今日石になってしまったおじいさんにあった。


やっぱりこのどうくつはとてもこわい所だと思う。


でも色々なしゅるいの石があってそれはおもしろいと思った。


ルークに1つえらんでと言われたので、緑色でしまのはいったかっこいい石をえらんだ。


ソラはどんな石にしたのかな。


どうくつには石しかないから、石になったおじいさんに押し花をあげた。


おじいさんは石にいろんな事を聞いていいるとルークは言ったけど、


ぼくには何も聞こえなかった。


おじいさんはこのままずっと石なのかな。


ずっとうごけなくていやにならないのかな。


もうすぐ出口があるとルークが言ったので、今日は早足で歩いた。

   パンドーラー あらゆる贈り物を与えられた女性

    知恵と織物の技術 男を悩ます美貌と魅力

    音楽と治癒の才能 




そして 好奇心





「さあ、カイト。ここから気になる石を1つ選んでご覧?」



「気になる石?」



「そう。君の石。君の意思。君、そのものになる石だよ」



「・・・・・・よく分からない。」



「大丈夫。きっと見つかる。ソラはもう選んだし、カイトの石もきっとあるさ」



「この・・・・大きい石なんだか気持ち悪い・・・人間みたい」



「・・・・・・そうだね。その石はもともと人間だったんだよ」





ペネロペティティは貧しい村の貧しい家に生まれた

ペネロペティティは常に何かを欲していた

自分は何も持たずに生まれ、何も手に出来ていないと思っていた





    この世の全ての祝福をその身に受けたこの女性は

    この世の全ての災難と苦悩を封じた壺を持っていた







「これ・・・・・すごくきれいな緑。複雑な縞模様でかっこいいね」



「見つかったかい?」



「う・・・ん。よくわからないけど、きれいだからこれにする」





ペネロペティティの思いに反し、彼は少しの知恵と少しの力を持っていた

大地の声を聞く耳と、それを人々に伝える声を持っていた

声を聞き、伝えるうちにペネロペティティは大預言者と呼ばれるようになっていた





    封じの壺を持つ女性は、好奇心により壺の蓋を開けてしまった






「ねえ、ルーク。この石、本当に人間だったの?」



「そうだよ。彼は昔、大預言者として皆から称えられた人物だったんだ」



「そんな偉い人がどうして石になっちゃったの?」



「・・・・・・・彼は・・・・・きっと、開けてしまったんだろうね」



「何を?」






ペネロペティティは人々から賞賛された

ペネロペティティはもっともっとたくさんの声を欲しがった

人々からの声を欲し、大地からの声を欲した

そして、ペネロペティティは見つけたのだ

全てを教えるその声を

そして、彼は訊いてしまった

全てを語るその声を






    封じられていた災難と苦悩は1つを残し全て流れ出ていってしまった





「カイト、石が見つかったのならそろそろ行こうか」



「うん・・・・・ね、この人これからもずっとここにいるのかな?」



「そうだね。彼はこの石の声を聞いているんだよ」



「声?」



「そう。彼は石の声が聞こえる大預言者。石の全ての声を聞こうとして


 自分が石になったことにも気が付いていないんだ」



「じゃあ、この人生きてるの?」



「どうかな・・・・・彼はまだ声を聞いているから、生きているのかもしれないね」



カイトはふと何かを思いつき、背負っていた小さなカバンの中を探った。

突然の行動に、ルキウスは不思議そうに首をかしげる。

程なくして目的のものが見つかったのか、カイトは笑顔でそれを取り出した。

カイトがいつも大事にしている、様々なものをスケッチしたノート



「カイト、こんなに暗い中でスケッチはできないよ」



たしなめる様なルキウスの言葉も無視して、手の中のノートをめくる



「あった。ぼく、この人に押し花をあげる。」



「え?」



「だって、この人は動けないけど、ここは石ばかりだから。」



ルキウスに開いて見せたそのページには、いつかの青紫の花があった。



「生きている花は枯れちゃうけど、これなら大丈夫だよね」



そう、ルキウスに訴えかけるカイトの顔は、とても真剣なものだった。



