スクリャービンの交響曲の紹介もこの記事で最終回になります。
<交響曲第5番「プロメテウス」>です。

YouTube / A. Scriabin: Prometheus or the Poem of Fire
   - Prométhée ou le Poème du feu op. 60 (Boulez)

(先年に逝去されたピエール・ブーレーズの指揮による録音の
 YouTubeを先ずリンクしておきましょう。)

アレクサンドル・ニコラエヴィチ・スクリャービンは、
1872年に生まれて1915年に没したロシアの作曲家です。
ピアノ作品ばかりではなく、シンフォニストとしても
もっと注目されて良いのではないかと、私は思っています。

スクリャービンの交響曲の楽章数の推移を見てみると、
第1番「芸術讃歌」が合唱つきで6楽章
第2番が3部構成で5楽章
第3番「神聖な詩」が3楽章通奏
と言う具合に次第に楽章数を減らしています。
そして遂に、最後の2曲では・・・
第4番「法悦の詩」で単一楽章構成
第5番「プロメテウス」もピアノ協奏曲編成で単一楽章構成
となっていくのです。

遂に単一楽章構成に辿着いた交響曲が、
前作の第4番「法悦の詩」で、
この第5番「プロメテウス」は、
第4番での経験を基に更に複雑精緻な作品を再構築した
というふうに私は考えています。

標題は、第3番の「神聖な誌」から第5番「プロメテウス」
まで、神秘主義(神智学)に傾倒していた
晩年のスクリャービンならではのものです。
この作品は通常は「プロメテウス」と呼ばれていますが、
欧文表記の原題は、フランス語で、
Promethée または Le Poème du Feu です。
ですから、第3番や第4番と同様の呼び方に揃えて、
「火の詩」と呼んでもよいのではないでしょうか。

音楽自体は、第4番ととてもよく似ています。
スクリャービン流のソナタ形式楽章そのものです。
第1番の第2楽章、第2番の第2楽章、第3番の第1楽章
と聴き進めていくと、この作曲家独特のサウンドと形式感
が次第に理解できると思います。
この作曲家の晩年の作品に度々登場する
神秘和音(Do Fa# Si♭ Mi La Re)が、
この作品の音響の色彩に大きく関与してる。
無調音楽的な混とんとした不協和な音空間から
そこはかとなくロマンが漂う、独特の音楽が創出されます。

楽器編成上は、交響曲というよりも
ピアノ協奏曲と称した方が妥当と思えるような形態です。
しかもそのピアノの導入は非常にユニークです。
晩年のスクリャービンは、“色彩”や“匂い”までも
音楽に取り込みたいと考えていたらしく、
正に天才と##は紙一重を地で行く拘りようだったようです。
流石に“匂い”の導入は断念しましたが、
“色彩”には最後まで拘り続けて、
ピアノ独奏には“色光ピアノ”を使用することを指示しています。

この“色光ピアノ”とは、当時の技術ではほとんど架空の楽器
といった感がありますが、今日でもMIDIキーボードを使用して
照明演出と連動させる等の方法が試行されることが
たまにありますが、とても一般的にはなっていません。

私の仕事場のライブラリにあるCDをご紹介しましょう。
指揮=ロリン・マぜール 
ピアノ=ヴラディーミル・アシュケナージ
クリーヴランド管弦楽団(第4番) 
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(第5番)
ポリドール LONDON / POCL-9666

$松尾祐孝の音楽塾&作曲塾~音楽家・作曲家を夢見る貴方へ~-スクリャービン第4&5番CD