晴れ



目が覚めたら、たくさんのテントに囲まれていた。

昨日はお祭りだったと聞いて、すごくがっかりした。

僕もお祭りを見たかった。

ゆうぼくみんの人たちのテントだと聞いてびっくりした。

僕のお母さんも遊牧民だったとおじいさんが言っていた。

おじいさんはお母さんが嫌いだったから、

お母さんとゆうぼくみんの悪口を言っていた。

でもゆうぼくみんの人たちはみんな優しい。

テントのハタとルークのマントが同じような模様だから、

ルークもゆうぼくみんなのか聞いたら、違うと言われた。

ルークの先生のマントを着ていると言った。

ルークの先生がゆうぼくみんなのか聞いたら、そうかもしれないと言っていた。

ゆうぼくみんの人はま法が使える人が多いらしい。

ゆうぼくみんの人にま法が使えるか聞いたら、

ま法は使えないけどうらないが出来る人はいると聞いた。

うらないが出来る人に僕の事をうらなってもらおうと思ったけど、

ルークに止められた。

僕の未来は複雑だから、うらないをする人が困ってしまうと言われた。

でも僕はいろいろ聞いてみたいと思ったからこっそりうらなってもらいに行ったら、

僕のことはうらなえないと言ってすぐにどこかに行ってしまった。

やっぱり困らせてしまったみたいだ。

今日はゆうぼくみんの人からいろんな話が聞けて楽しかった。



とん とん とん とん とん とん



雪深い森の奥。心地よく響く乾いた音。



とん とん とん とん とん とん



白い雪と晴れた空。屋根のとがったテント群。



とん とん とん とん とん とん



太鼓に合わせて踊る人々。色鮮やかな幾何学模様。

はたはたとはためく布の群れは、予期せぬ客を誘い出す。



とん とん とん とん とん とん



雪になろう 雪になろう

雪になって大地にそそぎ 風になってあなたを守ろう



とん とん とん とん とん とん



雪になろう 雪になろう

雪になって大地を覆い 壁になってあなたを守ろう



とん とん とん とん とん とん



雪になろう 雪になろう

雪になって大地に溶けて 水になってあなたを守ろう



誰もが寒さに戸口を閉ざす、そんな真冬の森の中。

軽快な太鼓の音と、混ざり合う男女の歌声に惹かれ

旅人が2人、森の奥に迷い込んだ。

こんな季節に旅をする者も珍しいが、どうやら

こんな雪深い森の中で何かの祭りが行われているようだ。



「すごい!きれいだね!おにいちゃん、早く来て!」



ソラは馬車を降りて走り出した。

色とりどりにはためく旗が、ソラの心を誘い出す。



とん とん とん とん とん とん



「遊牧民のタキタの祝いか・・・・・」



驚きを隠せない様子のルキウスは、オッカーを引いてゆっくり近づく。

この大地にまだ国というものが存在しない時代から、

独自の文化と規則を基に移動しながら生活する少数部族。

常に移動しながら生活する為、出会えることはごく稀だ。

それでも外貨を稼ぐ為、時折町で芸を見せる。

その独特な模様の民芸品も、町の人々に評判がいい。

どうやら今日は、遊牧民の人々にとっては冬の神の祭りらしい。

独自の宗教を持つ彼らの祭りは、必ずしもこの国の暦通りとは限らない。

タキタとはこの国で言えば沈黙の女神の事で、遊牧民達にとっては

空より降りて全てを覆って静寂に戻す「雪」を司る神様だ。

予期せぬ客にも嫌な顔一つせず、遊牧民達は祭りのパンを振舞ってくれた。

外側はパリッと香ばしく、中はふわふわでほのかに甘い。

そこにバターを塗って食べるらしいのだが、バターは大きな器に入れられて

他の品と一緒に祭壇に捧げられていた。



「おにいちゃん、おにいちゃん、このパン、お父さんのパンに似てるね」



パンを食べたソラは驚いたようにルキウスを見上げる。



「おにいちゃん、おにいちゃん、僕ね、この歌聞いたことがあるよ」



たき火を囲んで踊る遊牧民の人々を見ながら、ソラはそんな事をつぶやいて。



