1992年のワルシャワの話を続けます。

旧市街の中にはいくつかの教会がありました。
その一つは、音楽祭の演奏会場にもなっていて、
ある夜、室内アンサンブル演奏会が行われました。

そこで出会った素晴らしい作曲家と作品が、
陳其鋼(Qigan Chen / チェン・チガン)氏と
"Poeme Lyrique Ⅱ" でした。
室内アンサンブルの色彩豊かな音楽を背景として、
中国語の抑揚をたっぷり反映させた男声独奏が、
溢れんばかりの詩情を歌い上げて行く作品でした。
旧市街の教会の芳醇な音響の中で、
たっぷりと聴き惚れたひとときでした。

帰国後には、日本現代音楽協会の公演で、
この "Poeme Lyrique Ⅱ" の日本初演を、
私の指揮で演奏して実現もしました。
演奏しても実に心地よい作品でした。

以前のテーマ<新世紀への讃歌>の中で紹介した
周龍(Zhou Long)氏に関する記事でも言及しましたが、
この世代の中国出身の作曲家達は、
文化大革命期の混乱・混迷の
厳しい経験の後に世界に飛び出した、
ハングリー精神に富んだ非常に逞しい世代です。
陳其鋼氏の場合は、北京中央音楽院で学んだ後に
フランスに渡り、オリヴィエ・メシアンの下で研鑽を積み、
その後もフランスを拠点に活躍しています。

哲学者か高僧のような風貌の陳氏とは、この時は
あまり打ち解けて話をすることはできませんでした。
しかし、後年に次第に交流が深まり、
1998年には、陳氏が審査員長を務めた
<ブザンソン国際作曲コンクール>に
私を審査員に招聘していただいたり、
陳氏の管弦楽作品の代表作 "源 / YUAN" を
私がプランニング・アドヴァイザーを務めた
東京フィル<アジア環太平洋作曲家シリーズ>の
初回公演にプログラミングしたりといった、
有意義な国際交流が実現したのでした。

国際現代音楽祭の醍醐味は、
世界中の作曲家や作品が一同に会して
知り合うことができることは勿論ですが、
その出会いを契機として更なる交流や協働がに
繋がっていくことが、実は大きな魅力だと思います。
世界中で友人達が活躍していることによる刺激・・・
協働できることの歓び・・・
"音楽って素晴らしい" のです。

写真は、上記の "Poeme Lyrique Ⅱ" と
"源 / YUAN" が収録されている
陳其鋼氏の作品集CDのジャケットです。
REM editions / REM-311223

$松尾祐孝の音楽塾&作曲塾~音楽家・作曲家を夢見る貴方へ~-陳其鋼CD