2020年は、楽聖=ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンの
生誕250年にあたりました。
小学校高学年の頃からオーケストラを聴くことに強い興味を持つようになった私に
とって、ベートーヴェンの交響曲の交響曲全曲を聴くことが先ず最初の目標でした。
カラヤン指揮:ベルリン・フィルの来日演奏会で、ベートーヴェンの田園と第5
というプログラムを聴いた時の情景は、まだ脳裏に鮮明に残っています。
そして、このところ9曲の交響曲を番号順に探訪しています。
写真:第7番&第8番 ホグウッド指揮&アカデミー・オブ・エンシェント盤(CD)
###ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン###
(1770-1827)
交響曲第8番 ヘ長調 作品93
公開初演:1813年12月8日 ウィーン大学講堂
交響曲第8番は、交響曲第7番や「ウェリントンの勝利」と同じ演奏会で、
ベートーヴェン自身の指揮によって初演されました。
一般的には第7番の方が第8番よりも人気が高いようにも思われますが、
べートーヴェン自身は第7番よりもこの第8番により愛着を持っていた
というエピソードも伝えられています。
第5番、第6番「田園」で用いられたトロンボーンは使用されていないにも関わらず、
第7番と第8番を一貫する、リズムを前面に押し出した楽想の高揚には、
流石はベートーヴェンと唸らされるような素晴らしいものがあります。
この第8番は、全4楽章を合わせた演奏時間が約25分という小振りな交響曲ですが、
ベートーヴェンの全交響曲におけるスケルツォのような、
独特の存在感を示している名曲だと私は思っています。
この第8を書いていた頃のベートーヴェンは、
既に聴覚障害はかなり進行していた筈ですが、
そのような気配を微塵も感じさせない、軽妙洒脱なウイット発散しています。
第1楽章は、第7番と異って、序奏無しでいきなり第一主題から走り始めます。
へ長調の三拍子によるこの楽章では、第一主題の冒頭でいきなり強調される
(タ―タタタタター〜)というリズム細胞が、主役を演じていきます。
第二主題では、そのリズム細胞が(タタータタタ)と変形して敷延されます。
提示部を締めくくる終止の部分では、
(ター・タタタター)と更に変形されて登場します。
バロック時代の舞曲の名残からのお約束の、
提示部の繰り返し記号はまだ残っています。
(実は、次のあの"第九"の第1楽章で、
遂にこの提示部の繰り返し記号が消滅します!)
展開部では、終始一貫して(タ―タタタタター〜)と(ター・タタタター)の
リズム細胞を活用して切磋琢磨するように音楽が発展していきます。
そして、クライマックスから強奏の中で低音に第一主題が回帰するという
少々ユニークなアイデアによって巧みに再現部に突入します。
再現部の終止楽想の後、第二展開部のような終結部が更に続くところは
例に漏れません。
どことなくユーモラスな印象を残して、この第1楽章は幕を閉じます。
第2楽章は、通例の緩徐楽章とは一線を画す音楽です。
調性は変ロ長調で、アレグレット・スケルツァンドと表記されています。
2拍子ながら、スケルツォにも一脈通じる諧謔的な気骨と、
行進曲調の雰囲気を併せ持つ、独特の楽章です。
主要主題〜推移楽想〜副主題〜主要主題〜推移楽想〜副主題〜終結部
という構成ですから、二部形式(正確には複合二部形式)と考えて良いでしょう。
(タタタ・タタタ・〜)というリズム細胞が主役の楽章です。
第3楽章はヘ長調で、古典派の初期の舞曲楽章に定着していた
メヌエットに回帰しています。
この第8番には、このメヌエットの雰囲気が実によくマッチしていると感心します。
メヌエット主部もトリオも、バロック時代の舞曲からの伝統的定型通り、
前半と後半の繰り返し記号が記載されて、古典的で端正な佇まいをみせていますが、
なかなか軽妙洒脱な音楽です。
時折顔を覗かせる(ターータタタ)というリズム細胞に、
第1楽章からの統一性が感じられます。
第4楽章も原調のヘ長調で、独特のロンドソナタ形式による終楽章です。
第6番「田園」と第7番の終楽章で、ベートーヴェン流四部ソナタ形式と
ABACABA構成によるロンドソナタ形式が均整のとれた融合の極致を
見せてくれましたが、この第8番ではかなりデフォルメされています。
Aを主要主題、Bを副主題、Cを展開部、とすると、
ABACABAまではほぼ定型通りに聴き取ることができますが、
そこから執拗に主要主題(A)を主体として途中で副主題(B)も登場して、
これでもかと発展が継続する、肥大した終結部が畳み掛けて、
最後の結尾では執拗に主和音が強調されて全曲を閉じます。
随所に(タタタンタタタン)や(タ―タタタタター〜)というリズム細胞が出現
して、第1楽章からの一貫性・統一性が周到に仕掛けられていることがわかります。
演奏時間は約25分ながら、実に聴き応えたっぷりの交響曲です。
写真:第4番&第8番 カラヤン指揮&フィルハーモニア管弦楽団盤(LP)

