邦楽器作品の作曲をライフワークの柱に据えている
私=松尾祐孝の邦楽器作品の紹介を昨日に開始しました。
ほぼ毎日、夜の記事シリーズとしてアップしていきます。
今日は、私が尺八という楽器に出会って、
邦楽器の魅力に取り憑かれていく重要な契機となった作品を紹介します。

スキー・フリークの私が20歳台の時代、毎冬に数回ずつは訪ねていたのが、
長野県松本市の西に在る乗鞍高原温泉スクー場でした。

私にスキーの魅力を教えてくれた友人K氏のお兄さんが
住みついておられた事もあって、
そのK氏と私の友人達が毎週のように示し合わせて
松本市を経由して乗鞍高原に上がっていったものでした。
夏場にも山歩きやテニス等で当地をしばしば訪ねて、
時には町(松本市)に降りて、遊ぶこともありました。
長野県は私にとっては言わば「第二の故郷」のような
存在で、その中心都市は松本市だったのです。

その松本市に、松本市音楽文化ホール
(愛称:ザ・ハーモニーホール)が1985年に竣工しました。
そして、1990年にはそこに素晴らしいオルガンが設置され、
更に全国でもおそらくは初のケースとなった専属オルガニスト
(身分は松本市教育文化振興財団の嘱託職員)として、
保田紀子さんが同年に着任されたのでした。

それ以前から、作曲家同人「深新會」の作品展で、
現代音楽に積極的に取り組まれている保田さんに
拙作を演奏していただく機会があった私は、
夏に信州は安曇野を訪ねていた時に、
町の喫茶店で偶然目にした新聞記事で、
保田さんの専属オルガニスト就任を知ったのでした。

それから程なく保田さんから連絡をいただいて、
そのザ・ハーモニーホールを拠点としての<オルガン新作展>
開催の構想を聞かせていただき、更には松本市在住の尺八家=
渡辺清堂氏と協演する作品の作曲を打診されたのでした。
そういった経緯から誕生した作品が、
この<美しの都>~尺八とオルガンの為の幻想曲~なのです。

###<美しの都>~尺八とオルガンの為の幻想曲~###
         (1991年/保田紀子委嘱作品)

  演奏時間:約15分

 初演:<保田紀子リサイタル~オルガン新作展>
 1991年10月 / 松本市音楽文化ホール
        (ザ・ハーミニーホール)
 尺八=渡辺清堂 オルガン=保田紀子

 CD:『響』ザ・ハーモニーホール松本~保田紀子
     RRO ALTE MUSICAE / PAMP-1015

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この作品のタイトルは、松本市に因んだ
私の想像上の古代をイメージしたものです。
松本市とその周辺には、「渚」「波田」「島々」等といった
水辺に関るような地名が数多くあります。
ハーモニーホール自体もJR大糸線の
「島内駅」傍に在ります。

そこで私は、古代にここに大きな湖があって、
人々が豊かな水と収穫に恵まれながら平和に暮らしていた
「美しの都」(ウツクシノミヤコと読みます)が
在りましたとさ・・・というようなイメージです。

曲の最後で、不思議な音響による巨大なディミニュエンド
が強烈な印象を発散します。
オルガン本体の加圧モーターをオフにした効果です。
初演の時、この大音響に驚いた幼児が
怖くなったのかシクシク泣き始めてしまい、
それがまた絶妙にホールに響いて、
何だかとても幻想的な空間になったことを
今でも鮮明に覚えています。

尚、保田紀子さんにはその後も度々お世話になっています。
2001年の<ISCM世界音楽の日々2001横浜大会>では、
<オープニング・コンサート>にご出演いただき、
近藤譲氏のオルガン独奏作品を演奏していただき、
日本現代音楽界の悲願であった世界音楽祭の開幕の
1コマを素晴らしい演奏で飾っていただきました。

この<美しの都>は、
地元の尺八家=渡辺清堂氏との協演作品ということも
あって、何度も松本の地で演奏していただいていて、
昨年のザ・ハーモニーホール<新春コンサート>にも
プログラミングしていただいたという訳です。

現代音楽作品を長年に渡って開拓し続けておられる
保田さんの活動に、深い敬意を表するものです。

$松尾祐孝の音楽塾&作曲塾~音楽家・作曲家を夢見る貴方へ~-ザ・ハーミニーホールのスカイライン

この写真はザ・ハーモニーホールのスカイラインを
あしらったCDジャケットの裏表紙です。
青空とのコントラストが清々しいデザインです。

 CD:『響』ザ・ハーモニーホール松本~保田紀子
     RRO ALTE MUSICAE / PAMP-1015