ウクライナに軍事ドローンを輸出したり、ウクライナ戦争でも影響力を及ぼしているトルコ。
そのトルコのエルドアン大統領の行動と行動基準について、ロシア政治経済ジャーナルの記事をご紹介します。

(以下転載)

先日、「カザフスタンのトカエフ大統領が、プーチンを裏切った」という話をしました。

「まだ読んでない」方はこちら。

https://www.mag2.com/p/news/543532

今度は、トルコのエルドアン大統領が、プーチンを裏切りました。どういう話なのでしょうか?

▼トルコ、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を支持へ

プーチンは、ウクライナ侵攻の理由の一つに、

「ウクライナのNATO加盟を阻止すること」

をあげています。その目的は、達成されるかもしれません。

ところが、「副作用」が出てきました。

これまでNATO非加盟で、中立を維持してきた北欧のフィンランドとスウェーデンが、一転NATO加盟を目指すようになった。両国は5月18日、そろってNATO加盟申請を行いました。

「ウクライナのNATO加盟を阻止しようとしたら、
フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟したくなった」
プーチンは、驚愕したことでしょう。

しかし、希望もありました。

独裁者同士仲良しのトルコのエルドアン大統領が、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に反対してくれている。

トルコはNATO加盟国ですが、エルドアンは独裁者なので、欧米と複雑な関係にあります。実際、エルドアンは、欧米より、プーチンといい関係にありました。

東京新聞3月28日。

<(トルコは)NATOの反対を押し切って2020年10月、ロシア製地対空ミサイルS400を導入。
当時のトランプ大統領を激怒させたこともあります。
また、両国は経済的には関係を深めています。トルコは天然ガス輸入の4割以上をロシアに依存しています。
2020年にはロシアから黒海を経由してトルコに天然ガスを送る全長930キロ超のパイプラインが完成しています。>

そして、加盟国の一国でも反対すれば、フィンランドもスウェーデンもNATOに入れないのです。

ところで、どうしてトルコは、フィンランド、スウェーデンの加盟に反対なのでしょうか?
両国が、トルコからの独立を目指すクルド人の活動家をかくまっているからです。
(クルド人活動家は、エルドアンから見ると、「テロリスト」「分離主義者」になります。)

しかし、私は6月25日号で、こんなことを書きました。

<中立国だったフィンランドとスウェーデンがNATOに加盟申請しました。
現状トルコが反対していますが、いつまでも反対しつづけることはできないでしょう。>

そして、実際エルドアンは、一転両国のNATO加盟支持に回ったのです。

読売新聞オンライン6月29日。

<北大西洋条約機構(NATO)へのスウェーデンとフィンランドの新規加盟を巡り、加盟に反対していたトルコが28日、テロ組織の活動抑止などの要求が受け入れられたとして加盟支持に転じ、北欧2国のNATO入りが固まった。>

これで、フィンランド、スウェーデンのNATO加盟が確実になりました。
プーチンは、地団駄を踏んで悔しがったことでしょう。

▼エルドアンの行動基準

エルドアンがプーチンを裏切るのは今回がはじめてではありません。

ウクライナ軍が善戦していますね。その大きな理由は、トルコがウクライナに、軍事用ドローン「バイラクタルTB2」を輸出しているからです。

ロシア軍が首都キーウに迫った時、ウクライナ軍はバイラクタルを使い、ロシアの戦車部隊を破壊しつくしました。それで、バイラクタルは、歌にもなっています。

https://www.youtube.com/watch?v=QW8TID50L8I

最近では、こんなニュースも。

産経新聞7月4日。

<ウクライナの駐トルコ大使は3日、ウクライナで盗まれた穀物を積んだロシアの貨物船がトルコの関税当局に「拘束された」と述べた。
大使は穀物を押収したいとの意向を示し、4日にトルコの捜査当局と協議する予定だとしている。>

エルドアンの行動は、とても興味深いです。

プーチンと仲良し。
アメリカの反対を押し切ってロシア製地対空ミサイルS400を導入。
ロシアとトルコをつなぐガスパイプラインを建設した。

その一方で、ウクライナに軍事ドローン「バイラクタル」を与え、ロシア軍に大きな打撃を与えている。

フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に反対してプーチンを喜ばせた。
しかし、支持に転向して、プーチンを悲しませた。

これは、何なのでしょうか?

要するに、エルドアンは、「自国の利益のみ」を貪欲に追求している。
プーチンとか、トランプさんと同じ系列の指導者ということなのでしょう。

自国ファースト。実をいうと、中国やインドも同じです。

確かに二大国とも、ロシアと通常の貿易関係をつづけています。そして中国、インドは、ロシアからの石油、ガスの輸入を激増させている。(30%割引価格で輸入しています。)
しかし、両国とも「セカンダリー・サンクション」をおそれて、制裁品の取引は行っていないようです。

結果、4月末時点で、中国の対ロシア輸出は38%減少しました。

ダイヤモンドオンライン6月30日。

<ロシアの友好国であり、ウクライナ戦争前の2021年にはロシアの総輸入の4分の1を供給していた中国の対ロ輸出も激減している。

「米国の輸出管理・制裁法では、中国企業がロシア向け機密品の販売禁止に違反すると、重要な技術、商品、通貨(主要な基軸通貨発行国は全て制裁に参加している)を入手できなくなる可能性があるとされている。中国の行動はこのリスクを反映している。

侵攻後の対ロ輸出は、2021年後半と比較して38%減少し、非制裁国の平均と同水準となっている」(同レポート)>

というわけで、「中国、インドがいるから、ロシアは大丈夫」というのは怪しいですね。

3月2日に行われた国連総会のロシア非難決議。賛成は141か国でした。

棄権と意思を示さずが47か国だった。この中に中国、インドも入っています。
この47か国は、「中立」といえます。

しかし、どういうわけか、とてもたくさんの人が、「棄権」「意思を示さず」の国々を、「ロシアの味方」にカウントしています。

これは、おかしいでしょう。もちろん、中国は、心情的にはロシアの味方に違いありません。だからといって、「制裁破りをしてロシアを助け、セカンダリーサンクションをくらう」ほどの決意はないのです。

これは、その他の国々も同じことです。

ちなみに、「ロシア非難決議」に反対した国々がロシア以外に4か国ありました。
北朝鮮、シリア、ベラルーシ、エリトリア。
これが「ロシアの味方のメンツ」です。とても「強力な布陣だ」とはいえません。

ロシア、ウクライナ東部ルガンスクの戦闘では、なかなか健闘しているようです。
実際、ルガンスク州のほぼ全域を支配下におくことに成功しました。
(一方で、南部ヘルソン州では、ウクライナ軍が押しています。)

しかし、ウクライナ侵攻前から書いているように、

【大戦略的敗北】は必至です。

ウクライナとの戦闘に勝っても、「地獄の制裁」はつづいていく。
ロシアの国際的信用は失墜し、味方はシリア、ベラルーシ、北朝鮮、エリトリアだけ。

「ルガンスク州を制圧した」

4か月以上かけてあげた【戦術的戦果】。
ですが、【大戦略的失敗】を取り戻すことは不可能です。