まずは発表済みのデータをここに再録する(詳しくはこちらを参照)。
KTの9年間の長きにわたる「不思議な時代」2007-2015にぴったりと付合するように株式会社日本パルスからDVD「SING! SING! SING! 2007-2015」が発売されている。そのDVDのケースのなかに一枚の貴重すぎる栞が収められている。この期間のDMたちの短い短い手記である。DVD発売に際して後年書かれたのはものである。短いが無いより遥かに遥かにマシである。その文章を拾って行くことにしよう。もちろん動画そのものを載せることはできない。しかし出回っている海賊版等を添えて行く。(平松先生も,宮コーチも筆まめでなかったようだし,鬼籍の人たちである。卒業生も黙して語らない。学校も過去の宝を活用しない。T先生もマーチングそのものには詳しくない,というか興味がない。)
(1)2007年 第20回全日本マーチングコンテスト〔Line of DANCE〕
DM H. Kubota
当時は大きなルール改正が行われた年で,今までは無縁だった「規定演技」への挑戦の年でした。KTといえば「ハイステップ」のイメージを,如何に規定演技の中で独特のカラーを出すか苦労しました。また,初めてだったため,練習方法に随分悩みました。見どころはシングシングシングのダンスと,クラリネットのソロです。全国大会,銀賞だった悔しさはかなりありましたが,7年ぶりに行けた時の感動は今も忘れられません。
(106,105,104期)
しぃーしぃ-。返事せーへんでいいから。
いつも通りやること!顔だけやってて。なぁ。いつもその顔すること!怒られた時の顔ちゃうで,褒められた時の顔なぁ。めったにないけどなぁ。その顔,その顔。その顔いつもしていること。お客さんは橘のその顔を待ってるぅ。とにかく,めいっぱい楽しめ!一番いい笑顔で,今まで生きてきたなかで一番いい笑顔で。ええかぁ,このためにほんま涙流してきたんやから。このために汗流してきたんやから。このために痩せたんやから。でもないかぁ。ようさん食べてるもんな。冷静に!あがってもうたら,なにもかもなくなってしまう。ただ,気持ちは切るな!戦え!お前らの世界を見してくれ。お前らの顔を楽しみにしている。俺も楽しみにしている。ひとりのファンやから。がんばってな(生徒達から「はい」という返事)。
(握手しながら)頑張れよ,その顔,その顔。
泣くなぁ!泣くな,おい。
演奏曲は
アニー・ローリー(スコットランド民謡,磯崎敦博 編曲)
ザ・バンド・ワゴン(P.スパーク 作曲)
シング・シング・シング(L.プリマ作曲,岩井直溥 編曲)
この年から2年前の2005年に発明したダンシングSing×3を全国大会で初めてお披露目したことになるが。前年までとは異なる。前年までは「フェスティバルの部」でやっていたが,規則が改訂されてこの年から統一された「規定の部」で演技した。2006年以前の動画がないのでわからないが,ざっくり言って,前半の場内一周の行進が加わっただけであろう。後半のダンシングは,彼ら自身はある意味慣れていたのかもしれない。前半で減点されることもないだろう。ダンシングも他がやらないけど,斬新性に免じて大きくは減点されないだろう。しかし,滑らかなフォーメーションチェンジを見せるような場面がない。細かい繋ぎはランダムに駆け足して帳尻合わせのようなことをしている。銀賞がとれただけでも十分だと思う。
演技前にYコーチが気合を入れている時とか,演技後の引き上げのシーンでT先生に存在感を感じないな。YコーチもT先生がいる前で,堂々としているな。何の遠慮も感じないな。
(2)2008年 第21回全日本マーチングコンテスト〔Swing with us!〕
DM S. Akita
今年は今までのsingに改良を加えて,新しいKTに挑みました。目指すは全国大会金賞。新しい振り付け⋅音を自分たちのものにするのに,何度も練習を繰り返しました。関西大会前に怪我で出場できない部員がでたこともあり,全国大会は必ず全員で出場したいと気持ちが強まりました。念願の全国大会へ全員での出場が決まり,当日は緊張や不安よりも「私達のパフォーマンスを早く見てほしい!」そんな気持ちでいっぱいでした。部員の気持ちは最後の「HEY!」が全てを物語っていると思います。テーマは「Swing with us!」お楽しみください!
