チャイコフスキーの交響曲を探訪するシリーズも、
回を重ねて、いよいよ有名な三大交響曲に入ります。

交響曲第1番と第2番の初演がそれぞれ大成功となって、
またシンメトリックな5楽章構成を持つ第3番も発表して、
ロシアで最初の本格的なシンフォニストとしての地歩を
確固たるものに固めていったチャイコフスキーでした。
そして、続く交響曲を1876~77年に作曲しました。

この時期は、メック夫人がパトロン(支援者)になった頃で、
経済的に余裕がうまれた中で大作の作曲に没頭できたようです。
その甲斐あって、主題が強烈な印象を発散しつつ、
重厚かつ痛切な楽想と響きが密度濃く交錯する、
聴き手を圧倒するような迫力に溢れた作品が誕生しました。

私自身の若い頃は、全曲にわたってあまりに痛切であり、
また終楽章の極端な賑やかさにも共感できず、
正直に言うとこの曲は苦手でしたが、
歳を重ねるに従って聴くようになりました。

私の仕事場のライブラリーに在る愛聴盤CDは下記のです。

チャイコフスキー/交響曲第4番
ソフィア・グヴァイデゥーリナ/チェロ協奏曲
指揮=大野和士 チェロ=ゲリンガス
バーデン州立歌劇場管弦楽団
ANTES / BM-CD 31.9139
大野和士盤

チャイコフスキー/交響曲第4番
         幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」
シャルル・デュトワ指揮 モントリオール管弦楽団
LONDON / POCL 5118
デュトワ盤


###チャイコフスキー/
     交響曲第4番 ヘ短調 作品36###

第1楽章は、有名な"運命のファンファーレ"による序奏で
始まり、一気に切迫していきます。
やがてロマンが浮遊するような第一主題が提示され
そのまま発展してクライマックスに到達した後、
少々ユーモラスな第二主題と第三主題とも言える
発展的な経過部が続きます。
展開部では"運命のファンファーレ"も大活躍します。
この第4番と後年の第5番における序奏主題の
全曲にわたる活用は、大いなる見所・聴き所と言えるでしょう。
展開部終盤のクライマックスからそのまま
第一主題の強奏になだれ込む手法は、
この作曲家独特のものです。
終結部でも"運命のファンファーレ"が高らかに
そして痛切に奏されます。

第2楽章は、通常の(複合)三部形式と言うよりも
発展的な三部形式とでも捉えるべき構成の緩徐楽章です。
オーボエによる主要主題は、ロシア的で素朴でまた哀切です。
通常はヴィブラートを充分にかけて演奏されることが多いですが、
実はノン・ヴィブラートでも意外に効果が上がる旋律です。
中間部の副主題を経て、主要主題が回帰する第3部は、
単なる第1部の繰り返しではなく、なかなか手が込んでいます。
最後は主題が断片的なモティーフに解体されて
極めて静かに楽章を閉じます。

第3楽章は、極めて独創的なスケルツォ楽章です。
弦楽器のピツィカートのみによる意表を突く主部に対して、
前半は木管楽器、後半は金管楽器を主体とした
行進曲中のコラールのような中間部と、
それを敷延したコーダのコントラストが印象的です。

第4楽章は、 ABABAB "運命のファンファーレ" Coda
という構成を持つ、ロンド形式を応用した
大胆且つ個性的な終楽章です。
終楽章にドラマトゥルギーの頂点を持っていくという
べートーヴェンの「運命」以来の"闘争から歓喜へ" という
交響曲の存在意義のモットーを、
大きな振幅をもって具現していると言えるでしょう。
主要主題(A)は、あまりに楽天的に感じられますが、
副主題(B)はロシア民謡によるもので素朴です。
コーダは基本的に主要主題を活用したものですが、
その他の主題のモティーフも総動員となって、
輝かしいフィナーレとなります。

YouTube / チャイコフスキー:交響曲第4番:
      チェリビダッケ/ミュンヘン・フィル