「おにいちゃん、おにいちゃん、この模様、お兄ちゃんのマントと似てるね」



はためく旗に触りながら、ルキウスのマントを眺めた。



「そうだね」



多くを語らないルキウスは、全てのものを見渡すように人々を眺めるばかりだった。

歌を歌い、踊りを踊り、ソラはすっかり遊牧民達と打ち解けて、

遊牧民の間に伝わるさまざまな昔話を聞いていた。



「春から秋にかけて生命が生まれて育ち、そして老いて朽ちていく。

 その中で崩れた大地のバランスを清浄に戻してくれるのが冬であり雪なんじゃよ。

 人の崩れた気のバランスを治すには、昔からバターを食べると良いと言われとる。

 だから浄化の祝いの宴には、必ずバターを捧げるんじゃよ」



長老はソラの愛らしさに目を細めながら、そんな話をしてくれた。



「僕も雪になればよかった。」



急にそんな事を言い出したソラに、ルキウスが不思議そうな顔をした。



「僕も雪になってお母さんを守ればよかった。そしたらお父さんは寂しくなかったのに」



このバターはお母さんの味がする。ソラはそう言ってまた一口パンをかじった。

ソラは母親の事をあまり覚えていない。それでも記憶の片隅に残るかけらは

ソラの小さな胸をしめつけるには十分だった。



「ソラ、きっとお父さんも同じように思っているよ」



ルキウスの優しい慰めにも、ソラの心は晴れないままで。

ソラはパンを見つめてじっと何かを考えていた。



「おにいちゃん、僕、このバターをお父さんにも食べさせてあげたい」



「そうだね、少しだけなら魔法で取っておく事もできるけど・・・作り方を聞いておくかい?」



バターは本来日持ちのしない食品だ。普通の状態で長く持ち歩く事は出来ない。



「作り方?」



「そうだよ。この旅が終わって家に帰って、ソラがお父さんに作ってあげたらどうかな?」



「うん!そうする。僕、お父さんにお母さんのバターを作ってあげる!」



遊牧民の女性達から聞いたバターのレシピはルキウスがソラの日記にメモしてあげた。

その日記を抱いて嬉しそうにはしゃぐソラ。お母さんのバターという変な歌を歌っている。

その微笑ましい光景を、遊牧民達も暖かく見守っている。

ルキウスは鞄からまたも小さな空きビンを取り出して、バターを一すくいビンに入れた。



「ソラの大事な味覚の素。どうやら無事に見つけられたみたいだね」



祭りはまだまだ続いている。

そろそろ夕刻、



みんな今宵は朝まで楽しく踊り、そして大事な誰かを思いながら歌うのだろう。







今日は朝から雨が降っていた。

僕はカゼを引いてしまって、朝から体がだるかった。

ルークは雨がふっているのにそのまますすんだ。

今度はルークかオッカーがカゼを引いてしまうかもしれない。

寝ているとペンダントが気になってしかたがなかった。

外そうとしたらルークに止められるので

今日はルークからこのネックレスの黒い石について聞いた。

ルークはこの黒い石はオニキスだと言った。

おじいさんが森の神様のオオワシの彫刻をする時に目に入れるやつだ。

その話をルークに言うと、おじいさんをほめてくれた。

おじいさんはいろいろちゃんと分かっているらしい。

森の神様の目は森の全部を正しく見ることができるから、

僕にも正しいものが見えるように、これをはずさないでと言われた。

正しいものってなんだろう?

これをしていたら正しいものが見えるのかな?

女神さまもこのネックレスをしていたから見えたのかもしれない。

ルークはすごく宝石にくわしい。

おじいさんはどれに何の石を使うか意味があると言っていたから、

僕ももっと勉強しないといけないと思った。

カゼが治ったらルークにもっといろいろ教えてもらおう。
はれ



今日は朝からくしゃみが出て、体がすごくだるかった。

おにいちゃんにはかぜだと言われた。

おにいちゃんがくれたくすりはすごくヘンな味でまずかった。

どうして苦いのに甘い味がするんだろう?