(107, 106,105期)
Yコーチのお言葉:
よーし,こっち来い。
やっとしんどい思いして,本番が来たから,もういつものやつ,「やりたい,やりたい」言うて,その顔で入ってきてよ。ぼくらにしかでけへん,私らにしかでけへんことを精一杯,力一杯やって楽しんでほしいねん。それが一番。最後の本番,これが3年生も,2年生も,1年生も力一杯,自分の持てる力を冷静に発揮してこい。お客さんはみんなお前らを待っていると思え。多分待っている。(生徒達笑い)多分待っている。みんなで作ったエンターテイメントをみんなでやってくれ。ええ顔で。ええなぁ?(生徒達「はい」)今日が頂点なぁ。これ以上いいもんがでけへんというところまで燃え上がれ。なぁ,頑張ってやろう。いつも通り。(生徒達「はい」)
演奏曲は
アヴェ・ヴェルム・コルプス(W.A.モーツァルト 作曲,大久保圭子編曲)
ザ・バンド・ワゴン(P.スパーク 作曲)
シング・シング・シング(L.プリマ作曲,岩井直溥 編曲)
スウィング・スウィング・スウィング(J. ウイリアムス 作曲,J. Bocook 編曲)
昨年度もよく似たことはやっていたが,この年から本格的に「ぐるぐる」をやり始めた。こういう早いスピードで前へ後ろへと二つの輪がぐるぐる回るような仕掛けはYコーチのアイデアであると思う。他校のオーソドックスな滑らかな曲線がゆっくりと綺麗に変化して行くようなフォーメーションチェンジとは全く異質な感じがする。いずれにしろ,このぐるぐるとダンスでKTのスタイルが確立仕掛けている年かな。金賞がとれたのだから認められたということであろう。問題はそれを何年も持続できるかということだ。
(3)2009年 第22回全日本マーチングコンテスト〔Let's dance all〕
DM Mai Taniguchi
(108, 107, 106期)
Yコーチ:一発楽しいのんを見せてくれ。真剣にやっていないとは言わへん。めちゃくちゃ楽しくやっているはず。で,やってて楽しいはず。楽しいショーを俺に見してくれ。(生徒たち「はい」)たぶん,たぶん,たくさんファンはおると思うけど,その中で一番のファンは俺やと思う。これだけしんどい思いしてきたんやから,夏からずっとしんどい思いしてきたんやから,1年生も怒られながら辛抱してやってきたんやから,始まったら,もうお前らのショーや。お前らしかでけへんもんがあるはず。一番おまえらが楽しめ。(生徒たち「はい」)それが一番大切なことや。緊張するな。
演奏曲は
カンタベリー・コラール(J.v.デル=ロースト 作曲)
ザ・バンド・ワゴン(P.スパーク 作曲)
シング・シング・シング(L.プリマ作曲,岩井直溥 編曲)
スウィング・スウィング・スウィング(J. ウイリアムス 作曲,J. Bocook 編曲)
ダンスと「ぐるぐる」が定番になってきたみたい。つなぎはほぼ全てで相変わらずバラバラに走って繋いでいる。たぶん,ダンスの振り付けが彼らの頭の中では一番重要なうウエイトを占めているのだろう。審査員は彼らのやっていることよりも,やっていないことを見ていると思う。しかし,これで金賞だから不思議だ。全国のレヴェルは高くなかったのだろう。
ぐるぐるという高速回転が評価されたのかもしれない。まるで曲芸だ。走りながら吹いているのである。ダンスしながら吹くよりきつそうである。パーカッションは外側に備え付けだからこういう曲芸に参加しなくても良い。ひょっとして,のちにピット楽器禁止になるが,それとこの技との関連性が深いような気がした。こういう軽業師集団が他校でもあったのか知りたい。
(4)2010年 第25回国民文化祭・おかやま2010,マーチング⋅バトントワーリングの祭典〔Catch Your Heart!〕
DM Ayaka Ohara