「・・・・そうだね。花があれば、彼も寂しくないかもしれないね」



「うん」



ルキウスは嬉しそうに微笑むカイトから押し花を受け取る。


革鞄から取り出した2枚の透明な板で花を挟み、それを金属の枠にはめ込んだ。



「これなら花が崩れないし、色もちゃんときれいに見えるだろう?」



「すごいね、ソラの花とおそろいだ」



「そうだよ。ほら、ここに置いておけば彼にもきっと見える」



「うん。思い出してよかった。早く、この人の聞きたいことが聞けたらいいね」



「・・・・・そうだね。いつか、彼に全ての事が判る日が、くるといいね」



小さくつぶやいたルキウスの声は、ひどく悲しそうに聞こえた。

カイトがそっと見上げると、ルキウスは何故か少し羨ましそうに押し花が挟み込まれた板を眺めていた。



「さ、そろそろ行こう。きっと出口はすぐそこだろうから」



「うん」







ルキウスとカイトは歩き出す


ペテロペティティは動かない





    パンドーラーは慌てて封じの壺の蓋を閉める


    たった一つだけ壺に残った災厄は


    未来を全て分かってしまう災い



未来の事がわからないから、人は悩み、そして苦しむ


未来の事がわからないから、人は無駄な努力をし


未来の事がわからないから、人は絶望せずにすみ


未来の事がわからないから、人は希望をその手にする



全ての祝福


全ての災い



希望の為に全てを求め


全ての為に未来を失くす




あなたも探してみるといい


きっとあなたにぴったりの、希望という名の苦痛があるはず




だってほら、彼はいまだに探し続けているのだから







ほうほうほう  ふむふむふむ



うん?



なにやら違う気配がするの

ふむ

微かになにやら匂いがするの

はて

これはなんの香りかの



ふむふむふむ  ほうほうほう



これもいずれわかるじゃろう

なにしろわしは全てのことを訊けるのじゃから



さ、忙しい忙しい



一言たりとも聞き漏らす事はできぬのじゃからな

今日、石になったおじいさん会った。
おじいさんは石の前で石になっていた。
おじいさんはすごく昔のゆうめいなよげんしゃで
石に聞くことがたくさんあるから、聞いているうちに石になったんだろうって
おにいちゃんが言っていた。
でも石になっても聞くことはまだまだいっぱいあるんだって。
ぼくは石になるのはいやだと思った。
知りたい事だけ聞いて帰ればいいと思ったけど、
おじいさんは何が知りたいのか分からないんだって。
それも石に教えてもらうって言ってた。
おにいちゃんは本当は聞いたらだめだったのかもしれないと言っていた。
おじいさんにチョコレートをあげようかと思ったけど

おじいさんは石だから食べられないんだって。
チョコレートが食べられないのはいやだな。
おじいさんは一人でこんなところにいてさみしくないのかな?

おじいさんは自分が石になったことも知らないんだって。

なんだかすごくかなしくてこわかった。

ほうほうほう   ほうほうほう


うん?


めずらしいな、人の子か
誰ぞおるか
相手をせい


ふむふむふむ


うん?


誰もおらぬのか
わしは大変忙しい
誰もおらぬなら帰るがいい


うん ?


わしは今この世の全てを見通しておる
だから大変忙しい
ぬしらはすぐに帰るがよかろう


うん?


ここでこうして訊いておる
この石に訊いておる
だから話す暇もない
一言たりとも聞き漏らせぬ


うん?


ここで話すはアズロマカライト
脳を司り予言の石と呼ばれるアズライト
真実を見通す目といわれるマカライト
その二つが渾然一体となった時、全てを知り、全てを見る


うん?


そうさな
人はなぜワインを飲むのか?
風はなぜ東から吹き、西に抜けていくのか?
オオバコはなぜ苦いのか?
なぜ月は落ちてこないのか?
こういったことも全て知る事ができるのじゃ


うん?


そうじゃ、わしは全て知るためにここにおる
全て訊くにはまだまだ時間が掛かる
わしは大変忙しい
さ、用がすんだら帰るがいい


うん?


ほうほうほう
ふ~む
そうさな
なぜわしは知りたいんじゃろうな?


ふむふむふむ


それもいずれ分かるであろう
全てを見通すこの石は、全て知っているのじゃからな
さ、わしは忙しい
帰るがよい


うん?


