堂々たる標題交響曲と言えるロマン的大作

〜R.コルサコフの交響組曲《シェへラザード》

 

ボロディンの交響曲の紹介に続いて、R.コルサコフの作品に触れておきましょう。

 

ニコライ・アンドレイヴィチ・ェリムスキー=コルサコフは、

1844年生まれで1908年没ですから、チャイコフスキーとほぼ同世代です。
ロシア五人組の一人ということで、ボロディンに続いて紹介します。
 

このシリーズではロシアの交響曲の系譜を辿っています。

R.コルサコフも若い時期に交響曲第1〜3番をものしていますが、

今日ではあまり演奏されません。

何れこの記事シリーズでも紹介したいと考えていますが、ここでは、

この作曲家の個性がスケール豊かに結実した標題交響曲と捉えてもよい傑作、

交響組曲《シェへラザード》(1888年完成)に焦点を当てることにします。

 

R.コルサコフの作品については、色彩的なオーケストレーションと

民俗的な要素とクラシック音楽の様式の見事な融合などが

特徴として挙げられるでしょう。

オペラ作品が代表作として有名ですが、交響曲を含む管弦楽曲の分野では、

この交響組曲《シェへラザード》が名曲として定着しています。

私が自作《フォノスフェ—ル第1番〜尺八と管弦楽の為に》と共に同行した

東京フィルハーモニー交響楽団ヨーロッパ演奏旅行1994にも

この大作がプログラムに加えれていて、大野和士氏のタクトの下での名演が

幾度も繰り広げられました。下の写真はそのライヴCDです。

 

CD / '94東京フィル ヨーロッパ演奏旅行ライヴⅡ


##### R.コルサコフ/交響組曲《シェへラザード》 #####

この作品は(よく知られていることですが)、千夜一夜物語(アラビアンナイト)

の語り手=シェエラザードを主人公として、命がけで暴君=シャフリアール王に

毎晩毎晩興味深い物語を語っていく様を音楽で表現しています。

必ずしも楽章の進行は物語の筋を辿っているものではありませんが、

4曲(4楽章)にわたって色彩的でスケールの大きな音楽が流れます。


第1楽章<海とシンドバッドの船>

序奏とコーダを持つ大らかな複合二部形式、もしくは、

序奏、提示部、短い展開部、再現部、発展的な終結部から成る

ソナタ形式と捉えられる楽章です。

序奏では、凶暴な雰囲気を発散する"王の主題"と、

哀切な旋律が心に滲みるシェエラザードの主題の対照から、

この曲の中での千夜一夜物語が紡ぎ始められます。

主部(複合二部形式もしくはソナタ形式)では、

主要主題は"海の主題"、副主題は"船の主題"と呼ばれるもので、

"シェエラザードの主題"も展開で有機的に扱われます。

終結部(コーダ)では海の主題が発展的に扱われています。


第2楽章<カランダール王子の物語>

諸国を行脚する苦行僧=カランダールをテーマとした楽章ですが、

特に何か具体的な物語をトレースするものではないようです。

"シェエラザードの主題"によって物語が始まり、

"カランダールの主題"や"嵐の主題"を核としつつ、

スケルツォ風の楽想や行進曲調の楽想も組み合わされ、

様々な場面が連続するように音楽が進行します。

舞曲楽章の性格を持った中間楽章と捉えて良いでしょう。

 

第3楽章<若い王子と王女>

叙情的な"王子の主題"と軽やかな踊りを思わせる"王女の主題"を主体として、

ときおり語り部として"シェエラザードの主題"が挿入されながら、

連綿と奏でられる音楽です。緩徐楽章の性格が濃いと言えるでしょう。


第4楽章<バグダッドの祭り〜海〜船は青銅の騎士がある岩で難破〜終曲>

R.コルサコフの標題音楽の特徴が炸裂するダイナミックな終楽章ですが、

様々な場面を内包しつつソナタ形式の骨格にも見事に融合させている点は、

高く評価されて然るべきと考えます。

冒頭楽章からの物語の前提をおさらいするかのように、

"王の主題"と"シェエラザードの主題"の対照による序奏から始まります。

細かくリズムが刻まれる"祭りの主題"を第一主題に相当します。

やがて第3楽章に登場した"王女の主題"が第二主題として再登場します。

音楽はそのまま展開部に突入して、様々な主題や動機を活用しながら

精力的に発展を続けて、いつのまにか"祭りの主題"に滑り込んで再現部になります。

その後は長大は終結部に移行します。

その中に、難破のシーンでクライマックスとなって長大な物語が終わり、

その後に改心した王とシェエラザードに平和な生活が訪れたことを象徴するような

穏やかな音楽が流れて全曲を閉じます。

楽章を結ぶ部分と全曲を結ぶ部分が連続している長大な終結部と考えられます。