だから

何度も言うように突然やってきたんだ。

俺はなにも知らない。

会うのも初めてだし、名前を聞いた事もなかった。

あいつが誰だろうと俺には関係ないだろ。



は?



まぁ、本人がそう名乗ったからな。

一応それらしい印も見たし、

別に俺にとっては本物かどうかなんてどうでもいいし。



だから、俺はなにも知らないし、聞いてもないって。



大体、突然押しかけてきて飯食わせろだのベッドを貸せだの

迷惑極まりない上に、馬を王都に届けろとか

どれだけ厚かましいんだよ。



当然、あんた達が届けてくれるんだろうな、あれ。

荷車の中はわけの分からない荷物で一杯だ。



はぁ?



何で俺が王都に行かなきゃなんないんだ。



ああ~、もういい加減にいてくれよ。

まったく、宮廷に関わるとろくな事がない。



はいはい、行けばいいんだろ。

当然旅費はでるんだろうな。



あんた達も追いかけるなら早く行けば?



まあ、本当にヤツが本物の魔導師で、あの伝説が実話だっていうなら

今更追いかけても間に合わないだろうけど。



さあね~

大体、俺はあんな伝説信じてないし。



あたりまえだろ。



あんな爺さん達が子供に聞かせる夢物語。

子供の頃でさえあれが御伽噺だって分かってたさ。

その伝説の鍵が家にあるって言われてもなぁ。



ほら、追いかけるならさっさと行けよ。



なんか小さい子供を連れていたし、

案外まだその辺をうろうろしているかもしれないぜ。



だから、知らないよ。



小さい、そうだな5,6歳か・・・もう少し上か、そのぐらいの男の子だよ。

カイト、と呼んでたかな。

ほとんどしゃべらなかったし、おとなしい子だったよ。



ああ、もういいだろ。



王都に行くならそれなりの準備がいるんだ。

無事に届けて欲しいならこれ以上邪魔するなよ。



さあ、いったいった。

もう来るなよ!



どうくつの中に来てしまった。

やっぱりどうくつの中はうすぐらくて寒くていいところじゃない。

ルークはなんだか楽しそうだけど、ぼくはあまり楽しいと思わなかった。

ルークにちゃんと2人に別れられたら何をするのか聞かれた。

始めはぐに村に帰っておじいさんのところで修行したいと思っていたけど、

旅に出て何枚かスケッチできたから、もう少し色々見てみたいかもしれないと思った。

村にある花はすごくしゅるいが少ないということが分かったし、

大きい町にはいろんなお店があって、ちょうきんをする人もたくさんいる。

おじいさんは色んなことを知っているから、

きっと色んな町に行ったことがあるんだと思う。

ぼくももっといろんなところに行きたいかもしれない。

でも約束もあるしどうしよう。

ソラはどうするんだろう?

アカネにあやまったらゆるしてもらえるかな?

おじいさんがはやくお父さんとなかなおりしたらいいのにな。



晴れ



今日はどうくつの探検をした。

おにいちゃんはやっぱりすごいまほう使いだ。

カベにはなにもなかったのに、きゅうにどうくつの入り口になった。

さいしょは中はまっくらだったけど、おにいちゃんがじゅもんをいうと

いろんなところが明るくなった。

どうくつの中はとがっている所がたくさんあってすごく寒い。

そしてすごくしめっていてぬれている。

ここにはオッカーは入れないから、

昨日の小さいおにいさんの所であずかってもらった。

おとうさんによんでもらった本の話はほんとうだった。

ほんとうにどうくつがあったもん。

やっぱり大きなかいじゅうがいるのかな?

おにいちゃんはすごいまほうつかいだから

かいじゅうが出て来てもだいじょうぶだよね。

どうくつはすごくさむいし、とがった岩ばかりだから

ねるのがたいへんだけど、おにいちゃんが炭をいれた

カイロを作ってくれた。



争いの後、人々は良き王に恵まれた。

すべらかに国は整い、時は穏やかに過ぎていく。

神々が持つ幾千年の時間に比べ、人の寿命はあまりに儚くもろい。

たった数十年の時間を補うように、親から子へ、そして孫へ、

あらゆる知恵が御伽噺や神話として語り継がれていく。



たった150年ほど前の出来事

しかしすでに神話となったその話を本当に信じている者が幾人いよう?