まあ、よいじゃろう
小さな欠片くらいは問題あるまい
真実の目には魔よけの効果がある
予言の石は直観力や洞察力を高める
賢く使えよ
全てを知る双子石
ぬしらにはぴったりじゃろう


さ、わしは忙しい
もう十分じゃろう

帰るといい

今日もまだどうくつの中だった。
今日は起きたらルークにおんぶされていた。
子供みたいで恥ずかしかった。
起こしてくれたらいいのに。
今日はすごい夢を見たような気がするけど
全然思い出せなくてすごく残念だ。
でもすごく広くてきれいなところの夢だったと思う。
その話をルークにすると、そこは土が寝るところだと言っていた。
ずっとずっと昔に海だったところがちょっとずつ山になって
最後は全部砂になって、雨に流されてまた海に帰っていくらしい。
よくわからなかったけど、木もあんまりはえてなかったし、
草と岩だらけだったと思う。
なんでそんなところの夢を見たのか分からないけど、
ルークはどうくつにいるからだと言っていた。
やっぱちどうくつは真っ暗で寒いから早く出口がみつかるといいな。

ゴォォン  リンゴォォン


さらりと通り過ぎていく風に、わずかに髪を乱される。
思わず仰ぎ見た空には、足早に流れていく雲。
辺りを見渡す。
岩だ。なだらかな山肌に幾筋も列を成すように転がる灰色の岩。
そして緑のない木は不自然なほど背が低く、圧倒的に数が少ない。
それらの隙間を埋めるように生える草。
雲の近さから山頂付近だとわかる。
向かいの山の、そのまた向こうの頂にまで、この不思議な草原は広がっていた。
草原?こんな季節に?
洞窟に入る前にあれだけあった雪はいったいどこへ消えたのだろうか?

「僕たちはどうやら女神の目に留まってしまったようだよ。」

不意に届いた声にびくりと体を振るわせ、振り返る。
いったいどこから現れたのか、それよりここはどこなのか。
立ち尽くす自分に近づいてくるのは今自分がもっとも忌み嫌う人物。
ピーナッツバターのような深い色のブロンド。
ひょろりとした色白の体を幾何学模様のマントで包み、
いつもはめったな事では外さない黄色い色つきメガネを長い指で弄びながら
彼はこれまでの旅の中でも見た事のない含み笑いを浮かべていた。

「はじめまして。やっと会えたね。」

そう言ってよこすこの青年は、いったい何をどこまで分かっているのだろうか?

「名前を聞いていいかな?」

「・・・・・・アカネ」

「アカネ。僕は宝石使いのルキウス、よろしくね。」

「・・・・・知ってる。」

「そう、そうだよね。」

「ここ、どこ?私、家に帰る。」

とにかく家に帰れる道を探さないと、と一歩踏み出した時にはもう目の前にルキウスがいた。アカネと目線を合わせるように膝を付き、ほほに触れるようにそっと手を伸ばしてきた。

「触らないで。」

「ふふふ、ずっと、君と話したいと思っていたんだ。」

ルキウスはアカネの邪険な態度にもまったく動じず、嬉しそうな笑みさえ浮かべている。

「私は話したくない。どうして・・・・ずっと・・・・ずっとそのままでよかったのに。」

「ずっと?」

「ずうっと。あのまま、ずっと眠っていたかったのに・・・・」

「それが、君の望みなの?」

「だって・・・・それが、一番うまくいくんだもの・・・・なんで、こんな所にいるの?早く家にかえして!」

「でも、約束しちゃったからね。ソラとカイトに新しい体をあげるって。」

「そんなこと知らない。私には関係ない。」

男の子のような短い髪を乱しながら、アカネはすっかり癇癪をおこしてしまった。
そんなアカネを、ルキウスはじっとみつめる。

「関係ない・・・・君が、それを言うの?」

「だって、みんな勝手なんだもの。誰も私の言う事なんて聞いてないし、見てもないの。だからもう知らない。知らない知らない!」


涙目で地団駄をふむ。

そんなアカネの様子にルキウスはすっと目を細めた。

満足そうに、含みを持たせて。

「・・・・じゃあ、僕が君の望みを叶えてあげるよ。」

「え?」

ルキウスはじっとアカネを見つめる。眼鏡をいていない裸の瞳が、キラキラと不思議な色に輝いていた。

「君はずっと眠っていたらいい。心安らかに、末永く。今までたくさん気を使ってきたんだもんね?それぐらいは許されるさ。」

「え、ほんとに?あ・・・・でも・・・・みんなが・・・・」

「大丈夫。ちゃんとソラとカイトに新しい体をあげるから。僕は約束を守るし、ソラやカイトだって、君との約束を忘れたわけじゃないんだ。全て終わればきっと村に帰って、君との約束を果たしてくれるよ。」

