昨日の記事に続けます。

<飛来>Ⅳ~独奏ピアノを伴う室内オーケストラの為に~は、
空間や宇宙の気配を暗示するようなオーケストレーションに
オーボエの瞑想的な旋律が浮かぶように始ります。
そして様々な場面を経て、最後にピアノの和音連打が
ハープとコントラバスの補強を伴って厳かに続きます。
その響きは、聴く人によって、仏教寺院の梵鐘や
教会の鐘の音に聴こえるかもしれません。
私としてはここにレクイエムの意味を込めているのです。

作曲当時(1990年頃)、東欧は社会主義政権が相次いで崩壊
する大変革期で、国や地域によっては、遺憾なことに
一般市民も巻き込む動乱が起きていました。
その頃の日本といえばバブル経済の頂点にあった頃でした。
"極東の極楽トンボ" のような日本の状況を忸怩たる思いで
享受していた私は、せめてもの犠牲者への哀悼の意志表示と
平和への祈りを込めて、この作品を作曲したのでした。

初演が終わった頃、加盟国持ち回りで毎年開催されている
ISCM(国際現代音楽協会)世界音楽祭の
1992年ワルシャワ大会の募集要項が発表されました。
前述の経緯ですので、
私は必然的にこの作品を是非とも東欧の地で
欧州初演してもらいたいと考えた私は、
個人直送でエントリーしました。

国際審査会が終わった頃だったのでしょうか・・・
その大会の国際審査員であられた一柳慧氏からの伝言を、
奥様(故人)を通じて電話でいただくことができました。
「ワルシャワで選曲・入選なさったということですよ。
おめでとう!。」というお言葉をいただき、
感激で胸が熱くなったことを今でもはっきり覚えています。

この<飛来>Ⅳは各パート1名の室内オーケストラ編成が
基本ヴァージョンです。
しかし、プログラミングされた演奏会の
出演団体が大きな編成の室内オーケストラでしたので、
弦楽器は各パート数名で管楽器は2名ずつの
2管編成ヴァージョン(スコアは全く同じ)で
演奏できることになり、
初演とは一味違った演奏の実現が期待されました。

1992年5月に、私はアエロフロートのモスクワ経由便で、
ワルシャワに向かいました。
そして、<ISCM世界音楽の日々'92ワルシャワ大会>の
室内オーケストラ演奏会で、
下記の陣容で欧州初演されました。

Cond./ Agnieszka Duczmal Pf./ Louise Bessette
Ch-orch./ Amadeus Chamber Orchestra of Polish Radio

アグニエシュカ・デュチマルさんは
知る人ぞ知る東欧圏の女性指揮者、
ルイーズ・ベセットさんはフランス系カナダ人の
美人ピアニスト(私と同い年でした!)で、
素晴らしい演奏を披露してくださり、
演奏後の拍手が長く長く続き、とても嬉しい時間でした。
そして更なるサプライズが待っていました。
私が "心の師" として尊敬していた大作曲家=
ヴィトルド・ルトスワフスキ氏が会場に居られて、
終演後に声をかけてくださったのです。
下の写真はその時のショットで、私の宝物です。

ワルシャワ旧市街の王宮で行われた音楽祭開会セレモニーで
来賓挨拶をなさっていたマエストロをお見受けすることは
既にできていましたが、
まさか自分の作品をお聴きいただくことができて、
間近にお会いできて、しかも声をかけていただき、
写真を一緒に撮らせていただけるとは・・・
ワルシャワに来られて、作品も私も本当に幸せでした!

写真:ルトスワフスキ氏(中央)石田一志氏(左)
   筆者(右)

$松尾祐孝の音楽塾&作曲塾~音楽家・作曲家を夢見る貴方へ~-ワルシャワでルトスワフスキ氏と