KTが広く知られるようになるのは2018のRP出場からである。この時期は,2012のRPにもまだ行っていない時期で,彼女のいう「全国各地へ」というのは現在の彼らの行動と比べるとささやかなものである。その一つが国民文化祭である。いまなら,ファンが殺到して数多くの動画が残されるであろうが,そういうことは全く起きていない。もっとも,ほんの十数年前であるが,まだカメラ撮影が今ほどお手軽なものでなかった。そういうわけで,ここでは手に入る第23回全日本マーチングコンテストの京都府予選のビデオを載せておく。この年は三出休みの年だったので,「特別演奏」で審査対象外であった。(気合が入らなかっただろうと思ってしまうけどな。)
「アメリカの有名なバンド」というのはDCIのCavaliersのことで,パーカッション部隊だけ来日している。DCIで修行した現マーチングコーチのSはこの2年後にKTに入学しているので,このときの来日とは関係がないと思う。
(109, 108, 107期)
Yコーチの送り出しシーンはなかった。
スーパーマリオブラザーズ(近藤浩志 作曲,星出尚志 編曲)
いつか王子様が(F. Churchill作曲,岩井直溥 編曲)
シング・シング・シング(L.プリマ作曲,岩井直溥 編曲)
(5)2011年 第24回全日本マーチングコンテスト〔Share Best Smile〕
DM H Asada
(110, 109, 108期)
鼻出る,鼻出る。
何怒ってるんや,お前。すごいショットになってるで。
その胸に抱け青雲の志(内藤淳一 作曲)
ザ・バンド・ワゴン(P. スパーク作曲)
シング・シング・シング(L.プリマ作曲,岩井直溥 編曲)
チュニジアの夜(J.D.ガレスピー作曲,真島俊夫 編曲)
スウィング・スウィング・スウィング(J.ウィリアムズ作曲,J. ボコック編曲)
三出休明けで時間的に余裕があったと思うが,演技内容は2009年度とさほど変化していない。「ぐるぐる」にはまだこだわっていたようだ。抜本的に刷新する余裕がなかったのであろう。今初めて思うことではないが,CGの人数がこの時代は多い。「フェスティバルの部」の影響をまだ色濃く残しているのだろうか?2006年以前のマーチングコンテスト関連動画を見たことがない。観てみたい。
この年はテレビ取材があり2012年1月にはRPに初参加で,KTにとってかなり重要な年である。もちろん,これらによりほらっちゃDMが世間に知れ渡った。
当時のKTのような部員数の少ない高校にとっては三出休み制度は過酷だっただろうな。生徒達の頑張りに涙が出る。
(6)2012年 第40回関西マーチングコンテスト〔We are Entertainer〕
DM A Yamaguchi
(111, 110, 109期)
細かいところは違いはあるが,構成は昨年までと大きくは変わらない。人数が多いため,いつも走って繋ぐ部分がよりばらばら感が目立っていた。また,1年生が多いためか少し音にもばらつきを少し感じた。ダンスの部分は個々人には激しい動きを感じるが全体のフォメーションは単純な形で固定された静の状態になっている。したがって,ステージショーだったら楽しいだろうが,マーチングとしてみたら,変化が乏しく面白味が欠けるのではと,これをみて初めて感じた。やっている本人たちは息切れするくらいの激しさを感じているだろうが,わたしは,ゆっくりしたフォメーションの連続的なきれいな変化を求めたい。
(7)2013年 第41回関西マーチングコンテスト〔Hit like sunshine〕
DM N Saito
(112, 111, 110期)
ザ・バンドワゴン(P. スパーク作曲)
(8)2014年 第27回全日本マーチングコンテスト〔Dream Come True〕
DM N Fujiwara
(113, 112, 111期)
キャッツ テールズ(P. グラハム作曲)
メリーゴーランド(P. スパーク作曲)
テイク ファイブ(P. デズモンド作曲,櫛田胅之扶 編曲)
スウィング スウィング スウィング(J.ウィリアムズ作曲,J. ボコック編曲)
シング シング シング(L.プリマ作曲,岩井直溥 編曲)
