ブラームスの4曲の交響曲、それぞれに個性の豊かな
出来の良い4兄弟といった趣です。
昨日の記事での4曲をまとめた音楽談義に続いて、今度は、
各曲の魅力について、私なりの寸評を披露したいと思います。

今日の記事はまず<交響曲第1番ハ短調>。
私の愛聴盤は、ギュンター・ヴァント指揮
北ドイツ放送交響楽団盤(RCA / BVCC-37252)です。

ブラームス第1&3番ヴァント盤

あまりにも偉大なベートーヴェンの9曲の交響曲という
巨峰群を意識するあまり、交響曲の作曲には特に慎重な態度で
望んでいたヨハネス・ブラームス(1833-1897)は、
着想から完成まで21年もの歳月をかけて、
この初の交響曲を1876年にようやく初演しています。
更に改訂を重ねて、1877年に決定稿が完成して、
ジムロック社から出版されました。

初演を行なった楽団はカールスルーエ宮廷劇場管弦楽団で、
今日のバーデン州立歌劇場管弦楽団(カールスルーエ)に
相当するオーケストラでした。
尚、この劇場では、1996年から2002年にかけて
日本人指揮者の大物=大野和士氏が音楽総監督(GMD)
を務めて、日本人として初めてワーグナーの「指輪4部作」
全曲を指揮するなど、大きな足跡を残しています。

さて、楽章毎に音楽を追っていきましょう。

第1楽章は、序奏を持ち、提示部終止部に反復指定を伴う
ソナタ形式による冒頭楽章です。
「闘争から歓喜へ」という、ベートーヴェン以来の交響曲の
ドラマトゥルギーの典型に沿うように、
序奏の開始から重苦しい渋味のある音楽が支配的です。
リズム動機として、「タタタターン」という
ベートーヴェン<交響曲第5番>の「運命動機」も、
再三にわたって登場します。

第2楽章は、緩徐楽章です。
全曲の主調=ハ短調の長三度上のホ長調という明るい調性ながら、
どこか哀愁が漂うような楽想が支配的なあたりが、ブラームスの魅力でもあります。
改訂に際してかなり手が加えられたのがこの楽章のようで、
カールスルーエ初演版とはかなりの差違があるようです。

第3楽章は、本来ならば舞曲楽章(メヌエットやスケルツォ)
が置かれるところですが、この交響曲では穏やかな間奏曲調の楽章になっています。
ブラームスは、交響曲の第3楽章に典型的なスケルツォ(或いはメヌエット)を
一貫して置きませんでした。

第4楽章では、ブラームスの独自性が非常に大胆に発揮された
雄大な音楽を聴くことができます。
第1楽章の気分を再確認するような長大な序奏に始まり、
やがてアルプスの峰々を見上げるようなホルンの主題が響き、
後のブルックナーの交響曲の系譜にも些かに繋がるような
3つの主題を内包した提示部が前進します。
その後、聴く者に一瞬提示部の反復かとも思わせるような
第1主題の再提示があり、その後に精力的な展開が続き、
クライマックスに至ったところで序奏で提示されていた
ホルンの主題が回帰します。
その後、第1主題は再現することなく推移楽想から
第2主題・第3主題と再現していき、
最後は輝かしい行進曲調の結尾に至り、勇壮に全曲を閉じます。
展開部と再現部を複合構成した、ブラームス流終楽章ソナタ形式とでもいうべき
演奏効果も極めて高い構成の誕生です。

第2番以降の洗練された音楽性も大いに魅力的ですが、
この第1番のどことなく粗削りな面や
4作品の中で最も雄大なスケールを愛好する方も、
きっと多いことと思います。