岸田首相ウクライナ訪問と同時期に電撃ロシア訪問した、中国の習近平主席。
報道されない実際の成果は、どうなんでしょうか?

北野幸伯さん発行ロシア政治経済ジャーナルの記事をご紹介します。

※要点

・習近平の訪ロは、うまくいかなかった。

・習近平は、プーチンを説得して、「和平案を具体化」したかった。

・しかしプーチンは、「西側とウクライナに準備ができていない」と逃げた。

・プーチンは、「それより武器をくれ!」と要求。

・西側の制裁に巻き込まれることを恐れる習近平は、武器供与を約束しなかった。

・プーチンと習の話はかみ合わなかったが、欧米向けに、「両国関係は最高だ!」と言わざるを得なかった。

・習近平は、「次期大統領候補」としてミシュスティン首相に会い、彼を中国に招待した。

・「中国のおかげで欧米日の制裁は効いていない」という人がいるが、中国は、ロシアの天然ガスを、欧州より70%安い価格で買っている。

(以下引用)

3月20日から22日まで、習近平はロシアを訪問していました。
この訪問について私(北野さん)は、2455号(3月20日号)で、結果を予測しました。

習近平の目的は、「ウクライナ戦争の和平を仲介し、世界での評判を爆上げすること」。
プーチンの目的は、「中国から武器を受け取り、戦争でウクライナに勝利すること」。

両者の思惑がずれているので、実質的進展は望み薄。
それでも、「両国関係は最高だ!」と宣伝するだろうと。

【転載ここから ▼】

<習近平は、ロシアとウクライナを停戦させることができるでしょうか?
プーチンは、一度併合したクリミアと4州を手放すことができないでしょう。
ゼレンスキーは、侵略されて奪われた自国領を手放すことができないでしょう。
それで、習近平の試みは、うまくいかないでしょう。

プーチンは、中国から武器を受け取るでしょうか? こちらも、なかなか難しい。
中国がロシアに武器を供与していることがバレれば、欧米は中国に制裁を科すでしょう。

欧米日は、世界GDPの約半分を占めています。
一方、ロシアが世界GDPに占める割合は、2%以下。
中国が、欧米日との経済関係を犠牲にして、ロシアに武器を供与するとは思えません。
もちろん、「ばれない程度にこっそり」というのはあり得るでしょう。

結局、習近平の訪露は、成果をあげられない。しかし、習近平もプーチンも、
「中国とロシアの関係は、歴史的に最高レベルだ!」などと宣言し、良好な関係をアピールすることでしょう。>

【転載ここまで▲】

実際は、どうだったのでしょうか?

中国の和平案について。
プーチンは、「西側とウクライナは受け入れる準備ができていない」といいました。
これは、「西側とウクライナのせいにして、習近平の和平案をやんわりと断った」ということです。

参考@中国が発表した「停戦案」要旨はこちら。

http://j.people.com.cn/n3/2023/0224/c94474-10212676.html

習近平の和平案は、具体的なものではありません。だから、習近平は、プーチンの合意をとりつけ、「具体案」に進みたかった。

ところが、プーチンが、「いや、西側とウクライナは準備ができていないだろう」といったので、話が進展しませんでした。

プーチンは、「そんなことより武器をくれ!十分な武器さえあれば、ウクライナ軍に勝てる!」と主張。
しかし、習近平は、約束はしません。ロシアに武器を供与すれば、欧米から制裁されることになる。習は、GDP2%以下のロシアのために、世界GDPの半分を占める欧米日と争う気は(現状)ないのです。

プーチンが中国から欲しいのは、正直「武器だけ」。
ところが習近平は、にこにこしながら断るので、怒りを隠すのに苦労したことでしょう。

そして、プーチンは、憤りをみせることができません。なんといっても彼は現在、国際刑事裁判所に参加する123か国で、オフィシャルに【戦争犯罪人容疑者】なのです。ロシアを支持する国は、ベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリアしかない。

しかし、「中国が支持してくれる」といえば、「完全に孤立している」とはいえないでしょう。
だから、結果はどうあれ、「中ロ関係は最高です!」という必要がある。

NHK3月22日。
<中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領の首脳会談が21日行われ、両国の緊密な関係を誇示しました。
会談後の共同声明ではウクライナ情勢をめぐって具体的な解決策が示されない一方で、両国と対立を深めるアメリカを強くけん制しています。

ロシアを訪問している中国の習近平国家主席とプーチン大統領の首脳会談は、21日、首都モスクワのクレムリンで、両国の主要な閣僚も参加して行われました。

会談後、共同声明が発表され「両国関係は歴史上最高のレベルに達し、着実に成長している」として両国の緊密な関係を誇示しました。>

3月20日のメルマガで、
<しかし、習近平もプーチンも、「中国とロシアの関係は、歴史的に最高レベルだ!」などと宣言し、良好な関係をアピールすることでしょう。>
と書きました。

そして21日にいわれたことは?