馬車がすごくゆれるので頭が痛くてたいへんだった。

今日は外にでられなくてつまらなかった。

おにいちゃんがお湯とジャムでジュースを作ってくれた。

でもやっぱりくすりはまずかった。
満月の夜でした。

黄金色の冷たい輝きでその他の小さな輝きを覆い隠した満月は、

自信に満ちた我が物顔でちっぽけな世界を見下ろしていました。

張りつめた空気はほんの小さな動きにも反応し、震えるように波打ちます。

雪が黄金の光を反射して、まるで昼間のように明るい



そんな、ある夜



休憩に選んだ場所は林の中の大岩のそば。

幾つもの小さな岩も折り重なって、風除けにはちょうどいい。

馬を馬車から外し休ませて、ルキウスは岩をかまどにして火をおこす。

パチパチと火のはぜる音が聞こえ出すと、

とたんに辺りを覆っていた冷たい輝きが消え失せた。

小さく広がる暖かいオレンジ色の裏で作り出される濃い影が、

明るいと感じていた世界も実は闇の中だったと改めて実感させる。

今日は、風の少ない穏やかな1日だった。

今年の冬の寒さはもうしばらく続くだろうか?



小さな土鍋でスープを作る。旅の間の決まった食事。

ほとんど食事をしないルキウスも、夜のスープは口にしているようだった。

食事の間もあまり言葉は交わさない。

ルキウスはカイトをじっと見つめる。カイトはルキウスを盗み見る。

交わらない視線と心。

それでも、暖かな炎に包まれた心地のよい時間。



食事が終わってしばらくした頃、オレンジの光が弱まり冷たい気配が迫ってきた。

そろそろ寝るにはいい時間。

しかし、カイトは何故かふと大岩を見上げた。

黄金に輝く満月に照らし出され荒々しい姿。

純白の雪の衣が輝いている。

強く硬い銀の輝き。



あれは本当に月の光の反射だけ?



