チャイコフスキーの交響曲を探訪するシリーズも、
回を重ねて、昨日から有名な三大交響曲の紹介に入りました。

交響曲第1番と第2番の初演がそれぞれ大成功となって、
またシンメトリックな5楽章構成を持つ第3番も発表して、
ロシアで最初の本格的なシンフォニストとしての地歩を
確固たるものに固めていったチャイコフスキーは、
メック夫人のパトロネージュによって経済的安定を得て
大作の作曲に没頭できた成果が、第4番の強烈で
ドラマティックな音楽に結実しました。

ここでもう一度、チャイコフスキーの
交響曲の作曲年を書き出してみましょう。

♪ 交響曲第1番ト短調作品13「冬の日の幻想」(1866年)
♪ 交響曲第2番ハ短調作品17「小ロシア」(1872年)
♪ 交響曲第3番ニ長調作品29「ポーランド」(1875年)
♪ 交響曲第4番ヘ短調作品36(1878年)
♪ マンフレッド交響曲作品58 (1885年)
♪ 交響曲 第5番ホ短調作品64(1888年)
♪ 交響曲 第6番ロ短調作品74「悲愴」 (1893年)

第2番から第4番にかけては3年に1曲のペースで
交響曲を発表してきたのですが、その後、
長いブランクができることが判ります。

この間、ソナタ形式を如何に扱うべきか等、
大規模器楽作品の作曲に対してかなり悩んでいたらしいのです。
その中で、以前にロシアの作曲家のバラキレフから
"バイロンの「マンフレッド」に基づく標題交響曲"の作曲を
勧められ、1885年に書き上げた作品が、
日本ではあまり演奏されない「マンフレッド交響曲」です。
ヨーロッパのメジャー・オーケストラでは
結構な頻度で演奏されているようですが・・・。

演奏時間は50分を遥かに超える規模を有する
後期ロマン派的と言えるなかなかの大作です。
私の仕事場のライブラリーには、往年の名盤として有名な
オーマンディ盤のCD復刻版が在ります。

チャイコフスキー/マンフレッド交響曲
ユージン・オーマンディ指揮
フィラデルフィア管弦楽団
RCA / BVCC 38291
マンフレッド交響曲CD

### チャイコフスキー/
       マンフレッド交響曲 ロ短調 作品58 ###

第1楽章~アルプスの山中を彷徨うマンフレッド~
悲痛な雰囲気の頂戴な序奏からこの曲の道のりは始まります。
バス・クラリネットとファゴットに、
"マンフレッドの主題"が聴こえてきます。
やがて、ソナタ形式の提示部に相当する主部に入っていきます。
標題性を帯びている影響もあってか、
これまでの4曲の交響曲のソナタ形式の提示部とは
かなり趣が異り、茫洋としたスケール感があります。
主部を終えると序奏の楽想が回帰した後、
更に濃厚なロマンの放射となって
クライマックスに到達していきます。

第2楽章~アルプスの妖精~
二拍子のスケルツォ楽章です。
トリオ(中間部)とコーダで
"マンフレッドの主題"が聴こえてきます。
ハープの伴奏が典雅な雰囲気を醸し出します。

第3楽章~山人の生活~
ロンド形式を応用した構成による緩徐楽章と考えてよいでしょう。
細かく分析すると相当に複雑なロンド形式的構成になりますが、
大局的に分析すると、主要主題と幾つかの楽想が
パッチワークのようにランダムに繋げられた主部に
ワルツのリズムに乗せて"マンフレッドの主題"が
高らかに歌われる中間部が挟んであるという構図です。

第4楽章~アリマーナの地下宮殿~
一つの楽章のような大きな規模を持つ前半部が、
楽章開始から猛進します。
対位法的手腕も発揮しながら激情が迸るような主要部が
ひとしきり終わると、穏やかな緩徐部が続きます。
その後に、第1楽章の主部の提示部に対する再現部に相当する
第4楽章の後半部となります。
楽章の枠組みを超えたソナタ形式の応用という、
この曲が作曲された時代としては極めて大胆なアイデアです。
終盤のクライマックスでは、オルガン(ハーモニウム)
の荘厳な和音も聴こえてきます。
そして最後は、穏やかに眠りにつくように
緩やかなテンポで静かに全曲を閉じます。

YouTube / Tschaikowsky: Manfred-Sinfonie ∙
     hr-Sinfonieorchester ∙ Vasily Petrenko


チャイコフスキーの交響曲の中では、
構造的には多少曖昧な感も否めませんが、
後期ロマン派的大作としての存在感が
充分な作品と言えるでしょう。