8月27日(日)にシュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭ラストコンサートとして、ヘンデル『メサイア』がリューベックの音楽・会議ホールで上演されました。私は音楽祭合唱団の一員として参加させていただきました。
とても素晴らしい体験でした。

ヘンデル『メサイア』は全曲演奏すると2時間半ほどかかります。そのため、部分的にカットして上演される事が多いようです。

今回は、デュエットが短縮され、アリオーソと合唱「その声は全地に響き渡り」がカットされましたが、ほぼ全曲上演でした。

私たち合唱団は合唱指揮者の許で、1週間前の週末練習から演奏会に備えました。

コンサートの指揮者は、リチャード・エガー。

https://ebravo.jp/harusai/archives/8693

合唱指揮者さんはなかなかエガーさんの情報が得られず、準備に苦労していたようです。
バロック音楽は演奏者により、解釈にかなり幅があります。
そのため、何通りかの解釈で練習したり、合唱指揮者さんがこうと思う解釈を準備したりしました。

コンサートの週は、水曜日から毎晩22時まで練習。
キールから練習場のリューベックに通うのは、結構大変でした。

エガーさんとの練習日の前日、合唱指揮者さんがようやくエガーさん指揮の『メサイア』の録音を手に入れました。

この時代の楽譜は、すべてが丁寧に記譜されているわけではありません。
逆に、解釈には自由があるということになります。

びっくりするようなところでフェルマータがあったり、テンポと表現が一変してしまった曲がありましたが、その他はだいたい練習で準備した範囲で間に合いそうでした。

コンサートの2日前にエガーさんと合唱団の練習。
エガーさんは小柄ですが、エネルギーの塊のような人でした。
指揮は変化自在、いつ何が出てくるかわかりませんから、まったく気が抜けません。
かと言って奇をてらっているわけではなく、解釈はテキストの物語に沿った劇的なものでした。
そもそもキリストの登場、磔刑、復活がめちゃくちゃドラマチックな出来事だった、と自然に納得させられます。

冗談もいっぱい言っていたようなのですが、残念ながら私にはすべてはわかりませんでした。
でも、「確実は退屈だ!」と叫んでいたのが記憶に残っています。
指示は妥協せず、でも常にユーモアたっぷりでリハーサルは進められていきました。

そんな指揮ぶりなので、エガーさんは靴も履かず、バスタオルで汗を拭き拭きリハーサルなさっていました。

合唱指揮者さんが幾通りか解釈を準備してくださったおかげで、びっくりするような指揮ぶりにもアマチュア合唱団ながら反応することができました。

前日はオーケストラ、ソリストとのゲネプロ。オケとの合わせはたった1回でしたが、エガーさんは要領良く進めてくださって、困ることはありませんでした。オーケストラもエガーさんの解釈のシャープさに良く反応していました。1ヶ所、デュエットが短縮されたために合唱の入りがあいまいになりましたが、同僚が指摘してくれたので、全員ついていけました。

そして、コンサート当日。会場は満員の入りでした。
ソリスト4人も、エガーさんのドラマチックな解釈を体現していました。

鍵盤楽器はポジティブオルガンとチェンバロ、それにリュートが加わります。
エガーさん自身がチェンバロを弾きながら指揮していました。
チェンバロがとてもエネルギーを盛り上げていました。
アルペジオを自由に入れていたばかりではなく、それでもエネルギーが足りないところは爪で鍵盤の上をグリッサンドのようにすべらせて雑音を入れていて、びっくりしました。

エガーさんは、クレッシェンドやディミニュエンドをかなり細かく指示なさいます。
また、それが当日かなり即興で出てきました。
「あれ、行き先がちょっとあいまいになったかも」と思う箇所もありました。
コントラバスが入りを間違えた箇所もあったり、私も入りを間違えそうになったところもありました。
でも、解釈がエネルギッシュで、そんな解釈を演奏者も聴衆も刻々分かち合っていたので、多少のミスはまったく気になりませんでした。

ソリストがアリアの後に拍手を受けただけではなく、私たち合唱団にも合唱曲の後に拍手が来た箇所がありました。

演奏後はスタンディング・オベーション。
拍手喝采はなかなか止みませんでした。

舞台から楽屋裏に戻って、合唱指揮者も改めて、私たちから長い拍手喝采を受けました。

関係者全員が幸せな、貴重な体験でした。
こんな体験をさせていただけて、本当にありがたいと思います。

この日の演奏は、北ドイツ放送局からラジオで実況中継されました。
こちらから聴くことができます。

https://www.ndr.de/kultur/sendungen/das_konzert/Abschlusskonzert-des-Schleswig-Holstein-Musik-Festivals-2023,sendung1367246.html

コンサートデータ

ヘンデル『メサイア』HWV56
2023年8月27日(日) リューベック・ミュージック・コングレスセンター
カロリン・サンプソン、ソプラノ
ヒラリー・サマーズ、アルト
ジェームズ・ジルクリスト、テノール
ジョシュア・ブルーム、バス
シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭合唱団
北ドイツラジオフィルハーモニー
指揮:リチャード・エガー
合唱指導:二コラス・フィンク

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