先日、2月28日に愛知室内オーケストラの定期演奏会に足を運びました。
プロ・オーケストラの定期公演のプログラムに現代音楽作品の新作初演が組み込まれている
ということで、しかもその新曲の作曲者が平素より懇意にしていただいている俊英、
森田泰之進氏ということで、東京から会場(東海市芸術劇場)に駆けつけました。
2026年2月28日(土) 14:00 東海市芸術劇場 大ホール
<愛知室内オーケストラ 第95回定期演奏会>
指揮:山下一史(音楽監督) ピアノ独奏:菊池洋子
コンサートマスター:小森谷巧
♫ ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ プログラム ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ ♫
森田泰之進/音信(おとづれ)〜世界初演〜
モーツァルト/ピアノ協奏曲第22番 変ホ長調 K.482
モーツァルト/交響曲第39番 変ホ長調 K.543
現代音楽分野のオーケストラ作品(管弦楽曲や協奏曲)は、多くの場合、
現代音楽の演奏会や音楽祭にまとめてプログラミングされています。
しかし、読者の皆さんの中にも同様にお考えの方も多いと思いますが、
クラシック音楽の一般的な愛好家の皆さんにも自然な形で現代音楽作品に触れて、
そこから新鮮な感興を得てほしいと、私は日頃から考えています。
私個人の場合、幸いにも、下記に列挙するように、若い頃に、
自作オーケストラ作品の初演や再演が、国内外のプロ・オーケストラの定期公演や
それに準じる演奏会で演奏された経験を持っています。
現代音楽のオーケストラ作品展や現代音楽祭で演奏されることも有意義で嬉しい機会ですが、
一般のクラシック音楽愛好家の皆さんが耳を傾ける中で自作が演奏される機会もまた、
格別に素晴らしいものです。
1991年4月
香港フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会(2公演)/指揮:尾高忠明
松尾祐孝/協奏交響曲《活気ある風景》〜Lively Scenes〜(1989/世界初演)
(Impressions of Hong Kong 国際作曲コンクール第1位受賞作品)
他の曲目:モーツァルト/ピアノ協奏曲(独奏:清水和音)
シューマン/交響曲第4番
この演奏会は、国際現代音楽協会(ISCM)とアジア作曲家連盟(ACL)の史上初の合同音楽祭として
香港で開催された<ISCM/ACL World Music Days 1988 Hong Kong>の参加作曲家を対象として
翌年の1989年に管弦楽作品が募集された"Impressions of Hong Kong 国際作曲コンクール"で
第1位を受賞した作品の初演を、当時の香港フィルの常任指揮者 David Artherton氏のご厚意で、
日本の名指揮者 尾高忠明氏が客演する定期演奏会に組み込んでいただいたことによって、
受賞決定の二年後の1991年に香港で行われたものでした。
ほぼ満席の会場の熱気の中で現代作品が演奏される機会となりました。
1993年9月
東京フィルハーモニー交響楽団定期演奏会/指揮:大野和士/尺八独奏:三橋貴風
松尾祐孝/《PHONOSPHERE I》〜尺八と管弦楽の為に〜(1993/世界初演)
(東京フィル若手作曲家委嘱シリーズ第2弾)
他の曲目:ヤナーチェク/《グラゴール・ミサ》 (独唱:佐藤しのぶ、河野克典、合唱:)、他
おそらく《グラゴール・ミサ》を目当てとして満席となっていたと思われる東京フィルの定期、
会場はオーチャードホールでしたが、プログラム前半で短いオペラの序曲の後に、
演奏時間約24分に及ぶ拙作《PHONOSPHERE I》が演奏されたところ、
尺八独奏の三橋貴風氏の古典本曲に通じる演奏の深淵も相俟って聴衆に大きなアピールをもたらし、
演奏終了後、拍手が鳴り止まず、私と三橋氏は5回も6回もステージにカーテンコールされるという、
現代音楽作品の初演としては異例の盛り上がりとなったのでした。
1993年10月
リスボン:グルベンキアン管弦楽団定期演奏会(2回公演)
/指揮:大野和士/尺八独奏:三橋貴風/付け打ち:松尾祐孝
松尾祐孝/《PHONOSPHERE I》〜尺八と管弦楽の為に〜(1993/欧州初演)
他の曲目:ハイドン/チェロ協奏曲(独奏:ヤーノシュ・シュタルケル)
シューベルト/交響曲第5番
前月の東京フィルでの世界初演の直後に、この年1993年がポルトガル=日本友好450周年
(種子島鉄砲伝来450年)にあたることから来日公演も行われた、リスボンを拠点とする
グルベンキアン管弦楽団の定期演奏会に大野和士氏が客演することになっていたので、
そこに、この《PHONOSPHERE I》のヨーロッパ初演が組み込まれることになったのでした。
当初は拙作を1番目、その次にチェロ協奏曲、最後が交響曲という曲順の予定でしたが、
グルベンキアン財団の芸術監督レアル氏によるリハーサルを聴いた上での決断で、
ハイドン、シューベルト、松尾という曲順で本番を迎えることになったのでした。
二夜連続の演奏会の終演後は、聴衆が総立ちになるような熱狂的な盛り上がりとなりました。
尚、世界初演の時は、作曲者として客席で落ち着いて作品の全容を聴いていたかったため、
