後期ロマン派の大作曲家=R・シュトラウスの
交響詩及び標題交響曲を昨日から再探訪しています。

私の仕事場のライブラリーには、
初期の交響詩を収録したCDとして、
尾高忠明氏が指揮した1枚のアルバムが在ります。

###CD/リヒャルト・シュトラウス作品集###
 交響詩「ドン・ファン」 交響詩「死と変容」
 交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
 歌劇「ばらの騎士」より~ワルツの場第1番~
 指揮:尾高忠明  管弦楽:BBCウェールズ交響楽団
 Nimbas Records / NI-5235

シュトラウス交響詩CD

1888年に完成された交響詩『ドン・ファン』に続いて、
翌1889年に書き上げたのはこの交響詩『死と変容』です。
『死と浄化』と呼ぶ場合もあります。
嘗てのカラヤン&ベルリン・フィルの来日公演のプログラム
にも加えられた程、演奏機会も多い名曲ですが、
近年ではより大規模な作品の演奏が定着してきた
ことによって、それに反比例するように、
聴く機会が減少しているように感じられます。
しかし、改めて聴いてみると、素晴らしい作品です。

作曲家自身、若い頃に重病を患い、
生死の間を彷徨った経験を持っていたそうです。
そういった経験が投影された作品であると言われています。

暗い病室に臥せる重病人を象徴する葬送行進曲調の
楽想から、この曲の音楽は始まります。
元気で幸せだった頃を回想するような融和な楽想も
流れますが、突如ソナタ形式に基づく主部に突入して
生と死がぶつかり合うような第一主題が発展していきます。
クライマックスに達した後、序奏にも在った
回想シーンになり、第二主題の役割を担います。

続いて展開部に進行して、青春の回想や生と死の戦いが
交錯しながら、シュトラウス独特の多声的書法も駆使され
ながら、音楽は次第に高揚し、遂に金管による新しい主題、
変容(浄化)の主題が登場します。
このテーマの壮大な提示は、とても印象的です。
そのクライマックスが収束するとテンポは遅くなり、
序奏の楽想からの回帰が始まり、再現部になります。

第一主題の再現に相当する部分で再び
生と死の戦いが繰り広げられますが、
直ぐに収束してしまい、タムタムの弱音が鳴り響き、
病人の命がついえた事が暗示されます。
そして、展開部で提示された変容(浄化)の主題が
厳かに奏でられ、死者が来世で変容(浄化)されたことが
表現されます。
つまり、極端に短い再現部を経て、長大な終結部が
変容(浄化)の場面として壮大に発展して
全曲を閉じるのです。

YouTube / リヒャルト・シュトラウス 交響詩《死と変容》



一昨日ご紹介した交響詩「ドン・ファン」も同様に、
ソナタ形式を基盤とした単一楽章構成を持つ作品でした。
クラシック音楽の作曲家、特に、ベートーヴェン以後から
20世紀前半の器楽音楽の作曲家にとって、
ソナタ形式が如何に重要な存在であったかということを、
あらためて考えさせられる事例と言えるでしょう。