反対、東芝工場の西の裏側にある町だ
これが古市場の中心地である
画面の右側に写っているすべての窓に板が打ち付けられている場所は、ほんのひと月ぐらい前までは、スーパー五光というローカルなスーパーが営業していたが、潰れてしまった
貼り紙を見ると、どうやらAEONマイバスケットになるようだ
川崎には、マイバスケットとセブンイレブンが多すぎる。同じ店ばかりあっても、なんにもおもしろくないので、いい加減にしてほしいものだ。てか、セブンイレブンなんて、完全に共食いの潰しあいになっている
南武線の武蔵中原駅周辺などは、駅の周りだけでセブンイレブンが4軒、そこから50メートルぐらいと、300メートルぐらいの場所にもあって驚く(これでも去年1軒潰れている)
もちろん、そのほかにもファミリーマート、ローソンがそれぞれ2軒、百円ローソン、マイバスケットなどもあり、完全に需要を上回っている。ちょっと前までは、スリーエフとミニストップもあったが潰れた
という話はともかく、このあたりは昔は二ヶ領用水の支流が流れる田園地帯だった。昭和になり東芝工場が出来て、計画的に宅地開発が行われたため、区画がものすごく整然としている
Googleマップをキャプチャするとこんな感じ
真ん中の「越の湯」という文字が「スーパー五光」の位置である。写真ではスーパーエーコーになっているが、どうやら五光の前はエーコーという名前のスーパーだったようだ
マップの真ん中の「卍」のような交差点が古市場の中心地で、この場所を中心に商圏がひろがっていた
といっても、現在は完全にさびれきっており、古市場銀座商店街を除くと、店はバラバラに点在しているだけで、いつも賑わっているのは「ジーユー」と「サイゼリヤ」ぐらいしかない
セブンイレブンと「ユース」書かれた店のある通りがバス通りで、この道をまっすぐゆくと、サイゼリヤ、ジーユーを経て東芝工場の横を通り、国道1号線にぶつかる
かつては、ズラリと商店が並んでいたように見えるが、コンビニを別にすると、ほぼ9割の店舗が、廃業してしまっていた
この交差点の周囲の店を撮影してみると
「パーマ」のフォントがレトロでかわいい「キャノン美容室」は、どう見ても営業しているようには見えない
その向かい側には同じような業種の……
こちらも昭和レトロな「barber 長森」という店がある。こちらは、たまたま定休日なだけで、撮影した前の週に、営業している姿を確認している
「キャノン美容室」の並びには、こんな店があった
ミュージックスナック「ニュー ア・ユゥ」という、こちらも1970年代から、なにも変わっていないような店である
それにしても、何から何まで気になる店で、まず軒先テントではなく、入り口を除く1階部分のすべてを包んでしまったテントがすごい
そして、間口一間半ぐらいにしか見えない極小の土地なのに、無理やり4階建ての家を造っているが、なぜか上にゆくにしたがって、積み木細工のように、だんだん小さくなっている
あれっ、よく見ると、2階の窓だけが妙に飛び出していて、これって建築法規上ではグレーゾーンなのでは?
こんなんで、大地震が来ても大丈夫なのか、と、他人事ながら心配せずにはいられない建築物だ
この「ニュー ア・ユゥ」の少し先にもこんな建物があった
なんともレトロな洒落た戦後型看板建築であるが、店舗部分が完全に、一般的な家屋に改装されてしまっていた
廃業したあと看板建築を一般家屋に改装するのは、わりとよく見るパターンだが、どんな商売だったのかは、誰もが気になる事柄で、僕も気になって眠れなくなるほどだ(←ちょっと盛りました)
しかし、この建物の場合、悩む必要はなかった。かつての看板が残っていたのからである
建物の上部に、色褪せた「中村歯科医院」という小さな看板があるのが見えるだろうか。なんと看板建築の歯医者さんだったようだ
この「卍」型の交差点で、僕がもっとも気になったのが、最初の写真の後ろのほうに写っていたこの戦後型看板建築だ
こちらも軒先テントには「グレンドール」という、なにやら洋風の店名が、レトロなフォントで記されている
ーーが、どう見ても現在営業しているのは八百屋か果物屋にしか見えず、まさか「グレンドール」などという名前の八百屋があるとは思えないし、おそらくグレンドールの跡地を居抜きで借りたのだろう
このグレンドールの1本裏の道が、古市場のメインストリートである「古市場銀座商店街」である
戸越銀座、飯能銀座なと数々の○○銀座という商店街を見てきたが、なかでもこの古市場銀座は「寂れた○○銀座コンテスト」が開かれたら、上位入賞間違いなしのひなびた雰囲気だ
古市場銀座は、わずか200メートルほどの商店街で、ズラリと並んだ数々の店から、かつては栄えていたような印象を受けるが、現在も営業を続けているのは、全体の3割ぐらいといった雰囲気だ
僕の好きな写真家、武田花に、木村伊兵衛賞を受賞した「眠そうな町」という写真集があったが、まさにこの古市場銀座は、眠そうな町という空気が流れていた
古市場銀座にあったババ向けの洋品店「青い鳥」
しかし、看板建築のファサード部分には、はっきりと「井筒屋」という屋号の金文字が……
余談だが、前月の「猫記事」にて掲載した
この猫は、古市場銀座の商店街にいた猫である
古市場銀座の1本裏の路地には、なぜか1軒だけ八百屋があり、その店は、例外的に繁盛しているが、誤って消去してしまったので、写真はなし
陽が傾いてきたので、そろそろ移動しよう
古市場から次の目的地である小向は、東芝工場の横をまっすぐゆくだけ。サイゼリヤとジーユーの隣が東芝工場で、工場の端が国道1号線で、冒頭に紹介した洋風建築がある
洋風建築の次のブロックが巨大なブック○フで、小向マーケットは、その裏側にある
ということで次回は、このブログでもすでに4、5回は紹介している小向マーケットとその付近の様子を……
続く
†PIAS†
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