ましてや実際に神話に出てくる洞窟に入ろうという者など

いるはずも無かったのである。







「何か御用ですか?」



重い木の扉から現れた青年は、まさに当時の彼そのものに見えた。

家も、庭も、森も、山も、昔となんら変わりなく

煙突から立ち上る煙まで、記憶の奥底に沈んでいた景色を蘇らせる。



雪に埋もれるように建つレンガの家。

大きな目の小さな青年。

色褪せるほど古い記憶は、もう誰のものだったのかも思い出せない。



「・・・・フィル」



思わず懐かしい名をつぶやいたのは、きっと自分ではないだろう。





「えっと、どちら様ですか?」



名前を呼ばれたことに少し警戒したのか、彼の声は硬いものだった。



「君は・・・・本当にフィルなのか?」



彼がフィルという呼びかけを否定しなかった事に驚いた。

そんなはずは無い、あれはもう・・・・・・思い出せないほど昔の事だ。



「ええ、そうですが?どちら様?」



「そんなはずは・・・君は、いったい・・・・」



呆然と彼の前に立つルキウスに、フィルはいっそう怪訝な顔をしてみせた。

眉間にしわを寄せたフィルの表情に、ふと違和感を感じる。



彼は・・・・違う。



そうだ、少し冷静になれば分かる事だ。

この家に住んでいるのだから、それが普通の事だろう。



「君は、フィリシオス・グロシーの血縁者、だね。」



「え?ええ。フィリシオスはぼくの曽祖父ですが・・・・お知り合い、ではないですよね?」



自分が生れる前に亡くなった曾お爺さんと、この目の前のえらく整った容姿の青年が

友人だったはずは無く、フィルの警戒心はますます高まっていく。



「はじめまして。ぼくは宮廷魔導師ブリテリセウス様の弟子、ルキウス」



剣呑な表情の青年になぜか嬉しそうな笑みを返し、

ルキウスは爽やかに自己紹介をしたのだった。



今からもう随分と昔の話

古くからこの地に住まうユートリア人と

西から渡って来たダホダ人の間で

大きな争いが起こりました。

突然その地に現れたダホダ人は

言葉も交わさず刃を持って

ユートリアの村々を駆け抜けました。

ダホダ人のあまりの残忍さに

ユートリアの英雄バルディウスも

ついに山脈のふもとに追い詰められてしまいました。

ダホダの野党達が目前に迫ろうと言う時

バルディウスは自らの片耳を切り落として空へと掲げ

この地に住む全ての神に祈りました。

すると残された耳より神クローティウスの声が響き

バルディウスとその部下達は山脈の体内へと導かれていきました。

バルディウス一行は山脈の中を2日間歩き続け

ついには山脈の東側

まだ誰も踏み入れたことの無い新しい地にたどり着きました。

突然消えたバルディウスを血眼になって探すダホダ人を

クローティウスの導きをもって攻め立てたバルディウスは

ついにダホダ人を元いた西の地に追い払ったのでした。

その後山脈を超えるための安全な道と

新しい地を手に入れたユートリアの英雄バルディウスは

神に教わった洞穴の出口に城を建て

新しい地に新しい国を造り

自らがその国の王となりました。

そして全てのユートリア人の未来を救った神クローティウスに感謝して

城を守る山々をクローティウス山脈と名付け

洞穴の入り口に守人を置いてクローティウスを祀ったのでした。



くもり



今日はルークの知り合いの家に泊まった。

ルークは知り合いだといったのに、その人が家から出てくると

すごくおどろいていていた。

知り合いって言ったのになんであんなにびっくりしたんだろう?

こんな誰もいないところに住んでいてさみしくないのかな?

家の周りはまっくらな森で、その向こうにおおきな山があって

明日はあの山に行く。

ルークの知り合いはすごく背が低くて、ぼくとかわらないぐらいで

なんだか子供みたいだった。

鳥のシチューはおいしかったけど、その人はずっと怒っているみたいだった。

ルークは仲良くしたいみたいだったけど、その人にきらわれちゃったみたいだ。

ぼくには優しくしてくれるから、早くルークと仲直りできるといいな。





そうだ、そうだ、思い出した。



たしかこの辺りだった。



ああ、随分昔の事だからなぁ。



すっかり忘れていた。



うん、ちょっと危ない橋ではあるけれど、まあ、なんとかなるだろう。



そういえば、鍵はどこにあるだろう?



まだ彼が持っているのかな?



