ベートーヴェン《交響曲第6番ヘ長調「田園」》讚!

昨日の交響曲第5番に続いて「田園」にも触れておきましょう。

###ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン###
        (1770-1827)
    交響曲第6番 へ長調 作品68 「田園」

初演:1808年12月22日
   ウィーン/アン・デア・ウィーン劇場

交響曲第5番と共にこの演奏会で初演されたということ
ですが、この演奏会は失敗であったと伝えられています。
しかしその後に評価は直ちに高まっていったということです。

時間的な規模という観点からは、以前に発表されていた
交響曲第3番「英雄」に一歩を譲るところがありますし、
精神的な質量感の圧倒的な迫力という点では、

交響曲第5番には及ばないかもしれません。
しかし、その音楽が湛える柔らかな楽想を支える構成や随所に見られるアイデアは、
後世に多大な影響を与えるに充分な創意工夫の極みと言っても

決して過言ではないでしょう。

各楽章には作曲者自身による注記が施されています。

第1楽章~田舎に着いたときのほがらかな気持ちの目覚め~
は、ヨーロッパの田園風景の起伏を思わせる柔らかな第一主題から始ります。
(・ラシレドーシラソードーファーソーラーシラソー~)
第5番の第1楽章と同様に、提示部・展開部・再現部・終結部の規模が
ほぼ完全に拮抗しているベートーヴェン流ソナタ形式の

一つの凝縮された完成型がここにも在ります。
特筆すべきは、展開部で、上述の動機の一部(ドーシラソードー)の音型が

執拗に繰り返されて、まるで現代のミニマルミュージックの元祖のような
構成による発展が画策されているところでしょう。

第2楽章~小川のほとりの情景~は、ソナタ形式を活用した緩徐楽章です。
12拍子という複合拍子が、小川のせせらぎが聴きながら
林の中の木漏れ陽の中に佇んでいるような田園風景を想起させてくれます。
楽章終盤の終結部で、小鳥の声を描写したような独特の部分が登場します。
空間を感じさせる音楽です。

第3楽章から、通常の交響曲には存在しない第4楽章によるブリッジを経て、
終楽章(第5楽章)まで、一気に続けて演奏されます。
このような、終楽章に向けたドラマ展開の盛り上げは、
同じ演奏会で初演された第5番と双璧です。

第3楽章~田舎の人々の陽気な集い~は、
楽譜に表記はないものの事実上のスケルツォという点で、第5番に共通します。
今日の研究では、トリオが2回出現するという見解が定着していますが、

私もそれを支持したいと思います。
井戸端会議に花が咲いていた農村の人々の集いで、

やがて興が乗ってきて踊りが始る・・・
というような感興が連想される音楽です。

その陽気な集いが、一転俄にかき曇り、驟雨に襲われます。
第4楽章~雷雨、嵐~は、全く独創的な音楽です。
ティンパニがまるで雷鳴のような効果を上げます。
ピッコロも大活躍します。

しかしその驟雨も通りすぎて、
また陽射しが回復して暖かな情景に回帰するかのように、
第5楽章~牧人の歌-嵐の後の喜ばしく感謝に満ちた気分~
に穏やかにバトンタッチします。
この楽章の主部は堂々たるソナタ形式ですが、
展開部の前半と終結部にも第一主題がはっきり現れますから、
ロンド形式と融合させたべートーヴェン流の
ロンド・ソナタ形式と捉えるべきでしょう。
更に注目すべき点は、その第一主題が登場する度に変奏を施されていることです。
変奏曲の様式も組み合わせていると言えるでしょう。
最後は穏やかに全曲を閉じます。


この交響曲第6番「田園」は、表面上は融和な音楽ですが、

実は創意工夫の極みであり、ロマン派以降の作曲家に多大な影響を与えた、

極めて重要な意義の深い作品であるのです。

YouTube / Beethoven - Symphony No. 6 (Proms 2012)
2012年7月23日 ロイヤル・アルバート・ホール
ダニエル・バレンボイム指揮

West--Eastern Divan Orchestra 

 


私の仕事場での愛聴盤は、ホグウッド盤です。
指揮=クリストファー・ホグウッド
アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック
ポリドール/L'OISEAU-LYRE/F32L-20282(421 416-2)