アントニーン・ドヴォジャーク(ドヴォルザーク)
の交響曲探訪を続けてきましたが、
今日がいよいよ最終回になります。

ここで、もう一度ドヴォジャークの交響曲の
作曲年代等の一覧をおさらいしておきましょう。

<交響曲第1番 ハ短調 作品3 / B.9 「ズロニツェの鐘」>
 1865年作曲 / 1936年初演@ブルノ
<交響曲第2番 変ロ長調 作品4 / B.12>
 1865年作曲 / 1887年改訂 / 1888年初演@プラハ
<交響曲第3番 変ホ長調 作品10 / B.34>
 1873年作曲 / 1874年初演@プラハ
<交響曲第4番 ニ短調 作品13 / B.41>
 1874年作曲 / 1874年第3楽章のみ初演
       / 1892年初演@プラハ
<交響曲第5番 ヘ長調 作品76 / B.54>
 1875年作曲 / 1879年初演@プラハ
<交響曲第6番 ニ長調 作品60 / B.112>
 1880年作曲 / 1881年初演@プラハ
<交響曲第7番 ニ短調 作品70 / B.141>
 1884-85年作曲 / 1885年初演@ロンドンで初演
<交響曲第8番 ト長調 作品88 / B.163>
 1889年作曲 / 1890年初演@プラハ
<交響曲第9番 ホ短調 作品95 / B.178「新世界より」>
 1893年作曲 / 1893年初演@ニューヨーク

「第1番」と「第2番」で習作期ながら大規模な交響曲を
書く修練を積んだアントニーンは、
ボヘミアの作曲家ならではの独創性を磨きながら、
「第3番」「第4番」「第5番」を
ますで成長期のように集中的に書き上げ、
そして「第6番」「第7番」「第8番」「第9番」と
シンフォニストの名に相応しい音楽性と風格と備えた
名曲を遺してくれました。

晩年にアメリカはニューヨークのナショナル音楽院から
破格の待遇によって招かれて赴任した際に、
ニューヨーク・フィルハーモニックからの委嘱作品として
誕生した交響曲が、その最後の「第9番」です。
当初は、5番目に出版されたために
「第5番」と呼ばれていましたが、
ベートーヴェンやブルックナーに並んで
交響曲の作曲が"第9番"まで到達したのです。
音楽史上、正に偉業です。

内容は、しばしばアメリカ的と語られたりもしますが、
黒人霊歌等の影響も散見されるものの、
故郷ボヘミアに向けた望郷の手紙と、
祖国を遠く離れた新大陸(新世界)の大地で生きていく
固い決意が感じられる内容に感じられます。
総合的には、やはりボヘミアの作曲家ならではの
個性と魅力に溢れている名曲と言えるでしょう。

私の仕事場のライブラリーには、このCDがあります。
最初にリリースされたLP盤は、
日本レコードアカデミー賞で"最優秀録音賞"を受賞した
名盤で、CD盤を聴いても未だに音質の確かさと
音像の鮮明さと空間の広がりが感じられる聴感に
驚きを禁じえません。正に名盤です。

ドヴォジャーク/交響曲第9番「新世界より」
 スラヴ舞曲 第1番 第8番 第10番 第16番
  ヴァーツラフ・ノイマン指揮/
  チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
 SUPRAPHON / COCO-6751
「新世界」ノイマン盤

<交響曲第9番 ホ短調 作品95 / B.178「新世界より」>
 1893年作曲 / 1893年初演@ニューヨーク

[第1楽章]
遠いアメリカから故郷ボヘミアを想う気持ちのような
哀切な調べが弦楽器で奏でられる序奏に始まった後、
アルペジオ音型が印象的な第一主題、
民俗的な香りが漂う第二主題、
さらには懐かしさが込み上げてくるような第三主題が
滾々と湧き出るように提示された後、
短めながら勇壮で充実した展開部が
クライマックスに達したところで
第一主題の再現に到達して、
その後は多少の変容が加えられた再現部に入ります。
そして、短いながらも力強い終結部(コーダ)
によって楽章が結ばれます。
3主題タイプの見事なソナタ形式による冒頭楽章です。

[第2楽章]
コラール調の序奏の後に、
日本では教科書にも掲載されている
「家路」と題された歌曲にもなっている有名な旋律が、
コールアングレで歌われます。
中間部の後半のクライマックスでは、
第1楽章の第一主題とこの楽章の主要主題が
重ねられて高らかに響き渡ります。

[第3楽章]
ABACABAcodaの標準的なロンド形式に沿った
大きな構成によるスケルツォ楽章です。
スケルツォらしい厳しい楽想とスラブ的な魅力と
アメリカ大陸で誕生した雰囲気が見事にバランスした
素晴らしい舞曲楽章です。
コーダでは、第一楽章の第一主題と第三主題の動機が
一瞬ですが高らかに回想されます。

[第4楽章]
短い序奏に引き釣り出されるように、
力強い第一主題から提示部が始まります。
第一主題の提示部の後の民族舞曲風の推移部の中で、
一度だけシンバルが鳴らされます。
提示部の終盤から展開部にかけては、
先行楽章の各主題の動機が随所に素材として活用され、
全曲の展開といった様相を呈しながら
クライマックス突き進んでいきます。
そして力強く第一主題が再現した後、
綿密な変容を施された再現部が続きます。
そして、一旦音楽が落ち着いた後に、
もう一度栄光を掴み取るかのように
音楽が立ち上がっていき、雄大に全曲を閉じます。
最後の和音の扱いが極めて個性的で、
フェルマータで持続させながら
デフィミニュエンドで減衰していきます。
このフェルマータの表現は、
長い間あまり伸ばさないことが一般的でしたが、
若き日の小沢征爾さんが録音でしっかり伸ばしたことから、
このフェルマータの表現を忠実に守る傾向が
強くなっってきたそうです。

YouTube / ドヴォルザーク: 交響曲 第9番 ホ短調
     作品95 《新世界より》 カラヤン 1964


この作品は、ドヴォジャークの代表作であるのみならず、
アメリカで誕生した初めての"おらが祖国の交響曲"
となった意義は極めて大きく、以後のアメリカでの
アメリカ人によるオリジナル作品の誕生を期待する
貴重な契機となったのでした。

ドヴォジャークの交響曲探訪は、これにてお開きです。