はは、さすがにもういないよね。



う~ん・・・・鍵がないとちょっとめんどうかなぁ・・・



たしかふもとに住んでいたはずだ。



とりあえずそこに行ってみるしかないな。



なにか手がかりでもあればいいけど。







もう何年になるかなぁ。



昔過ぎて思い出せないよ。



誰も覚えていないかもね。



それじゃあ意味がないんだけどさ。



まさか塞がってたりしなよな。



はは、こんなところで役に立つなんて。



あ、でもあっちできっと怒られるなぁ。



・・・・・・



まぁ、なんとかなるだろ。











さ、見えてきたぞ。



クローティウス山脈だ。



一向は森の中を静かに進む。

さほど大きくもないホロつき馬車でも、潜り抜けるのがやっとの獣道。

あきらかに街道ではないその細い道は示すものは、

旅にはありがちなちょっとしたトラブル。



「う~ん、これはちょっと困ったかな」



まったく困ってなさそうな調子で道に迷った事を告げるルキウスに、

いささか呆れ顔のカイトを乗せて、オッカーはゆっくりゆっくり雪を掻く。

祭囃子に釣られてずいぶんと森の奥に入ってしまった。

もと来た道が小規模の雪崩でふさがった事による回り道も手伝って

すっかり道に迷ってしまったようだった。

本来なら元の街道に戻ろうと躍起になって道を探し回るところであろうが、

むしろ楽しそうにさえ見えるルキウスの様子に、慎重で少し臆病なカイトも

なぜか妙な安心感をもってこの事態を受け止めていた。

しかし・・・



・・・・さすがにちょっとまずいな。



カイトには楽しそうにさえ聞こえたルキウスの声音であったが、

実際の心中は、実はその言葉どうりのものだった。

雪深い森の中。

もちろん現在向かっている方角や街道の位置などは把握しているものの、

次の街までの道順としてはかなりの遠回をしなければならない。

季節外れの強行軍では、食料などの余分な用意も出来ていない。

それに、ルキウスが一番気になっているのはカイトとソラの様子だった。



ちょっとのんびりし過ぎたな。流石に王都までは遠かったか・・・・



ソラとカイト。

1つの体に2人の少年。

分かれていく家族の心を繋ぎ止める為、2人になった1人の子供。



ルキウスはその子に別々の体を用意すると約束し、2人を連れて旅に出た。

旅を始めて2ヶ月、ルキウスは新たな問題に気が付いた。



家族の元を離れた2人の少年は、同時に2人である理由を失った。



少しずつ少しずつ、2人の幼児化が進んでいる。

好み、感情、言葉使い。

このまま進んだ先に何があるのか、今はまだ分からない。

しかしこのままぐずぐずしていれば、ルキウスが望んでいる結果にはならないだろう。



さて、どうしたものか・・・・



オッカーの手綱をさばきつつ、ルキウスの頭はめまぐるしく回転していた。

もう、後戻りは出来ない。

回りだした歯車は、有無を言わせずルキウスを突き動かしている。



・・・・春はまだ遠いな



雪に埋もれた森を見ながら、全てを放り出してきた彼の地に思いを馳せた。

しかしそれも一瞬の事。

さらにめまぐるしく今後についての対策を頭の中ではじき出しながら、

少しでもこの遅れを取り戻どそうと、握った手綱をしならせてオッカーに激を送った。



晴れ



今日はゆうぼくみんの人とおわかれした。

一ばん仲良くなったおねえちゃんがパンとハチミツをくれた。

おねえちゃんのやくパンはおとうさんのパンとにてる。

早くかえっておとうさんのおてつだいをしたくなった。

おとうさんにはきこえないけど、

おてつだいできなくてごめんなさいとあやまっておいた。

アカネにも、ちゃんとやくそくしたのに

おとうさんをさみしくさせてごめんなさいとあやまっておいた。

ぼくは早くかえってちゃんとやくそくをまもるよ。



ああ、恐ろしい。

あんな子は見たことがない。

あの子はよく生きているよ。

まだ子供だからかしらね?

いつ成り立たなくなってもおかしくないね。

そりゃ、あのまま大きくなれば体の方がもたないだろうさ。

だから連れ出したんだろう?

あの子の母親?

知らないねぇ。

移動して生活しているのは私らだけじゃないからね。

遊牧民とひとくくりに呼ぶけどね、それはあんたがたの勝手な都合さ。

私らはちゃんと私らの名前を持ってる。

ま、あんたらにとっちゃどうでもいいことだろうがね。

私らにとっても、あんたらがどう呼ぼうがどうでもいいことさ。

ところでそのマント、あんたのかい?

・・・・そう。いや、なんでもないさ。

とにかく、これ以上私にあの子を近づけないでちょうだい。

光が強すぎて目が潰れてしまいそうだ。

あんたも気をつけるんだよ。

ああ、神様はいったい何をお考えなんだろうね。

あんな小さなうちからあんなにねぇ。

ああ、恐ろしい。

ああ、恐ろしい。