ブラームスの4曲の交響曲、それぞれに個性の豊かな
出来の良い4兄弟といった趣です。
10月23日の記事での4曲をまとめた音楽談義に続いて、
ポツポツと、各曲の魅力について私なりの寸評を披露していますが、
今回が最後の<交響曲第4番ホ短調>になります。

私の愛聴盤は、ギュンター・ヴァント指揮
北ドイツ放送交響楽団盤(RCA / BVCC-37253)です。

ブラームス第2&4番ヴァント盤

この作品の特徴は、まず何と言っても終楽章の構造に
シャコンヌ(パッサカリア)を採用したことでしょう。
バロック時代に盛んに用いられた様式を、ロマン派の時代に終盤に
見事に復活させた名曲といって良いでしょうか。
すでに、<ハイドンの主題による変奏曲>の終曲で
シャコンヌ(パッサカリア)をロマン派の時代に復活させていたブラームスですが、
この<第4番>の終楽章の神々しいまでの存在感こそが、
真のブラームスの代表作としての輝きを燦然と放っていると思います。

このの交響曲は、1885年に作曲家自身の指揮による
マイニンゲン宮廷管弦楽団によって初演されました。
初演前の友人・知人のこの曲に対する反応は、
必ずしも捗々しくはなかったようですが、
実際の初演では、楽章毎に拍手が起こるほどの好評で、
翌週にはハンス・フォン・ビューロー指揮での再演も行われ、
一気に名曲として認知されたようです。

さて、楽章毎に音楽を追っていきましょう。

第1楽章は、ソナタ形式による冒頭楽章です。
叙情性たっぷりの主題が柔らかにしかし熱い情念を
内包しつつジワリと始動するような、独特の出だしが先ず印象的です。
この冒頭楽章は基本的には力強く前進するように
随所で発展を見せますが、結局のところ聴き終わると、
ロマンを湛えた悲劇性を感じさせる音楽になっています。

第2楽章は、緩徐楽章です。
子供の頃に初めてこの楽章を聴いた時(妙な感想ですが)、
「エジプトのピラミッドの前で昼寝をしているような感じ」と思ったものでした。
その種明かしは、音楽・作曲の勉強を進めていくうちに次第に判ってきました。
冒頭の主題がフリギア旋法で書かれているために、
古代的(オーセンティック)な感興をもたらすのです。

第3楽章は、本来ならば舞曲楽章
(メヌエットやスケルツォ)が置かれるところですが、
ブラームスは、交響曲の第3楽章に、
典型的なスケルツォ(或いはメヌエット)を一貫して置きませんでした。
特にこの<第4番>の第3楽章は
行進曲的なスケルツォといった趣になっています。
ソナタ形式を上手く活用して、舞曲楽章の標準である
(複合)三部形式を感じさせるようなフェイクも織り込み、
まるで終楽章のように力強い音楽が構築されています。

第4楽章は、ブラームスの最高傑作と言う人も居る
シャコンヌ(パッサカリア)構造を採用した終楽章です。
テーマ+30変奏+コーダという構成は、バッハの
<無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番>の
終曲=有名なパッサカリア楽章や、
同じくバッハの<ゴルトベルグ変奏曲>の構成に通じる
伝統的な規模となっています。
しかし、ソナタ形式の洗礼を受けているロマン派の作曲家
としての独自性が盛り込まれています。
テーマ+9変奏(計10サイクル)が主要主題部、
続く6変奏(6サイクル)が緩徐部(副主題部)、
続く8変奏(8サイクル)が展開部、
更に続く7変奏曲(7サイクル)が再現部、
そしてテーマからなだれ込むコーダという構成によって、
シャコンヌ(パッサカリア)とソナタ形式が見事に融合を果たしているのです。

このブラームス<交響曲第4番>の他、
チャイコフスキー<交響曲第6番「悲愴」>や
マーラー<交響曲第9番>にも見られる
“4楽章構成の第3楽章に終楽章のような力強い音楽を置く”
という共通点は、単なる偶然ではないように思われます。
ロマン派の終盤という時代・社会状況が芸術家の心理に与えた影響が
何かきっとあるのだと考えられます。

YouTubeにクラウディオ・アバド指揮/
ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏が
アップされているので、リンクを貼り付けておきましょう。