求めていた冬景色
雪に閉ざされた丘陵がはるか遠くまで続く景色。
北海道の東部や北部に多い景色である。
「北」志向である僕はこんな荒涼とした景色が好きだ。
車を走らせながら、まるで北極圏にやってきた気分になりワクワクした。
先日、どうしても見たい景色があり、稚内方面へ車を走らせた。
寒々しい海岸を歩き、双眼鏡で波打ち際を遠くまで見渡してみるが、期待していたアザラシやトドの姿は見つからない。
海から続く丘陵地帯では時折珍鳥として北極圏から飛来するシロフクロウの姿にわずかな期待を掛けて探してみるが、無論姿はない。
モノトーンの世界に時折姿を見るのはオオワシやオジロワシだ。
生き物の気配に目を配りながら、そして地図を辿りながら遅々としてたどり着いた場所。
目の前に広がるのは山が海に突き出すように伸びた半島の景色。
そう、見たかったのはこの景色だ。
一見して北海道のあちこちに見るような景色であるが、自分にとってはこれが特別な景色なのである。
かつてこの周囲の海岸段丘上に先住民族の大きな集落があったという。
彼らは北方から北海道に渡来してきた海洋漁労民。
”北海道の知られざる民”、もう一つの先住民族だ。
今、目の前に見える景色は彼らが長い間生活の中で見続けてきた景色。
その景色を間近に自分の目で確かめてみたかった。
沖からやってくる冷たい風、顔に吹き付ける雪、微かな海の匂い・・・。
彼らは厳しい冬の生活の中でこの景色を見つめ、何を思っただろう。
寒さの中でただその事だけを想像した。
辺りを見渡し、この場の雰囲気を充分に感じ取り、最後に数枚の写真を撮ってこの場を後にする。
今から二十数年前の冬、あの著名な作家である司馬遼太郎氏もこの地を訪れ、この景色を前に先住の民を想ったという。
次回は無積雪期に訪れ、彼らの生活の痕跡を見てみようと思う。