10月7日はキール劇場で、サン=サーンス『サムソンとデリラ』上演初日でした。

このオペラ、主役の一人デリラは珍しくメゾ・ソプラノです。
今までにデリラのアリアを伴奏したことはあるのですが、オペラを実際に観たことはありませんでした。

昨年はハンブルクで上演され、知人がいたく感激していたので羨ましいなと思っていたら、今年はキールで上演されることに。
私はエキストラ合唱メンバーとして参加させていただきました。

前回の『サムソンとデリラ』キール上演は1911年だそうで、112年ぶりの上演になります。有名なオペラだと思っていたので、意外でした。

キールの劇場はやや小さめだと思いますが(800席)、その空間の真ん中に白の大きなバレエシートを床の上まで垂らし、印象的な舞台を作っています。後ろの壁に当たる部分はスクリーンになったり、ビルの窓のように切り取って、ダンサーが登場したりします。

出演者も、ヘブライ人は黒、ペリシテ人は白の背広上下、全員裸足。小道具は小さなランプ以外無し。
装飾をできる限り削ぎ落とした舞台、衣装で、合唱団は能のようなすり足で静かに登場します。
舞台の様子は、こちらのページに写真があります。

https://www.theater-kiel.de/oper-kiel/repertoire/produktion/titel/samson-und-dalila

追記:宣伝用動画がアップされました。



このオペラにはバレエシーンが二つあります。しかしプロのバレエダンサーは使わず、エキストラ役者で踊りや器械体操の得意なメンバーが大活躍です。
発想や演出が現代舞踏寄りなのかな、と思いました。

演技も演出も、具体的な表現よりも象徴的な表現が多かったです。
デリラがサムソンの秘密を聞き出した場面では、サムソンの髪を勝ち誇って掲げるデリラの周りに、ヘブライ人が次々と斃れて屍で埋め尽くされます。

静と動の絶妙なバランス、残虐さやエロチシズムを描きながら下品に陥らないバランス、素晴らしい演出だと思います。

演出家さんの話では、「ヘブライ人もペリシテ人も同じように相手を激しく憎み、血を好む残虐さがある。どちらが良いか悪いかは表現せず、観た人の判断に委ねる」ということでした。聖書の古い世界を現代にマッチさせた解釈ですね。

オーケストラ・リハーサルの時から、指揮者さんのエネルギーには圧倒されました。地に足の着いたテンポで、音楽のダイナミックを余さず表現しています。

ソリストの皆さんの素晴らしい歌唱には、毎回ワクワクしました。
今回、キールで長年活躍された後カールスルーエ劇場に移った宮廷歌手、高田智宏さんが大祭司役で出演なさり、キール劇場メンバーは「お帰りなさい」の大歓迎ムードでした。

また、振付師の方が具体的に親切な指示を与えてくださったおかげで、素人の私でもなんとか演技についていけました。時間との戦いの中で大勢のメンバーを相手に、演出家のアイデアと実際の舞台演技とを具体的につなげるのは、相当に神経を使う大変な役割だったろうと察します。

初日の舞台は多くのお客さんに恵まれ、お客さんも感動している様子がひしひしと伝わってきました。その後の打ち上げでは、見知らぬお客様から「とても素晴らしい合唱だったわよ」と声をかけていただきました。こんな経験をさせていただけて、本当にありがたい限りです。

『サムソンとデリラ』キール公演は10月中に全5回、その後も4月28日まで断続的に7回あります。北ドイツにお住まいの方、オススメですのでどうぞおいでください。

追記:偶然にも初演の10月7日に、ハマスとイスラエルの大規模衝突が起こってしまいました。ガザを舞台とする『サムソンとデリラ』も、あまりにタイムリーなテーマになってしまいました。ガーン キール上演はおかげさまで、その後も続々好評を頂いています。

人気ブログランキング

関係者データ
  • 指揮:ダニエル・カールベルク 
  • 演出・舞台構想:インモ・カラマン 
  • 振付・衣装:ファビアン・ポスカ 
  • 動画撮影:フランク・ベトヒャー 
  • 合唱指導:ゲラルト・クランマー 
  • ドラマトゥルク:ウルリッヒ・フライ 
  • デリラ:タティア・Jibladze(すみません、読めません)
  • サムソン:アンデカ・Gorrotxategi(同上)
  • ダゴン大祭司:高田智宏 
  • ガザの太守アビメレク:チャンダイ・パク 
  • ヘブライの長老:イェルク・サバロヴスキ 
  • ペリシテの使者:ダヴィッド・ハイムブーヒャー 
  • 第1のペリシテ人:ウォンジュン・キム 
  • 第2のペリシテ人:ジュンジョン・チョイ 
  • キール劇場オペラ合唱団&エキストラ合唱団