最近、度々投稿して来た巻線の話ですが、今回お願いしたのは、所謂“巻線屋さん” ではありません。

かなり大きな修理工場を持っていて、販売店としてショールームも運営しているところです。

かれこれ15年くらい前から、「いつか、フルコンの修理が受注できるようになったら、ウチの巻線を使ってみると良いですよ」と、度々言われていたのですが、ちょっと違う形で、遂に依頼をする事になりました。

 

寸法を計算して作成したデータを送り、それを検証してもらった上で、懸念事項があれば指摘してもらう。何が問題なのか、それによってどのようなトラブルが想定できるのかを教えてもらう。

これらのことは、とても貴重な経験になりました。

 

ピアノ技研工業は、仕事の大半が業者さん相手で、一般ユーザーの方の仕事が無いのが、長年の悩みなのですが、日頃の業者さんとの繋がりで、今回のようなオリジナルパーツを作ってもらえる事は、大きな役得と言えるのかもしれません。

 

このような経緯で、二度目のオリジナル品を作ってもらう事ができました。

 

一応メーカーでもあるので、全ての部品がオリジナル品で、実際は二種類だけという事はありません。しかし、一見難しそうに感じるアクションや鍵盤などは、基本的な規格は各部品メーカーのもので、セクションの割り振りを変えるだけで作れます。その他のパーツ製作も、全て揃えるまでやり遂げるのは、大変なエネルギーを要しますが、ひとつひとつは、それ程大変な作業にはなりません。

 

初めてのオリジナルパーツはハンマーヘッドでした。これを作る事になった経緯は、長いブランクの後に、独立して間もない頃でした。

当時、手がけたアクション修理で、以前から疑問を感じていたパーツを使う必要が生じた為、実際にアクションを製作しているメーカーの見解を訊きたいと思い、訪ねてみたことがきっかけでした。

技術者として業界に携わる人なら、誰もが知っている“今出川アクション” を訪問したのですが、「ここがあの有名なIMADEGAWAか〜😮」と、かなり緊張していた事を覚えています。

アクションとハンマーが別会社になっている事も、この時初めて知りました。

 

疑問だった部品は、思っていた通りサイズが合っていない為、使える訳がないという事でした。けっこうテキトーな業界なので、商社から支給されたものであっても、自分がしっかりしていないと、とんでもない目に遭うというのは、昔と変わっていないようでした。

 

その後は、ハンマーの事で度々訪問する事になります。当時の社長は、今の社長のお兄様だったのですが、多くの事を教えていただきました。

 

実際その頃は、今以上に無知でした。

例えばハンマーの硬化剤。コレを使うのは、あまり良くない事だと思い込んでいました。しかし、硬化剤を使う前提で作るハンマーもある事を とても丁寧に教えてもらいました。この頃は、その程度のことすら知らなかった訳です。

 

同時に、既製品ではないオリジナルのハンマーの製作もできるのだとか。

もちろんメーカー限定ですので、全ての人に対応できる訳ではないのですが、当時は製品どころか、図面すら出来ていない相手に対して、随分と思い切った対応をしてくれたものだと思います。

また、せっかく近くにいるのだからと、注文したハンマーをわざわざ取りに行き、その度長時間に渡り、いろいろな事を質問しては、丁寧に教えて頂きました。

僕が訪問する度に、長時間作業の手を止めてしまっていた訳で、随分と迷惑を掛けたはずですが、面倒がらずに丁寧に教えていただけた事は、今でも感謝しております。

 

 

 

 

昔の中小メーカーは、とにかくドイツ製のハンマーやアクションを使い、つぎはぎだらけのピアノを作っておきながら、高級なものであるかのような印象を与える商売をする所が、たくさんありました。

しかし、設計段階で求める音色に合わせたハンマーを作るのが、本来の手順だと考えていたので、この時の経験はとても意義のあるもので、製作をする上で、とても恵まれた環境を与えてもらったと思います。

 

オリジナル品を作るには、当然試作から始めるわけですが、出来上がったハンマーは、最初から既製品よりもクオリティが高く、中古ピアノの修理に使っても何ら問題の無いものでした。試作でありがちな、実験後に廃棄するような事も無かったのは、経済的にも大変助かりました。

このような事がなければ、今頃は輸入品の良さそうなものを見繕って、何となく妥協する事になっていたはずです。

 

長年仕事を続けていく中での、ほんの一場面の事で、相手に大きな影響を与えてしまうこともあります。

今の自分がそのような時、その場に最も相応しい対応が出来るのかは甚だ疑問で、残念ながらまだまだとても無理、といった感じです。