「両国関係は歴史上最高のレベルに達し、着実に成長している」
言葉もほとんど同じだったのは興味深いです。

▼習近平 >>>>> プーチン という関係

いくつか気づいたことに触れておきましょう。習近平とプーチンの関係についてです。

プーチンは、2000年に大統領になりました。習近平は、2012年に共産党の総書記になりました。トップに立った時、習近平は、自分が目指す「長期独裁政権」をすでに築いていたプーチンを尊敬していました。

しかし、立場は徐々に逆転していった。あたかも、ムッソリーニとヒトラーのごとしです。

ウクライナ侵攻後、習とプーチンの関係は、「皇帝と王様」のような関係になっています。

こちらの動画をみてください。

https://www.youtube.com/watch?v=2w0S9c09fn0

習近平とプーチンが会談しています。注目して欲しいのは二人の目線です。
習近平は、まっすぐプーチンを見つめています。
プーチンは、一瞬習の方を見て、目が合うとすぐ下を向いてしまいます。

これは、プーチンが柔道家なので日本化して「目をみれなくなった」のではありません。
ロシア人は普通、目を見て話します。
プーチンが習近平の目を直視できないのは、「そういう関係」ということでしょう。

つまり、習近平 >>> プーチン ということです。

▼習近平、「大統領候補」ミシュスティンを品定め

もう一つ気づいたことを。
習近平の一行は、ミシュスティン首相と閣僚たちとも会談しました。

https://www.youtube.com/watch?v=nwcOcFdzK-w

習近平は、プーチンに「年内に中国に来てください!」と招待した。
さらに習は、ミシュスティン首相にも、「年内に中国に来てください」と招待したのです。
これは、何でしょうか?

プーチンは、ロシアの独裁者でナンバー1です。名目上のナンバー2はミシュスティン首相です。プーチンが死ねば、ミシュスティン首相が、「大統領代行」になる。

そして、大統領選挙が実施されます。
プーチンは、「のどのガン」「血液のがん」「すい臓がん」「パーキンソン病」「精神疾患」などで、いつ死ぬかわからない状況。(逆に、重病でも、医学の力で長生きする可能性もありますが。)

だから、習近平は、「次の大統領がどんな男か見ておこう」と考えたのでしょう。
そして、習は、ミシュスティン首相の言動に満足だったようです。

しかし、プーチンが死んだらミシュスティンが大統領になるとは限りません。ミシュスティンは、名目上のナンバー2です。しかし、「実質的」ナンバー2は、安全保障会議書記ニコライ・パトルシェフ。ニコライ・パトルシェフは、息子のドミトリー・パトルシェフ農業相を次期大統領にして院政をしようとしています。

現状ロシアでは、

・プーチン続投派(来年の大統領選でプーチンが出馬し、そのまま続投する。)

・パトルシェフ派(病気のプーチンに引退してもらい、ニコライ・パトルシェフの息子ドミトリーを後継大統領にする。)

・ミシュスティン派(プーチンが死んだら、憲法の規定どおり、首相のミシュスティンが大統領代行になる。)

・FSB、SVR常識派(ウクライナと和解し、中国の属国から脱却し、欧米とも和解する。)

にわかれているようです。

中国としては、
・プーチン
・ミシュスティン
・パトルシェフ
皆、「中国属国派」なので、「誰でもいい」のですね。
しかし、「FSB、SVR常識派」が勝つと、欧米と和解するので困ったことになります。

▼中ロ経済協力の真実

「欧米日がロシアに制裁を科しても、中国とインドがロシア産原油、ガスを買うので意味がない」という人がいます。これは、ある程度その通りでしょう。実際、中国とインドは、ロシアからの資源輸入を急増させています。時事3月21日を見てみましょう。

