イープラスとチケットぴあで
「柳家喬太郎」をお気に入り設定している。
なので毎日のように関東圏の
落語チケット情報が届く。
その中に、見慣れないものがあった。
舞台の情報だった。
喬太郎師匠が舞台に出られることがあるのは
もちろん知っている。
落語心中のドラマ版で
俳優をやってるのも観たことがある。
しかし、舞台を実際に観に行く機会は
今までなかった。
一般販売開始日をカレンダーに入れて
仕事中にトイレに隠れてチケットを取った。
なんも知らないで取ったので
会場に入って公演の説明書きを読んで
初めて内容を知った。
時代設定は昭和16年ごろ。
長屋に住む噺家3人と周りの人たちが
戦前、戦中、戦後という
激動の時代を生きる話。
この噺家3人を演じるのが
春風亭昇太、ラサール石井、柳家喬太郎。
戦時中に一部の落語が
「世の中にふさわしくない」
として禁止されたことはなんとなく知ってる。
禁演になった落語は53種類あり
「落語の墓」として作られたのが
"はなし塚"だそうだ。
53種類の中にはにわかの私でも
知ってる噺がチラホラある。
宮戸川、紙入れ、品川心中、お見立て…
どれも印象に残ってるくらい好き。
舞台は昇太さんの口上から始まった。
1人出てきて高座に上がり
正座をして一礼する。
そして、舞台となる昭和初期の時代背景を
解説してくれた。
そのまま自然な流れで
喬太郎師匠が登場して
ラサール石井さんが登場して
シームレスに本編に入っていく。
この口上は落語でいうところの
枕だったのか、と終わったあとに気付いた。
それにしても喬太郎師匠にはビックリ。
だって髪の毛が真っ黒なんだもの。
喬太郎師匠といえば真っ白な髪色なので
私はもちろん、周りもどよめいた。
黒髪の師匠を見られる日が来るとは。
白髪の師匠が好きだけど
それはそれ、これはこれだからさ。
あと、序盤に
「時そばの所作を教える」
という場面があった。
喬太郎師匠を知ったキッカケが
時そばの動画で、何十回と観たので
生で観られたのがとても嬉しかった。
すごいな、実際に目の前で観ても
蕎麦の湯気が見えるようで。
と、感動してたら昇太さんから
「熱を感じない、ダメ!
しかも長くやりやがって」
みたいにダメ出しされて
思わず喬太郎師匠も
「蕎麦、熱いよ…」
と笑っちゃってたの良かったし
一通り終えたあとに
左手に「持ってたどんぶり」を
わざわざ腰掛けてた椅子に「置いた」ので
ビックリしてしまった。細けぇ………。
昇太さんの役柄は
明るくて真っ直ぐで仲間想いだけど
ちょっとバカっぽい感じ。
ラサールさんの役柄は役名の通り
世渡り上手で、でも根は真面目で
ご時世の変化に上手く対応するタイプ。
喬太郎師匠の役柄は
落語に対するこだわりというか想いが
誰よりも強くて、ちょっと口が悪い。
3人ともたくさん怒って
たくさん泣いて、たくさん笑ってた。
印象的だったシーンを3つあげる。
1つ目。"はなし塚"の除幕式で
禁演になる演目が1つずつ読み上げられ
それを聞きながら涙を堪えるんだけど
我慢できなくて3人とも泣き出してしまう場面。
最初に伊吉(ラサール石井)が嗚咽を漏らし始め
昇介(昇太)が慰めながらもらい泣きし始めて
喬次(喬太郎)は上を向いて堪えるんだけど
長屋の大家が大泣きしちゃって
みんなで肩を抱き寄せながら
大声で泣き崩れる場面があった。
禁演に対する考え方は
3人それぞれ違っていたけど
落語に対する想いは共通なんだなぁ。
2つ目。喬次の十八番の「居残り左平次」も
禁演落語として葬られてしまった。
それでも抗って寄席でやろうとして
大変な騒ぎになり
「もう話す場所がなくなっちまった…」
と泣く喬次のために、昇介が
長屋の人たちを集めて非公式に
居残り佐平次ができる機会を拵えた。
嬉しそうに落語を始める喬次。
しばらくやって、いざ品川へというところで
急にやめて家へ帰ってしまう。
正確なセリフは忘れちゃったけど
ガッカリ肩を落としながら
「佐平次が生きてねぇ」
というようなことを言った。
佐平次は、土の下に葬られてしまったから。
私は喬太郎師匠の居残り佐平次を
一度だけ聞いたことがある。
その時のイキイキとした佐平次を思い出して
このセリフがしんどかった。
3つ目。伊吉に赤紙が届いて
長屋をあげて出征の宴が行われた。
準備を待つ間3人で話していたとき
ずっと気丈に振る舞っていた伊吉が
喬次と昇介の前だけで
「怖い、行きたくない…」
と泣き始めてしまう。
その後、準備ができた長屋仲間が迎えにきて
何事もなかったように伊吉は宴へ向かい
残された2人で「バンザイ」の練習をする。
「正月のように晴れやかな笑顔で」と
昇介が言い
「泣いてるの見たら無理だろ」
と喬次が返しながら、2人で大声で
3回「バンザイ」と手をあげる。
その3回目のバンザイのあと
ハッキリと表情が変わるわけじゃないけど
ちょっとだけ悲しみが混ざった眼差しで
暗転するのが絶妙で、すごく印象的だった。
戦争モノにはありがちな話だけど
実際に各地で同じことが起きてたのは
間違いないんだろう。
っていう悲しい場面ばかりあげてしまったけど
最初から最後まで笑いどころがあって
ホントに楽しい舞台だった。
戦時中も笑って暮らすために
落語を残すために
必死に生きてる人たちの話なので。
公演時間は休憩なしの約2時間だったのに
あっという間に終わってしまった。
役者の喬太郎師匠、また観たいなぁ。
物語にはあまり関係ないのだけど
寄席のスポンサーになってる
飛行機会社の社長の息子というポジションの
おじさんが出てきた。
スーツにハットという紳士な服装なんだけど
このスーツが、今風のスリムなやつじゃなくて
太めの、いかにも昭和のスーツだったのも
すごく良かった。
それから転換時の音楽。
最初のうちは三味線と太鼓の
出囃子みたいな感じだったのに
終戦後、ラジオでジャズが流れるような
時代になってからは
サックスやドラムのジャズ調な楽曲に
三味線が混ざっていて
うまい演出だと思った。
ラストは終戦後に禁演になりそうな落語を
3人で挙げながらフェードアウトする。
禁演落語は、なにも過去の話ではなくて
現代でも十分にあり得ることだよなぁ。
それこそ昭和と比べて
表現が色々と厳しいご時世だから
男女平等とかポリコレとかで
葬られる噺が出てくるかもしれない。
でも3人は
「禁演になってもまた落ち着いたら
地面の下から掘り起こせば良い」
と前向きに捉えていた。
実際に、戦時中に禁演になった落語は
昭和21年に復活を遂げている。
未来もそうだったら良いな。