「・・・・・・・・」

ルキウスの急な申し出に、アカネは戸惑った表情のまま黙り込んでしまった。
あのままでよかった、と口では言っているが、もうあのままに戻る事はないと分かっているからだ。


全てはすべらかに動き出し、そしてけして止る事はないのだから。

「だからね、代わりに僕のお願いを聞いてくれない?」

「え?」

ルキウスの申し出に、アカネが驚いて顔を上げた。
まさか、彼がそんなことを言い出すとは夢にも思っていなかった。

「君の望みも、カイトやソラの願いも、君が心配している君の家族の幸せも、全部僕が叶えてあげる。その代わり、1つだけ僕の願いを聞いてくれないかな?」

「わ、私が?・・・・私、何も出来ないし、何も持ってない・・・・・」

「大丈夫、アカネはね、今僕が一番欲しい物を持っているんだ。ずっとね探してたんだよ。」

「ずっと?」

「ああ、ずぅっとね。本当に長い間だった。だけどやっと見つけたんだ。だからさ、君の全ての望みを叶える代わりに僕にそれを譲って欲しいんだ。」

「そんな・・・・・私、本当に何も持っていないもん。」

「アカネ」

ルキウスの瞳はキラキラと輝いている。それはとてもうれしそうにも、苦しそうにも見えて、じっと見ているとなんだか胸が苦しくなった。

「・・・・・べ、別に、いいよ。」



「本当に?」



ルキウスは興奮したようにアカネの前に跪き、肩をつかんだ。



「お願い聞いたらほんとにちゃんとみんな仲良くなる?誰も怒ったりしない?」


「ああ、約束する。だから・・・・・君の体を僕に頂戴?」


「え?」






「僕が欲しいのは君が眠ってしまった後のその体だよ」








そして、世界は暗闇に包まれていく。







ゴーン ゴォォーン ゴォォォォーン






「約束だよ、アカネ」




ゴォーン リンゴォーン リンゴォーンン

ゴォン  リンゴォーン



「ほんとうに、よろしいのですか・・・・」

「うむ。なにを躊躇することがあろう。我が魔術は偉大なる先人達となんら引けをとることはない。」

「しかし・・・移してしまえばもう、戻る事はかないません・・・・」

「問題ない。」

「は・・・・・」

「ついに完成するのだ。偉大なる先人達にも成しえなかった大いなる技が。」

「ブリテリセウス様・・・・・」

「さ、用意をしろ。これで我は永遠になる。これが完成すれば我々は神と等しくなる。」



ゴーン  ゴォーン


「ルキウスだ」

「忌まわしい・・・・・あの気味の悪い目をごらん・・・・・」

「恐ろしい・・・・神を冒涜してまで生き続けるなどと、ブリテリセウスは悪魔に魅入られている・・・」


ゴォゥン ゴォォン

「よいか、必ず完成させるのだ。我ら人類の夢。至高の芸術。」

「はい師匠。必ず私が完成させてみせます。」

「幾人もの大魔導師の魂の結晶。我が代ではその希望を手にすることは叶わぬが、お前なら出来る」

「はい」

「よいな、ブリテリセウスよ。頼んだぞ。」

「お任せください。」

ゴーン ゴーン ゴーン

「おまえはこの国のもの。この国のための存在。それ以外は必要ない。それ以外では意味がない。」

「全ての事を知れ。しかし、見る必要はない。知っていさえすればよい。外に出る事は許さん。」

「私の宝。私の人形。私のために笑いなさい。私のために泣きなさい。あなたは私だけの愛玩具。」

「我のために魔法を使え。たったそれだけの事になんの不満ある?」

ゴォン ゴォォン

「くそ、何が足りない?あと少しのはずなのに。」

「おい!数が足りないではないか!いったい何をしている!」

「ブリテリセウス様、少しお休みにならなければ・・・・」

「これさえ完成させれば休む事など必要なくなるのだ。これさえ出来れば体など無意味だ。」

「しかし・・・・・」

「おい、もっと新鮮な血はないのか!?なければ今すぐ用意しろ!」

ゴーン ゴォーン

「ルキウス・・・・」

「化け物・・・・・・」

「何百年も生きているとか・・・・・」

「生き血を吸われる・・・・・」

「あの目を見ると魂を抜かれるらしい・・・・・」

「恐ろしい・・・・」

「恐ろしい・・・・・・」


ゴォォン  リンゴォォン


「では、ルキウスには俺の友になってもらおう」

ゴーン ゴォォーン ゴォォォォーン

ゴォーン リンゴォーン リンゴォーンン

どうしてこんな所にいるの?


