森の生活 | 還暦過ぎたピアニスト

還暦過ぎたピアニスト

青が好き。色も、響きも、そしてその意味も。若々しい躍動的なイメージがあり、未熟な初々しいイメージもある。「ヨーロッパの赤には、青が一滴」という発想も素敵だと思う。シニアになった今も、できれば青の近くで、楽しみたい・・。

ハンティングが趣味のスワヴェックは、チェルナーに着くと、車でまず森の様子を見て回るのが常である。私達も、便乗することが多い。


「来てごらん」と言われて、車から降りて空き地を見ると、不規則で大きな穴の跡がいくつもあった。


「これは、猪が食べ物をを探して土を掘り返した跡だよ。この柔らかさは、つい最近のものだね。」というので、ちょっと怖くなって、


「通常、動物たちが活動するのは、何時くらいなのかしら・・?」と、一応確認してみた。


「大体は、夜中だよ」と言われて一安心はしたものの、ではハンティングとは夜中にするものなのか、と急にリアル感が出てきて、色々質問した。


大体、数年前に森をジョギングしていた主人が、夕方だったにも係わらず、猪が道を横切っていくのに遭遇した、という因縁の場所である。夜中と聞いても、安心はできない。


その夜の夕食に出てきたソーセージは、交通事故で倒れていたバイソンの肉をヤーツェックのお兄さんが燻製にした、といった生活圏の人達でもあるのだ・・。



パーティが終わって翌日、リトアニアで開催される学会へ、ピステックさん、トーマス等、三台の車で連なって出かけた。


ポーランドとリトアニアは、お互いにヨーロッパ・ユニオンの国なので、現在は国境も素通りできて、時代の流れを感じた。


数年前に、やはり彼の車で、ポーランドから、リトアニア、ラトヴィアを通過してエストニアへと行った頃は、国境を超えるのに毎度、ずいぶん時間がかかったものだったけれど・・。


学会の主催者にも係わらず、スワヴェックは実に精力的で、会が無事終わると翌日には、朝食を終えて皆にさよならをすると、早々に又、チェルナーへと車を走らせた。


次の日は温かな陽気で、お庭にあるブランコ型のベンチで、ぼんやりと日向ぼっこをしていたら、「キノコを採ってきた・・」と言って、籠の中を見せてくれた。


そして、歩きながら「ちょっと来てごらん。見せたいものがあるから・・。」と言われた。


後ろに付いて歩いて行くと、隣にあるヤーツェックの、まだ建築中の別荘の裏庭が、先日みかけた様な猪の掘り起こした穴の跡で、それも数倍の規模で踏み荒らされているのが見えた。


少なくとも、10頭以上は来ていたのだろう、と言う。


「昨日までは普段通りだったから、これは昨夜から今朝の間に侵入されたんだよ。庭の周りの塀が、ちょっと開いていたので、其処から入ってきたんだろう。」


そういえば、昼前から隣の庭にトラクターがやってきて、数人の人達が何やら工事をしていたのを、見るともなく見ていたのだが、どうやら彼らは塀を修繕していたらしい。


スワヴェックの家は、周りに塀をめぐらせて、建物に近づくとセンサーが感知して灯りが点くシステムになっているが、隣はまだ建築中なので不用心だったのかも知れない。


動物と共存するという、危険と隣り合わせの生活を、垣間見た瞬間だった。