異端は異端なりに磨き続けてきて,ここにきてかなりの水準に達したと感じる演技だった。最初のトランペットソロ(そばに現Sコーチも一緒にいたが)が最高によかった。ファンを楽しませると言う基準で言うと金賞。しかし,これが銀賞だったのは不思議だ。たぶん,彼らが行わなかった点が審査されているのだろう。周りとの比較だし。ダンスはうまいし楽しい。彼らは最大限に体を動かしているが,そのダンスの間は隊形(フォーメーション)は静止しているのだ。動いているが止まっているのだ。たぶん,ダンスしながらは重心移動は難しいだろう。なにしろ,楽器も吹いているから。今のファンが昔は良かったと言う気持ちはよくわかる。
このくらいの時代になると私も動画でよく見かける顔が多いので,身内の演技を見ている感じがしてきた。
会場へ入る前のYコーチのスピーチは特に今回力が入っていた。生徒たちも気持ちが高まっているのがヒシヒシと伝わってくる。T顧問がそばにいても,Yコーチは自信満々に最高責任者としての堂々の振る舞いだし,生徒も同じように自信に裏打ちされた強い心持ちを表している。そこにまるで顧問の存在がないかのように。彼には,放任主義と言う言葉で評価されることが多いが。それは正確な表現ではないと思った。このビデオで視聴者がたぶん感じ取るであろう姿が真の姿だと思った。
(9)2015年 第28回全日本マーチングコンテスト〔FIND YOUR ADVENTURE〕
DM Y Okamoto
(114, 113, 112期)
Yコーチ:もう時間ないさかい,あんまり話せえへん。
もう一歩入ったら君らの世界や,昨日のリハーサルとは違う。十分楽しんでください。(はい)あの暑い時から死ぬほどやったんやから。3年生。シングなんか何千回やったんやから。
この3日間くらい,めちゃくちゃ,うもうなってきてるやんか。自信持って。うもうなったら顔が変わるよな。それを持ってちゃんと入ってほしい。わかった。(はい)ちょっと前も行ったんやけど,一人で見る夢より,みんなで見た夢の方が楽しいやんな。まさにこれ。今からドアが開くと,君らの夢の舞台。だからここしっかり楽しむ。みんなで見る夢は,ほんまに面白い。みんなでやりきって楽しいのではなく,やっている途中が楽しいんや。それをしっかり感じなさい。終わってから感傷に浸って楽しかったじゃなくて,やってる最中でどんどんおもしろなれ。君らにはそれを覚えてほしい。わかった。(はい)頑張って。前から見ています。頑張ってな。
メリーゴーランド(P. スパーク作曲)
Here's That Rainy Day(J. バーグ& J. ヴァン・ヒューゼン作曲)
シング・シング・シング(L.プリマ作曲,岩井直溥 編曲)
Swing Swing Swing(J.ウィリアムズ作曲,J. ボコック編曲)
●まとめ
●追記(2024/04/13)
昔も今もあまりテレビは見ない。特に今はテレビも携帯も車も持っていないこともありみない。しかし,パソコンでテレビ以上にYouTube見るからな。今日はNHKの「新プロジェクトX」をみた。よくできた番組だと思う。しかし,もう一つ感動がない。人間は誰でも人生かけて仕事しているのだ。各人が種類は違うが同じようなレヴェルの体験をしている。場合によっては見ている人間の方が複雑でもっと多くのスリルを味わうような体験談をいくらでも持っている。見ない方が自分のためだなとと思って,途中でスイッチを切った。
朝のテレビドラマは,むかし「おはなはん」を見た記憶しかない。無理して4月からの「虎に翼」を1週間見た。芝居がうまいと思った。ところが今週月曜日のみて,急にアホらしくなってやめた。学校ってあんなんと違うぞと。経験もない作家の描く世界は薄っぺらい。こちらはもっと現実の面白い世界に生きている。わざわざ,そんなテレビの中に入っていく必要もない。というか,耐えられない。
そういう自分も,なんでこんな分析やっているんだ。俺って馬鹿すぎるな。