なんで離れてしまったの?


あんなに約束したじゃない。


絶対守ってねって言ったじゃない。


せっかくうまくいっていたのに。


みんな仲良く笑ってたのに。


ひどい。


みんなひどい。


じゃあどうすればよかったの?


だって私じゃ無理なのよ。


みんな嫌そうな顔で黙るだけ。


あんなにお願いしたでしょう?


私は嫌なの。


私じゃ無理なの。


もうほっといてよ。


あれでよかったんだからほっておいてよ。


帰して。


早くあそこに帰してよ。


帰らなきゃいけないの。


早く帰らなきゃ。


もうあんなの見たくない。


私は寝てたらいいの。


それで全部うまくいくの。


だから早く家に帰して。

その山に入るのならば、鐘の音に気をつけなさい。

もしその音を聞いてしまったのなら、あなたは神に試される事になるでしょう。







洞窟に入ってから3日が過ぎていました。

最初は元気にはしゃいでいたソラも、目が覚めてからほとんど口を開かなくなりました。

伝説では英雄バルディウスは2日で洞窟を駆け抜けたとされていますが

線の細い青年と小さな子供の足取りでは、なかなか思うように進めません。

むしろこの暗闇では本当に進んでいるのかという疑問さえ湧いてきます。

小さな松明の灯りはあっという間に闇に吸い込まれ、足元を照らすのが精一杯。

それでも2人は寄り添うように一歩一歩確実に、前に進んでいくのでした。



ふと、頼りないオレンシ゛の灯りが揺らいだように見えたのは

幾度目かの休憩を終えてすぐのことでした。



光に釣られて顔を上げたルキウスが見たものは

うっすらと、しかし確かな存在感をもって暗闇を切り裂く一筋の白い光の帯。





ゴウ



そして微かに耳届いたものは、風の音に聞こえました。



「おにいちゃん、耳が痛い」



ルキウスが光の帯を不振に思う間も無くソラがそんなことを言い出しました。



「ソラ?」



急に起こった小さな変化は、たちまち2人を飲み込みます。



「耳が痛い」



ソラは耳を押さえてしゃがみこんでしまいました。

ルキウスが慌ててソラを抱え込みます。

その小さな体を庇う様にマントで包み込んだ時には

既に目の前に光の帯が迫っていました。





おいで





ゴォウ





「おにいちゃん、何かくるよ。」



「ソラ、目を瞑って。けして開けてはいけないよ。」



確かに音が聞こえるのに、2人の元にはそよ風すら届いていません。






おいで





ウォォォ





「おにいちゃん、じめんがゆれてるよ。」



「ソラ、僕にしっかり捕まって。けして動いてはいけなよ。」



それはあっという間に音と呼べる物ではなくなってしまいました。






さあ おいで






ォォォォオオオオ




「おにいちゃん、こわい!いやだ!やだよ!」



「ソラ!」







さあ 手を伸ばして 開きなさい   その扉を





オオオオオオオオオオオオオオ





その振動が洞窟全体を駆け抜けた時、

全てのものが2人の目の前から消えてなくなってしまいました。









ガァン ガラァン ガラァン



真っ白な世界が全てを支配し、2人の耳には遥か遠くに響く音が届きます。

刹那の時間に聞こえた音は村に正午を伝える鐘の音のようにも聞こえました。










運命の女神フォルトゥーナ



気紛れな彼女が鳴らす右手の鐘は運命の扉を開く鍵



左手に持つ天秤には、どちらに傾くとも知れない未来をのせて



彼女は悠然と微笑んでいる



彼らの運命は、いったいどちらに傾くのだろう



その山に入るなら鐘の音に気を付けなさい。



さあ、あなたにもフォルトゥーナのご加護がありますように。