私が、ウィーンへ音楽三昧の旅を企て始めた頃。
当時、非常勤で教えていた私大での先生仲間に、海外の情報に詳しい人が居て、私の旅行の為に、オペラ座のスケジュールやウィーンフィルの日程などを調べてくれた。
その中で、ワグナーの「ローエングリーン」モーツァルトの「フィガロの結婚」プッチーニの「トゥーランドット」は、出演者たちの顔ぶれが魅力的だったので、チケットを予約する為に、手紙をまずオペラ座に送ってみた。
まだその頃国立オペラ座は、ネット予約のシステムを導入していなかったのだ。
楽友協会の方は、アドレスがわかったので、メールでウィーンフィルの特別演奏会のチケットを申し込んだ。
担当者の個人名で、丁寧な返信メールがすぐ届いた。
その予約が完了して、改めて航空券も予約した。たしか、成田を12時頃に出発すると、当日の夕方にはウィーンに到着する直行便だった。
木曜日に着いて、翌日は一日ゆっくり休んで体力を温存。
土曜日の午後に、ウィーン・フィルを聴きに行った。
ウィーン・フィルの母体は、国立歌劇場のオーケストラなので、基本的に彼らの仕事は毎晩歌劇場で弾く事であり、オーケストラとしてのステージ上での演奏会は、通常昼間に行われる。
定期演奏会はじめ、お正月にNHKでも放映される「ニューイヤー・コンサート」も開始時間は午前中である。
まあ現在は、習慣も変わってきているらしいけれど・・。
その日の演奏会の最初の曲は、リヒャルト・シュトラウスの「メタモルフォーゼン」だった。
初めて聴いた、サイモン・ラトルの指揮。
世界一と謳われる楽友協会黄金ホールの名器の様な音響の中で、その豊かで匂い立つような弦の音色は、私をまるで大きな共鳴箱の中に誘い込んでいくかの様であった・・。
数十年来、再訪する日を待ち望んでいた私の期待を更に大きく包み込み、ウィーンフィルの響かせる独特の音色は、改めて私を静かな感動へと導いてくれたのだった。
その日の夜は、オペラ座では「ローンエングリーン」が公演された。
連チャンは、ちょっと欲張りかなとは思ったのだけれど、演奏会が終わってみると、歩いて10分くらいのオペラ座に、何と大勢の人々が足早に向かったのは心強かった。
しかも、オーケストラ・ピットを覗いてみれば、先ほど楽友協会で演奏していた顔ぶれの多くが、早くも自分の持ち場に座って演奏の準備をしていたのだ・・。