近頃、ロシアで毎年行われる生番組『プーチンホットライン』が延期されました。
それで、プーチンの健康状態が懸念されているようです。
『ロシア政治経済ジャーナル』から、北野幸伯さんの記事を転載します。

(以下『ロシア政治経済ジャーナル』より転載)

ウクライナ戦争がつづいています。もうすぐ4か月。

ロシア国内では、何が起こっているのでしょうか?

反プーチン勢力内でもっとも話題になっているのは、
「プーチンの健康問題」です。

プーチンは、

・ガン(喉頭がん、すい臓がん、血液のがん)
・パーキンソン病
・パラノイア

などを患っており、肉体も精神もボロボロだとか。

こう書くと、「プーチンが死んで戦争は終わるのですね!」と思いがち。

プーチンが病気なのは間違いないですが、「だからすぐ死ぬ」という話ではありません。
がんでも、治療して治ったり、かなり長生きする人もいます。

ところで、最近話題になったのは、プーチンが毎年恒例の「プーチン・ホットライン」を延期したことです。
これは、プーチンが国民からの質問に、4時間ぶっ通しで答える生番組。

「延期したのは、病状が悪化して、4時間生放送には耐えられないから」と、反プーチン勢力の誰もが考えています。実際その可能性はあります。

そして、「後継者」の話もぼちぼち出始めています。

候補に挙がっているのは、

・メドベージェフ前大統領、前首相
・キリエンコ元首相
・ミシュスティン首相
・ソビャーニンモスクワ知事
・ドミトリー・パトルシェフ農業大臣
・ドミトリー・コバリョフ大統領府局長

などです。

私は、この中で

・ミシュスティン首相
・ドミトリー・パトルシェフ農業大臣

の二人が有力なのかなと思っています。

もちろん、はっきりはわかりません。そもそもプーチン自身が決めていない可能性も高いの
ですから。

▼シロビキの勝者ニコライ・パトルシェフとは?

プーチンの支持基盤は、主に

新興財閥(オリガルヒ)
シロビキ(諜報、軍、警察など)

です。

プーチンは、大学を卒業し、KGBに入りました。
東ドイツで1985年から1990年まで諜報員として働いていた。

ソ連崩壊後は、KGBの後継機関FSBの長官にまでなった男です。
だから、彼は、シロビキしか信用できないのです。

ところで、シロビキには、5人有力者がいます。

・ショイグ国防相
・ボルトニコフFSB長官・
・ナルイシキン対外情報庁長官
・ゾロトフ・ロシア国家親衛隊隊長
・パトルシェフ安全保障会議書記

です。
ところが、ウクライナ侵攻で、5人のうち4人に「傷」がつきました。

まずショイグ国防相。この方は、ウクライナ侵攻前まで、後継者最有力でした。
ところが彼は、ウクライナ電撃戦に失敗した。
戦争が長期化したことで、プーチンの信頼を失ったのです。

次にボルトニコフFSB長官。彼も、「電撃戦失敗」の責任を取らされる立場です。
というのも、プーチンは、FSB第5局からの「楽観シナリオ」に基づいて、ウクライナ侵攻を決断した。

FSB第5局の報告は、

・ロシア軍が来れば、ゼレンスキーは逃亡し、政権は短期間で崩壊する

・ウクライナ国民は、ゼレンスキーネオナチ政権にうんざりしており、ロシア軍がくれば、花束をもって大歓迎するだろう

といったものでした。

ところが、ゼレンスキーは逃亡せず、ウクライナ国民は強い抵抗をつづけています。

5局のベセダ局長は処分されましたが、ボスのボルトニコフも、ウクライナ戦争が終われば責任を問われるでしょう。
いずれにしてもプーチンは、ボルトニコフへの信頼を失っています。

ナルイシキン対外情報庁長官。

彼は2月21日、「ルガンスク人民共和国、ドネツク人民共和国独立承認」の是非を問われ、
「西側に最後のチャンスを与えましょう」と発言しました。
これで、忠誠心を疑われることになりました。