<ロシアのエネルギー大手ガスプロム(Gazprom)は21日、ロシア産天然ガスを中国に輸送するパイプライン「シベリアの力(Power of Siberia)」を経由した中国へのガス輸送が日量ベースで過去最高を記録したと明らかにした。

ガスプロムは声明で「ガスプロムは要請された量を供給し、中国への日量のガス供給で新たな歴史的記録を樹立した」としている。>

これを見ると、「本当にその通りだな」と思います。

その一方で、「The Moscow Times」3月20日付には、「ロシアは、いくらで中国にガスを売っているのか?」という話が書かれています。

https://www.moscowtimes.ru/2023/03/20/putin-nazval-sdelkoi-veka-ubitochnii-gazoprovod-sila-sibiri-v-kitai-a37366

そこに、こんな部分があります。

<2014 年のクリミア併合後に急いで締結された契約条件は、クレムリンによって秘密にされている。
しかし、中国へのガス価格が、欧州むけの市場価格や契約価格よりも数倍低いことはすでに明らかだ。

 現在、ガスプロムは、1000 立方メートルあたり約 290 ドルで中国にガスを送っていると BCS のアナリスト・ロナルド スミスは、中国の税関データに基づいて見積もっている。
 これは、欧州の顧客が契約条件に基づいて支払う金額の 3 分の 1 以下だ。

12 月末の時点では、1,000 立方メートルあたり約 1,000 ドルだった。 したがって、中国への割引率は約 70% だ。>

中国は、ロシア産天然ガスを、欧州諸国が輸入するより70%安い値段で買っている!
しかも、ロシア企業は、人民元を受け取っている。
そうなると、中国は、「ただ同然でロシア産天然ガスを輸入できている」といえるでしょう。

ロシアが昨年2月24日にウクライナ侵攻を開始した時、プーチンは、「欧州はロシアに厳しい制裁を科せない」と確信していました。
たとえば、欧州最大の経済大国ドイツは、天然ガスの55%をロシアに依存していたのです。
プーチンが、「厳しい制裁はこない」と考えたのも当然でしょう。

しかし、1年経って、ドイツは、ロシアからの天然ガス輸入をほぼゼロにすることに成功しました。
もちろん、それで、ドイツ国内のガス料金、電気料金は暴騰しましたが。
それでも、「1年でロシアへの依存度をゼロにできた」というのはすごいことです。

そして、ロシアは、欧州向けの石油、ガスを他国に売る必要がでてきた。

中国は、ウクライナ侵攻がはじまる前も、石油ガスで困っていたわけではありません。
困っていないところにロシア企業が、「買ってくれ!」と泣きついてきた。

強い立場にある中国は当然、「安ければ買いますよ」となります。そして、
「欧州よりも70%低い価格なら仕方ないから買ってあげましょう」となった。

こんな感じで、ロシアは、中国に資源を人民元で供給する「属国」になりました。

戦争開始1年で、プーチンとロシアの没落ぶりはすさまじいものがあります。
プーチンは、アメリカからの自立を目指した。そして、ウクライナに侵攻した。
その結果、アメリカの属国ではなく、中国の属国になってしまったのです。

ここまでの話、ほとんどの人にとっては、「びっくり仰天」でしょう。
しかし、「びっくり仰天」していない人たちがいます。

昨年9月に出版された、
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を読んだ人たちです。

この本の265pには、「ウクライナ戦争、最大の勝者は中国」とあります。
理由についてはいろいろ書いていますが、例えば、

<ロシア最大の顧客である欧州は、ロシアからの資源輸入を大幅に減らす決意を固めています。そうなると、ロシアは欧州に輸出できなくなった天然ガス、石油、石炭をどこかに輸出する必要がでてきます。

主な輸出先は、中国になるでしょう。「強い立場」の中国は、当然大幅な割引を期待できます。そして、ロシアに「人民元決済」を要求するようになるでしょう。

そうなると、中国は「タダ同然」で、ロシアの資源を輸入することができ、しかもロシアを「人民元圏」に取り込むことができるようになります。>(266p)

この本が出版されて半年が過ぎ、まさに予想どおりの展開になっています。

では、ハートランド・ロシアを飲み込んだ中国は、世界の覇権を握るのでしょうか?

見通しを知りたい方は、

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をご一読ください。