ルキウスの静止も聞かず、雪を被った大岩に上る。

意外と上りやすいその岩肌は、まるで自分を誘っているよう。

あっという間に上りきれば、そこに光り輝く女性の姿があった。

月の光に透ける肌。銀に輝く衣が優雅に広がる。



「女神さまだ」



思わず声が出てしまえば輝く女性が振り返った。

そしてそっと口を開く。



「そうかしら?ほら、よ~く見て?」



くすくすと笑う女性はいつの間にか消えうせて。

そこにあるのは一輪の大きな白い花だった。



「消えた!女神さまが花になった・・・・」



満月の夜に一夜だけ咲く大輪の白い花。

中から外に幾重にも広がる花弁一つ一つが月に照らされ輝いている。

大岩のくぼみに溜まった土埃から、まさに奇跡のように咲いた花。

その儚い寿命とは裏腹に、月を仰いで花開く姿は凛としていて荘厳だ。



「カイトには女神様が見えたのかい?」



いつの間にか大岩に上ってきたルキウスが、カイトを支えるように抱きしめた。

カイトはいまだにぼんやりと、花を見つめて目を離さない。



「いたんだよ。ここに。本当に見たんだ。」



「そう・・・・・白い花と女神様。どっちが本当の姿だろうね?」



「本当の姿?」



「ほら、よ~く見てごらん。真実はね、けして一つではないんだよ」



カイトは目を見つけたんだね

そう、ルキウスはつぶやいて、目の前の白い花から蜜をすくって小瓶に入れた。

風邪を引くからとたしなめられて、カイトはしぶしぶ馬車へと戻った。

毛布を被って目をつむっても、白い輝きがまぶしくて。

隣で休むルキウスと、ポツリポツリと言葉を交わす。



よく見てと言った女神様、見えそうな何かと見えない自分。



ルキウスはカイトの首にかかった黒い石のネックレスに触りながら

もっと自分をちゃんと見て、そして信じてあげないといけないよと言った。



今夜はどうにも眠れそうにない。



カイトはとりあえず白い花をよく見たいと訴えた。

雪の残る大岩の上、月明かりを頼りに白い花を描くカイト。

ルキウスはカイトにそっと毛布をかけて、カイトの気の済むまで見守っていた。
晴れ



今日はすごくきれいな満月で、すごく明るかった。

馬車を止めた場所は林ので、近くにすごく大きな岩があった。

岩の上の雪が光っているように見えたからがんばって岩の上にのぼった。

ルークがあぶないと言っていたけど、僕はちゃんと上までのぼった。

ルークはちょっと心配性だと思う。

岩の上には女神さまがいてすごくびっくりした。

女神さまは雪の上で光っていてまぶしいぐらいだった。

女神さまにどうしてこんなところにいるのか聞いたら、よく見てと言われた。

女神さまをよく見ると、女神さまは白い大きな花になった。

あの鏡を見てから僕の目はおかしくなってしまったみたいだ。

ルークは白い花を見て僕の目が見つかったと言った。

ほんとうにルークの言う事はいつもよくわからない。

ルークは白い花の中にたまっていたしずくを小さいビンに入れていた。

この白い花はすごくめずらしい花で、

満月の夜にしか咲かなくて朝になったらかれてしまうらしい。

ルークはこんな寒い時に咲いているのはすごくめずらしいと言っていた。

どうしてこの花が女神さまに見えたんだろう?

女神さまはよく見てと言っていた。

おじいさんもちょう金の練習をしている時によく見ろと言っていた。

よく見るってどういうことだろう?

ルークに聞いたら、僕は僕をちゃんと見ないといけないと言った。

なんだかもう全部がよくわからなくなった。

僕をちゃんと見るってすごくむずかしい。

とりあえず、僕は白い花をよく見てスケッチした。
くもり



今日はおにいちゃんに黒い石のペンダントをもらった。

カイトのちょうしがよくないからペンダントをしていてといわれた。

このペンダントはカイトがまよわないためらしい。

おにいちゃんはまほう使いだからいろいろなものを持っていておもしろい。

このペンダントはエンピツのようにとがった形をしていて

けっこうかっこいいと思った。

カイトはなにかなやみごとがあるのかな?

カイトも村を出てきた事をなやんでいるのかな?

おとうさんやおじいちゃんは元気かな?

おとうさんのパンが食べたいと思っていたら、

おにいちゃんがパンケーキを作ってくれた。

これしかできないといっていたけど、

おにいちゃんのパンケーキはおいしいと思った。
僕の名前はカイトだ。

僕はちょう金職人になる。

僕は花が好きだ。

僕はクモが嫌いだ。

僕はシチューが好きだ。

僕は辛いものが嫌いだ。

僕はカイトだ。

僕は誰だ。
晴れ



今日は町から出て先にすすんだ。

オッカーが足をけがしていたとおにいちゃんから聞いた。

たくさんの雪の中を歩いたから足がいたくなっていたらしい。

ぼくはぜんぜん気が付かなかった。

もうなおったけど、オッカーに毛皮のくつしたをはかせた。

まだ雪はたくさんあるけど、先にすすまないといけないから

オッカーにごめんねと言っておいた。

おにいちゃんにたのんで町でオッカーのすきな草を買ってもらった。

馬車の中がいろいろな荷物でいっぱいになってきた。

町のかべの外は前より雪が少ないように見えた。

南にむかっているからこれから雪は少なくなってくるはずだとおにいちゃんがいった。

早くあったかくなったらいいのに。

オッカーは今日もたくさん歩いたからごほうびにすきな草をあげた。
迷い込んだ不思議の国には真実の泉がありました。





店に入ったとたんに出迎えられた大きな物体に、カイトは思わず感嘆の声を上げた。

さほど高くもない天井から視界を覆うようにぶら下がっている古い大きなシャンデリア。

何層にも重なる飾台にはいったい何本のろうそくが立てられるのだろうか?

