プリゴジンの乱について、その経過と影響を北野幸伯さんがわかりやすくまとめてくださいました。

https://gendai.media/articles/-/112450

プリゴジンの乱で得したのは誰か、損したのは誰か、『ロシア政治経済ジャーナル』の記事をご紹介します。

(以下引用)

世界を驚愕させ、しかし「アッ」という間に終結した「プリゴジンの反乱」。
今回は、この反乱で、「得した勢力」「損した勢力」について考えてみましょう。

▼「最強の敵」から思わぬプレゼントをもらったウクライナ

「プリゴジンの反乱」でもっとも得をしたのは、ウクライナです。

ゼレンスキーは6月10日、「反転攻勢がはじまっていること」を認めました。しかしその後、ウクライナ軍が苦戦していることが報じられてたのです。

「プリゴジンの反乱」で、ウクライナが得たメリットは大きく二つあります。

一つ目は、「最強の敵」ワグネルが戦場から消えること。プリゴジンとワグネルメンバーは、ベラルーシに移動することになっています。

二つ目。プリゴジンは、反乱に先立ち、ロシアの開戦理由が

大ウソだった

ことを暴露しました。
TBS NEWS DIG 6月24日。

<ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者は、ウクライナ侵攻について

「ロシア国防省がプーチン大統領をだまして始めた」

と主張する新たな動画を公開しました。

「ワグネル」創設者 プリゴジン氏

「国防省は国民と大統領をだましている。
特別軍事作戦は全く異なる理由で開始された」

プリゴジン氏は23日に公開した動画で、プーチン大統領が侵攻開始にあたり、
ウクライナがNATO=北大西洋条約機構の支援を受け、ロシアを攻撃する脅威が高まっているなどと主張したことについて、

「そのような異変はなかった」

と否定しました。

そのうえで、ショイグ国防相や「オリガルヒ」と呼ばれる新興財閥が「自分たちの利益のために戦争を始めた」と強調しました。

これまでもショイグ国防相らを厳しく批判してきましたが、今回は侵攻そのものをめぐる政権の主張を否定した形で波紋を呼びそうです。>

@映像も必見です。

https://www.youtube.com/watch?v=cbn5mLXeV5U

要するにプリゴジンは、

<・ロシアが先制攻撃しなければ、ウクライナがロシアに攻め込んできただろう。>

について、
ウソだと暴露したのです。

侵略戦争を戦うロシア兵の士気は、そもそも高くない。そこにプリゴジンの暴露情報が出てきた。ロシア軍の士気は、さらに下がったことでしょう。

▼プリゴジンはサバイバルできるか?

では、反乱を起こしたプリゴジン自身は、どうでしょうか? 
私は、「損をした勢力」だと見ています。
ロイター6月25日。

<ロシア大統領府のペスコフ報道官は、武装蜂起を呼びかけたプリゴジン氏に対する犯罪容疑を取り下げると明らかにした。
同氏とワグネル戦闘員の安全を保証する以外に何らかの譲歩をしたかについては言及を避けた。>

・プリゴジンに対する犯罪容疑を取り下げる。
・プリゴジンとワグネル戦闘員の安全を保証する。

反乱を起こしたプリゴジンは、すでに犯罪者ではなく、安全を保証されたことになっています。
しかし、
「安全を保証した人物」がプーチンであることが重要。
プリゴジンは、確実に「粛清リストナンバー1」であるはずです。

生き残る可能性があるとすれば、
彼が殺される前に、プーチンが失脚するか、死ぬ場合。
そして、そんな可能性も、あります。

▼最大の敗者はプーチン

プーチンは、一見勝者に思えます。彼は、ベラルーシのルカシェンコ大統領にプリゴジンと交渉させ、戦わずして反乱を終わらせた。「プーチンの叡智で内戦勃発が回避された」ともいえるでしょう。

しかし、思い出してみてください。プーチンは、6月24日の演説で何をいったのか。
6月24日FNNプライムオンライン。

<プーチン大統領は24日、緊急演説で

「われわれが直面しているのは裏切りだ。故意に裏切りの道を歩んだ者、武装蜂起を準備した者、恐喝やテロリズムの方法をとった者は、すべて避けられない罰を受けることになる」

と警告し、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」のトップ、プリゴジン氏の行為を「理不尽な野心と私利私欲」と非難し、断固たる行動をとるよう指示したと述べた。>

プーチンは、プリゴジンを「裏切り者」と呼んだのです。そして、「避けられない罰を受けることになる」とし、「断固たる行動をとるよう」命令した。

ところが一転、プーチンは、交渉でプリゴジンを懐柔することにした。プリゴジンの罪は不問とされ、「お咎めなし」となった。

もちろん、既述のように、プーチンがプリゴジンを許しているはずはありません。

要するに、プーチンは、「自分の得意なフィールド」にプリゴジンを誘導したのです。つまり、「工作、暗殺フィールド」です。

とはいえ、プーチンがクーデター未遂の首謀者を見逃したことは、大いなる権威の失墜です。

「プーチンは、プリゴジンに勝てないから妥協したのだ」

と解釈されるでしょう。

今回の反乱で、独裁者プーチンの支配力が弱まっていることが、世界に知れました。
そのことは、ロシア国内、国外の「反プーチン派」に希望を与えます。

ボス猿は、外敵から群れを守る。
群れの中で争いが起これば、介入して止めます。

ボス猿の力は強く、好きなところに座り、好きなだけ食べることができます。
しかし、ボス猿が年を取り、力が衰えてくると、チャレンジされ、他の猿に地位を奪われます。

プーチンはここ23年、ロシアにおいて、唯一絶対の「ボス猿」でした。
ところが、プリゴジンというワイルドな猿が出現し、戦いを挑んだ。
ボス猿プーチンは、戦いを避け、交渉によって懐柔し、プリゴジン猿にお引き取りいただいたのです。

それを見ていた他のお猿さんたちは、どう思うでしょうか?

「ボス猿は年を取って老いた。俺がボス猿になる好機がめぐってきた!」

と考えるでしょう。そうやって、ボス猿は、力をつけてきた他の猿に打倒されるのです。

猿の世界にも、人間の世界にも、「永遠のボス」は存在しません。