日頃から、木工や塗装などの作業を投稿していますが、自分で工房を始めた当時は、どちらも全くの未経験でした。

元々専門外だった分野が、今では一番受注が多い業務な訳で、先の事はわからないものです。


この仕事をやっていると、よくありがちなのが、災害に遭ったピアノの修理です。

その種の仕事を初めて引き受けた時の事。

外装は腐食していたり、燃えてしまっているので、新たに作るしか無かったのですが、せっかく作るなら少し凝ったデザインにしたい、とのご希望がありました。そして、屋根の形状や開き方を変更した絵を描いて、木工屋さんに持って行ったのですが、「この形状だと、調律のハンマーが入らんよ」と言われました。

要するに、”チューニングハンマーが入らなくなるので、調律ができませんよ!“ という意味です。


ピアノ作りにおいては、当然それぞれ役割分担があり、普通ならケースの加工屋さんは貰った図面に従って淡々と作るだけ。その形状が演奏や調律に何らかの悪影響があっても、加工屋さんに責任はありません。問題があれば、それは設計者・図面作成者の責任です。

ケースの製作と調律は、ピアノの製作過程において一番遠い関係な訳で、その加工職人が、調律の作業性について認識している事に、大変驚くとともに、この方がとても凄い実力の持ち主なのだと知りました。


ピアノのケース加工は、今ではNC加工が当たり前で、図面がしっかり出来ていれば完璧に作ってもらえます。ですが少量生産では、とてつもなく高い工賃になってしまう為、ケースの設計から加工まで出来る木工屋さんは、ウチのような小規模メーカーにとって、大変重要な存在です。

しかし、これらの事全てが出来る方は、たった一人しか居ないというのが、日本のピアノ業界の残念なところです。

この方もいつかは引退する訳で、その時になって困らないように機会がある度に教わってはいるのですが、なかなかあのレベルの仕事はできません。