店の奥の大きなテーブルの周りには、それぞれ特徴のある3人の人影。



一人は若く愛嬌のある顔をした青年。

一人は少しけだるげな雰囲気を持つ艶やかな女性。

一人はかなり派手な服を着た老人。



まだ夕刻にも満たないこんな時間から、3人でぶどう酒を飲んでいる。

まるで共通点がなさそうな不思議な3人。

シャンデリア意外にも、店の中には変わったものがいっぱいだ。

古くて色褪せてしまったドレス、首が微妙に曲がったガラス細工の瓶、

ふと上を見上げれば、妙な羽飾りのような物が風もないのにふわふわとゆれている。



ぶどう酒を飲んでいた3人は、店に客が入ってきた事に驚いているようだった。



「お~う。よくきたな。まあ一杯どうだい。今年の出来はまあままあだぜ。」

「いらっしゃい。変なものばかりだけどゆっくり見て行ってね。」

「変なものばかりとは語弊があると思いますよ。なかなかいいもの揃ってますしね。」

「あら、普通なものに高い価値は付かないものよ。」

「まあまあ、こっち来て座れ。おい、ボトルもう1本」



3人はそれぞれ一斉に好きなことを話す。

それでいて、お互いの会話はそれなりにちゃんと成立しているようだ。



カイトは店内をぐるりと見回した。 心臓が妙にドキドキしている。

店にある全ての物が不思議で妖しくて魅力的に見えた。

大人達の会話などそっちのけできょろきょろしていると、

すぐ側の棚に並べてある銀細工の小物に気が付いた。

花を細工彫りにした丸い板。

何の花かはわからないが、きめの細かい素晴らしい細工だ。

思わず手にとって眺めていると、老人から声が掛かった。



「おお!坊主は小さいのに目が肥えてるな。それに目を付けるとはなかなかの目利きだ」



それは銀の台座の鏡だった。

何気なく裏返したそこには、カイトの姿が映っていた。



鏡に写る自分の姿



そしてそれはソラの姿



さらにそこに浮かぶ、もう一人・・・・・・・



「カイト!」



引き込まれるように鏡を凝視するカイトに、ルキウスの叫びが聞こえた。



「え?」



あわてて辺りを見回すが、カイトだけではなく他の3人もルキウスの声に驚いた様子だ。

足早にカイトに近づいたルキウスは、カイトの手から鏡を取り上げた。

厳しい顔で鏡を見て驚きの声を上げる。



「まさかこんな所に・・・・・カイト、今、鏡の中に何が見えた?」



「何って・・・・僕の顔・・・・・」



「そう・・・・・カイト、もうこれに触ってはいけないよ」



「・・・・でも・・・僕、その鏡が欲しい」



小さい声だったが、はっきりとそう言ってカイトはルキウスを見つめた。

鏡に映っていた自分の姿、そこに重なるようにして見えた影・・・・・

確かめなければならない。カイトは強くそう思っていた。



「だめだ。カイト、これは強い魔力のある怖い道具なんだよ」



「でも!」



「坊主、この鏡は売り物だ。坊主は鏡に見合うだけのお金を持っているのかい?」



割って入るようにそう老人に問われると、カイトは急にしょんぼりと項垂れてしまった。

もちろん、お金など持っていない。

今、自分の持っているもので何か鏡と引き換えになりそうなものは・・・・・・

カイトは自分の鞄をごそごそと探り、老人の前でその小さな手を開いた。

そこには偶然見つけた鳥の巣から拾った古い金貨。

金貨をつまんでいぶかしげに見ていた老人が、驚嘆の声を上げた。



「おお!こいつはすごい!なるほど、これなら鏡と引き換えにしても損は無いな!」



その金貨は、この国の誕生とともに生れた一番初めの記念硬貨。

100年以上前の貴重なものだ。



「カイト、そんなものどうしたの?」



「・・・・・鳥の巣が落ちてて、その中にあった。」



まるで過去にしてしまった悪い事を告白するかのような小さな声。

詰問するようなルキウスの言葉に、カイトは肩を落として下を向いてしまった。



「にいさんよ、どうやらその鏡は坊主が持つべきもののようだな」



そういって微笑む老人の目は、にこやかでありながら有無を言わせぬ強い光があった。



「価値あるものはちゃんと自分で行き先を選ぶ。シュメル金貨を偶然拾ったなんて

 考えられないことだよ。坊主は鏡に選ばれたのさ」



しばらく思案していたルキウスは短い息を吐いて小さく何かつぶやいた。

腰の鞄から小さな紙切れを出して鏡に載せ、そして鏡を両手で包み込み、ひと撫でした。

ルキウスがカイトに鏡を手渡した時には、紙切れは跡形もなく消えていた。



「とりあえず泉は封印した。だけど、これが怖い魔法の道具だという事を忘れないで」



カイトが鏡を覗き込んでも、さっきと同じようにカイトがちゃんと映っている。

しかし、あの時見えたと思った影はもう見えない。



「いいかい、カイト。鏡は確かに真実を映す。だけど全ての真実が本当に必要なものとは

 限らないんだ。鏡に惑わされてはだめだよ。自分の真実をきちんと選ぶ力をつけるんだ」











真実の泉は全ての真実を映し出す



表も裏も、光も闇も



真実の泉に映るもの







何を信じるかはあなたしだい