打楽器5番パートとなっている"付け打ち"は打楽器奏者に担当していただきましたが、
この公演以後、特に海外公演では、私自身が演奏するようになりました。
昨年6月に、久しぶりにリスボンのグルベンキアン財団を訪ねる機会がありました。
拙作の欧州初演の会場となった同財団大ホールは健在で、懐かしい再訪となりました。
1994年9月
東京フィルハーモニー交響楽団名古屋定期演奏会
/指揮:大野和士/尺八独奏:三橋貴風/付け打ち:松尾祐孝
(同楽団欧州ツアー1994壮行プログラム)
松尾祐孝/《PHONOSPHERE I》〜尺八と管弦楽の為に〜(1993)
他の曲目:R.コルサコフ《交響組曲「シェヘラザード」》 他
1993年の拙作の世界初演の欧州初演の爆発的な大成功により、
東京フィルのヨーロッパ演奏旅行1994にも同曲がプログラミングされることになり、
演奏旅行出発直前の名古屋定期演奏会が、謂わば同ツアーの予行演習プログラムとなり、
《PHONOSPHERE I》の日本国内での再演(名古屋初演)となりました。
1994年10月
東京フィルハーモニー交響楽団 ヨーロッパ演奏旅行1994
/指揮:大野和士/尺八独奏:三橋貴風/付け打ち:松尾祐孝
(全公演中のイギリスでの6公演にプログラミングされた)
松尾祐孝/《PHONOSPHERE I》〜尺八と管弦楽の為に〜(1993)
他の曲目:
パターン1:プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第2番(独奏:ラファエル・オレグ)
R.コルサコフ/交響組曲《シェヘラザード》
パターン2:R.シュトラウス/交響詩「ドン・ファン」
プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第2番(独奏:ラファエル・オレグ)
ラヴェル/《ダフニスとクロエ》第二組曲
東京フィルの1994年ヨーロッパ演奏旅行は、
前半:ドイツ&ベルギー編(全7公演/ヴィスバーデン、フランクフルト、ミュンヘン、
シュトゥットガルト、アーヘン、アントワープ、エッセン)
後半:イギリス編(全8公演/リーズ、ノーザンプトン、ニューキャッスル、ミドルスブラ、
グラスゴー、カーディフ、バーミンガム、ロンドン)
という全15公演、約三週間に及ぶ大規模なものでした。
この中のイギリスでの6公演で、拙作《PHONOSPHERE I》が演奏されることになりました。
作曲者として当ツアー全旅程に同行する栄誉を得た私は、自作の"付け打ち"の担当に加えて、
《ダフニスとクロエ》第二組曲の2台の鍵盤楽器(チェレエスタとジュー・ド・タンブル)を、
副指揮者として同行されていた渡邊一正氏と分担して担当することになりました。
つまり、オーケストラのエキストラ奏者として海外演奏旅行に同行するという、
貴重な経験も併せて体験できたツアーとなったのでした。
拙作に対する聴衆の反応は、各地とも凄まじく、特に最後のロンドン公演では
長くカーテンコールが続き、三橋貴風氏がアンコールに"鶴の巣ごもり"(巣鶴鈴慕)を吹いて、
ようやく最後の演目《ダフニスとクロエ》第二組曲に入ることができたという熱狂となりました。
聴衆層の審美眼が厳しいことで有名なロンドンでの公演で、
ここまでの爆発的な喝采を得た日本のオーケストラによる演奏会は、
正に空前絶後であったと評価された演奏旅行となりました。
そこに居合わせることができた私は、実に幸せ者であったと言えましょう。
1997年5月
バーデン州立歌劇場管弦楽団 定期演奏会(2公演)&特別演奏会(1公演)
/指揮:大野和士/尺八独奏:三橋貴風/付け打ち:松尾祐孝
松尾祐孝/《PHONOSPHERE I》〜尺八と管弦楽の為に〜(1993)
他の曲目:ショスタコーヴィチ/交響曲第5番
(同時にレコーディングも行われました。)
東京フィル欧州楽旅から3年後、今度は、ドイツのカールスルーエでの
現地のオーケストラの定期演奏会に、《PHONOSPHERE I》を組み込んでいただきました。
ここでも三橋貴風氏の独奏のインパクトは絶大で、三夜連続の演奏会のいずれもが、
爆発的な喝采で沸き返りました。
この時の録音によるCDは、現在では NAXOS MUSIC LIBRARY でお聴きいただけます。
その後も、一般的なクラシック音楽愛好家の皆さんに
現代音楽作品を楽しく味わっていただく機会の創出に腐心をしている私です。
1999年から2001年にかけては、当時の藝大在籍弦楽器学生有志を募って
弦楽オーケストラ(フォノスフェース・ミュージカル・ストリング・アンサンブル)を
組織して、2001年に私が実行委員長として開催運営総指揮を執った
《ISCM世界音楽の日々2001横浜大会》の弦楽オーケストラ作品展を担当するために鍛える中で、
チャイコフスキー「弦楽セレナーデ」の4つの楽章の間に3曲の現代音楽作品を配するという
実験的なプログラムによる演奏会を企画したこともありました。
また、現代音楽に特化した演奏会であっても、出来るだけ来場者の興味を惹きつつ、
楽しく充実した公演になるような工夫を凝らす試みを、
私が参画している"チーム百万石"や"深新會"や"
(一社)日本木文化学会の【木の文化の音楽祭】などでの活動を通して、
継続している私でもあります。