ゾロトフ、ロシア国家親衛隊隊長。
ロシア国家親衛隊員の中で、「ウクライナの戦場に行きたくない!」と辞める人が続出しています。

元々国家親衛隊は、「国内の治安維持」のために存在している。「なんで、外国にいって、戦わなければならないのだ!」と。

それで、ゾロトフは、プーチンの信頼を失いました。

というわけで、ウクライナ侵攻後、シロビキ有力者5人のうち、4人がプーチンの信頼を失いました。
一人だけ、「傷がついていない」のが、

ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記

なのです。彼が現在、ロシアの「実質ナンバー2」です。
(名目上のナンバー2は、ミシュスティン首相。)

ニコライ・パトルシェフとは、どんな男なのでしょうか?

1951年生まれで、プーチンより1歳年上。そして、プーチンと同じく、レニングラード生まれ。
レニングラード造船大学を卒業後、KGBに勤務するようになりました。

1999年8月、プーチンの後を継いで、FSB長官に。
2008年から、安全保障会議書記を務めています。

ニコライ・パトルシェフは、プーチンと同じ市で生まれ、プーチンと同じくKGB、FSBで出世し、プーチンと同じ世界観を持っています。
それで、プーチンが、「現状もっとも信頼している男」なのです。

▼ドミトリー・パトルシェフとは?

ところが、ニコライ・パトルシェフは、次期大統領候補にはあがっていません。
おそらく二つ障害があるのでしょう。

一つは、彼がプーチンより1歳年上だということ。
もう一つは、パトルシェフが「強すぎる」ということ。
プーチンは、彼を信頼していますが、「強すぎる後継者」を嫌います。

そこで、「後継者候補」にあがってきたのが、

ニコライ・パトルシェフの長男ドミトリー・パトルシェフ(44歳)です。

ドミトリー・パトルシェフは現在44歳で、農業大臣を務めています。
その前は、ロシアの大手銀行VTBの副頭取、ロスセリホズバンクの頭取、ガスプロムの取締役などを務めていました。

要するに、ドミトリー・パトルシェフを大統領にして
プーチンとニコライ・パトルシェフが「院政」を行う
というシナリオなのです。
もちろん確定ではありません。

▼プーチンが死ねばミシュスティンにチャンス

このシナリオは、「病気ながらもプーチンが生き続けること」を前提としています。

プーチン的には、

1、病気ながらも死ぬまで大統領をつづける

のが上策でしょう。しかし病状が悪化して、執務が難しくなるかもしれない。

その際は、

2、弱い大統領を立てて、院政を行う

これが、次善の策です。

3番目。

これもあり得るのですが、プーチンが病気で亡くなる。
そうなると、憲法の規定に従い、ミシュスティン首相が「大統領代行」になります。
その後選挙が実行されて、ミシュスティン大統領が誕生する。

ミシュスティンは、何者なのでしょうか?
この方は、連邦税務局の長官だった人で、全然シロビキと関係ありません。
そして、戦争に関する発言が少ない。

それで、シロビキ、新興財閥、さらに欧米、ウクライナ
皆が支持できる大統領になる可能性があります。

ミシュスティンが大統領になれば、戦争を止めることができる。

妥協点は、

・クリミア、ルガンスク、ドネツクの地位を決めない

つまり、ロシアは、

「クリミアは、ロシア領」
「ルガンスク、ドネツク人民共和国は独立国家」と主張。

ウクライナは、

「クリミアは、ウクライナ領」
「ルガンスク、ドネツクはウクライナ領」と主張。

しかし、決着はつけないまま、「無条件」で停戦する。こんな展望も見えてきます。

結局、ウクライナ戦争の行方は、

「プーチンの健康」

に大きく左右されるのです。

では、彼はいつまで生きるのでしょうか? 
それを知っているのは、神様だけです。