卵をめぐる祖父の冒険 | ありのす

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話題の一冊だったので読んでみた。

史実としてはよく知らなかったのだけど、第二次大戦中、ドイツ軍侵攻によりレニングラードが包囲された時期があったらしく、その時期のレニングラード住人の体験談という形をとっている。


まったくのフィクションらしいけど、祖父の語りで入り込む冒頭といい、途中の陰惨かつ先の読めない展開といい、戦時中だからこそのめちゃくちゃな条件設定といい、本物といわれても信じてしまいそうなリアルさがあった。


主人公ともう一人の男は、外出禁止令にそむいた罰として、包囲網下で食料がほとんどないレニングラードで一ダースの卵をさがすように命令される。

大佐の娘の結婚式のケーキ用に。


市民が飢える中、充分な食料を持つ軍幹部との対比がなまなましい。

主人公達はあるはずのない卵をさがして、市内から郊外へと出かけていく。

食糧不足で人間の理性のふっとんだ後の姿とか、兵器として使われる動物、死が身近な人々のすがた、何より戦争のばかげたありようが次々に展開されていく。


多分映像化したらかなりスプラッタな感じになると思うのだけど、それでも全体を通して、物語に不思議な明るさがあるのは、主人公と行動を共にするすっとんきょうな脇役のせいかもしれないし、とにかく生き抜くために頭をめぐらす主人公の態度のせいかもしれない。

決して笑える話ではないのに、戦時下の阿呆らしいといってもいいくらいの人間の狂いぶり、状況の滅茶苦茶ぶりがあまりにあざやかなので、ユーモラスに見えるのかもしれないと思った。


ハヤカワというととにかく冒頭が長々しく退屈というイメージもあるのだけど、この作品は冒頭が割りと軽く、入っていきやすい。退屈とは無縁のままばりばりと読了した本


アメリカの映画にたずさわっている人が作者らしいが、大したストーリーテラーです。