先日、「黒海でアメリカの無人機墜落」「アメリカが墜落時の動画を公開」のニュースを読みました。しかし記事には「動画からはロシアの戦闘機が無人機を墜落させた場面はない」とあり、ふうん、そうなのか、戦争が激化しないよう大人の対応をしているのかな?なんて単純に考えていました。

無人機の写真を見たらかなり大きく、損失額も大きいだろうし情報機密の点でもこれは大変なことなのでは?とは思いましたが。

昨日、ポーランドとスロヴァキアがウクライナに戦闘機を供給するというニュースを読みました。
「なんでポーランドとスロヴァキアなんだろう? 東欧でロシアに近いからかな?」くらいに思って、読み流していました。

今日のロシア政治経済ジャーナルで、この二つの出来事には関連があることがわかりました。
今日の記事をご紹介します。

※先ほど、「国際刑事裁判所がプーチンに逮捕状を出した」とのニュースが出てきました。
これもビッグニュースになるかもしれないですね。

(以下引用)

核超大国アメリカとロシアの間で、大きな事件が起こりました。
ロシアの戦闘機が3月14日、米軍の無人機に接触し、墜落させたのです。

CNN.co.jp 3月15日。
<米軍は14日、黒海上空を飛行していた米空軍のドローン(無人機)の「MQ9リーパー」がロシア軍の戦闘機と接触してプロペラを損傷し、墜落したと発表した。>

どんな感じだったのでしょうか?

<米空軍によると、MQ9が黒海の公海上空を飛行していたところ、同様に公海上空にいたロシア軍のSu27戦闘機2機のうち1機が意図的にMQ9の前を飛行し、燃料を放出した。
その後、戦闘機1機がMQ9の後部のプロペラを損傷させたという。
これを受けて米空軍はMQ9を公海に墜落させることを余儀なくされた。>(同上)

さて、ロシアは、この件について、どういう立場なのでしょうか?

<ロシア国防省によると、ロシア軍の戦闘機が侵入機特定のために緊急発進した。
国防省は「モスクワ時間午前9時30分ごろに、MQ9は急な動きをした結果、制御不能な状態に陥り、海上に墜落した」と述べた。
同省は「ロシアの航空機は搭載している兵器を使用せず、ドローンと接触もしていない。無事に飛行場に戻った」と説明した。>

さて、どっちがウソをいっているのでしょうか?

ロシア国防省の否定を受けて、アメリカは、映像を公開することにしました。

https://www.youtube.com/watch?v=SBnTerM9fyQ

これを見ると、「やはり」というか、ウソをついていたのは、ロシア側のようです。

▼無人機攻撃を指示したのはプーチン?

ここから、あまり報道されていない情報です。
ネタ元は、元モスクワ国際関係大学教授ソロヴェイ氏です。

彼は、
・ロシアがウクライナに侵攻する
・ロシア軍は、苦戦する
・プーチンは、動員せざるを得ない状況になる

ことなどを、それが起こるずっと前から予測していました。
「予測がよくあたる」ということで、欧米メディアも注目し、時々引用される人です。

ソロヴェイさんは、今回の無人事事件について何を語っているのでしょうか?

以下の動画で、最初からこの件を語っています。

https://www.youtube.com/watch?v=O7FYoYKsvyY

内容を要約しておきましょう。

・米軍の無人機が墜落して、プーチンはとても満足した。

・これを指示したのは、プーチン自身だ。

・プーチンは、アメリカに「対立を激化させる準備ができている」ことを見せたかった。

・アメリカは、彼がした挑発を我慢することにしたとプーチンは思っている。

・しかし、アメリカも対立を激化させる準備はできている。

・だがアメリカは、経済的手段や、「他国」を使う方法を好む。

・無人機墜落事件の直後、アメリカは、「どこかの国がウクライナに戦闘機を供与することに反対しない」と声明をだした。

・ここ(無人機墜落事件と戦闘機供与決定)には、因果関係が存在する。

・アメリカは、無人機が墜落させられたことで、追加制裁を検討しはじめた。

・制裁は、ロシアの軍産複合体が対象になるだろう。

・アメリカの無人機を墜落させたことで、プーチンは満足したが、それをするべきだったかどうかは大きな疑問だ。

要約ここまで。

ソロヴェイ氏の話の中で、私が「なるほど~」と思った箇所は、どこでしょうか?

「無人機を落とされた報復として、アメリカは、他国がウクライナに戦闘機を供与することに反対しないことにした」という部分です。

実際、どうなのでしょうか?

無人機墜落が3月14日。
2日後の3月16日に何が起こったのか?

<ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は16日、旧ソ連製の戦闘機4機を数日中にウクライナに供与すると発表した。
ロシアによるウクライナ侵攻開始後に北大西洋条約機構(NATO)加盟国がウクライナに戦闘機を供与するのは初めて。
ドゥダ大統領また、将来的に追加供与も行う方針だとした>

3月14日、ロシア軍機が米軍無人機を墜落させた。
3月16日、ポーランドがウクライナへの戦闘機供与を決めた。

ソロヴェイ氏は、「この二つには因果関係がある」といいました。それで私は、「なるほど~」と思ったのです。

▼プーチンの「戦術脳」が引き起こす悲劇

ソロヴェイ氏のいうとおりであれば、プーチンは、米軍の無人機を墜落させて幸せでした。

しかし、そのせいでアメリカは、「ウクライナにどんどん戦闘機を送っていいよ!」とNATO加盟国に許可を出した。

結果どうなるのでしょう?
ウクライナは、NATO諸国から戦闘機を受け取るでしょう。

これはゼレンスキーがずっと前から望んでいて、得ることができなかったものです。

ゼレンスキーは、長い間「戦車の供与」を求め、今年1月末ようやく目標を達成しました。
アメリカ、イギリス、ドイツが戦車の供与に同意したのです。

ゼレンスキーは、即座に「戦闘機もくれ!」と要求。
欧米諸国は、「なんぼなんでも図々しすぎないか?」と引き気味でした。

しかし、ゼレンスキーには、図々しくならざるを得ない事情がありました。

私は現代ビジネス1月19日付で、「大きな戦いが近づいている」と書きました。

https://gendai.media/articles/-/104869

理由は、プーチンが1月11日、ロシア軍のトップ・ゲラシモフ参謀総長をウクライナ特別軍事作戦の総司令官に任命したこと。

そして、2月半ば、予想通り「大きな戦い」がはじまりました。

ロイター2月14日。

< 北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は13日、懸念されていたウクライナでのロシアの新たな大規模攻撃がすでに始まっていると述べた >

< ウクライナ侵攻から1年が近づく中、ロシア軍は13日、ウクライナ東部のバフムトを攻撃。NATOの事務総長は、長い間恐れられていたロシアの大規模攻撃が始まったとの見方を示した>

そして、現状ウクライナ軍が苦戦を強いられています。

ゼレンスキーは、このような状況を予想して、
「戦車をくれ!」「戦闘機をくれ!」と要求していた。

そして、戦車はゲットした。しかし、戦闘機に関して、アメリカは慎重な姿勢でした。

↓の映像を見ると、バイデンが戦闘機供与を明確に否定し
ています。
https://www.youtube.com/watch?v=QGLzKSsMCxE

ところが、(おそらく)プーチンが、「米軍無人機を墜落させろ命令」を出したことで、
アメリカはNATO加盟国に、「どんどん戦闘機供与してもいいよ!」とGOサインを出してしまった。

結果困るのは誰ですか?
そう、ロシア軍ですよね。

こういう悪循環のことを私は、

プーチン戦術脳の悲劇

と呼んでいます。

2014年3月、プーチンは、サクッとクリミアを奪いました。
戦術的大勝利です。

しかし、これに対し欧米日は制裁を科した。結果、ロシア経済はまったく成長しなくなりました。

ロシアは、プーチンの1期目2期目(2000~08年)年平均7%の成長をつづける高成長国家でした。
ところがクリミアを併合した2014年から2020年までの成長率は年平均0.38%まで下がったのです。

これを私は、戦略的敗北と呼びます。

今回のウクライナ侵攻もそうです。私は、ロシアがウクライナに侵攻する前から、

「ロシアが侵攻すれば、戦闘に勝ったとしても、戦略的敗北は不可避」

と書いてきました。

@例、
現代ビジネス2022年2月16日付
◆全ロシア将校協会が「プーチン辞任」を要求…! キエフ制圧でも戦略的敗北は避けられない
破滅的な侵攻を回避できるか

https://gendai.media/articles/-/92504

その後の展開は、ウクライナ軍が予想以上に善戦していること以外、ほとんど予測通りになっています。

今回の事件もそうですね。プーチンは、サクッと米軍無人機を墜落させました。
これは戦術的勝利です。

ところが、結果戦闘機が大量にウクライナに入ってくる。
これは、戦略的敗北といえるでしょう。

現在世界で起こっている悲劇の根本は何でしょうか?

核超大国の大統領が、目先のことしか見ることができない

戦術脳であることなのです。