周囲の期待にパロディックに応えた問題作!?=ショスタコーヴィチ/交響曲第9番 | 松尾祐孝の音楽塾&作曲塾~音楽家・作曲家を夢見る貴方へ~

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クラシック音楽の世界には、長い間、
ベートーヴェン以後のシンフォニストが、9曲を越えて、
つまり第9番を越えて、交響曲を完成できないという、
数字の魔力のようなジンクスが厳然と存在していました。
しかも、「誕生した交響曲第9番は堂々たる名曲である」
という結果も伴っていました。

ベートーヴェンのあの<第9>、
シューベルトの<ザ・グレイと>(現在の研究では第8番)、
ドヴォルザークの<新世界>、
未完ながら名作の誉れ高いブルックナーの<第9番>、
そしてマーラーの<第9番>という系譜を見れば、
確かに超弩級名曲揃いです。

まだ壮年期のショスタコーヴィチが既に<第8番>までを
発表していた第2次大戦中から終戦直後の時期、
ソ連国内はもとより世界中の音楽ファンからの、
いったいどのように壮大な<第9番>が誕生するのかという
大いなる興味と注目が、ショスタコーヴィチの
動向に注がれていたに違いありません。

しかし、1945年11月にムラヴィンスキーの指揮で初演された
実際の<第9番>は、5楽章の構成を持っているものの、
総演奏時間は30分に満たない規模というものでした。
ソヴィエト当局としては、
大いなる期待に肩透かしを食らわせれた格好になり、
"ジダーノフ批判"に繋がってしまいました。

現在でも、この作品は、概ねパロディックな問題作として
評価が定着しているように思われます。

#####<交響曲第9番 変ホ長調 作品70>#####

[第1楽章]
ソナタ形式による冒頭楽章です。
第2主題に相当するピッコロによるひょうきんな主題が、
この楽章の性格を決定付けています。
したがって、パロディックな印象ではありますが、
第2次大戦の終結を祝うかのような洒落た音楽でもあります。
筆者の印象としては、ベートーヴェンの<交響曲第8番>
のエコーも感じ取れるように思います。
提示部の繰り返しもあり、新古典主義で闊達な音楽です。

[第2楽章]
一転して、クラリネットのモノローグから始まります。
厭世観が漂う独特の緩徐楽章が進行していきます。
規模は小振りながら、哀切なメロディーが連綿と歌われる
印象深い音楽です。

[第3楽章]
この楽章から終楽章まではアタッカで通奏されます。
先ず第3楽章のスケルツォが始ります。
小粒ながらちょとしたパンチの利いた音楽です。
全音階的な主題と半音階的な主題が好対照を成しています。
スケルツォ・トリオ・スケルツォの伝統的な構成を踏襲した後、
ゆっくりとした悲しげな音楽に収束して次の楽章に続きます。

[第4楽章]
第3楽章と第5楽章を結ぶブリッジ(間奏曲)のような楽章です。
ベートーヴェンの<田園>の第4楽章に相当する存在、
とでも言えましょうか。
突如、トロンボーンとチューバのファンファーレが鳴り響くと、
続いてファゴットのカデンツァが続く構成はユニークですが、
音楽そのものは厳粛です。

[第5楽章]
ファゴットが第4楽章からこの終楽章の音楽を繋いで、
行進曲風でありながら物悲しくもある第1主題となります。
ショスタコーヴィチが得意としたロンド・ソナタ形式に沿って
音楽は次第にヴォルテージを上げていきます。
第2主題が弦楽器セクションによって奏された後、
展開部は、基本の2拍子に3拍子が交錯する
トリッキーな感覚も加えながら発展していき、
最高潮に達したところ再現部に突入します。
提示部とはかなり異なり、再現部では
妙に明るく騒々しく楽天的な音楽が突き進みますが、
最後は更にテンポを上げて第1主題による終結部になります。
ここでも3拍子を交えたトリッキーな感覚を交えつつ
一気呵成に駆け抜けて全曲を閉じます。

この終楽章には、ユダヤ民謡の旋律が
パロディとして含まれているそうです。
ナチス・ドイツの崩壊によってもたらされた
第2次世界大戦の勝利を描き、
また同時にユダヤ人の解放を意図した終楽章である
という解釈もあるということです。

何れにしても、一筋縄では捉えきれない内容と意図を包含した
ショスタコーヴィチならではの問題作です。

YouTube / スヴェトラーノフ指揮:
      ショスタコーヴィチ:第9交響曲


仕事場のライブラリーにあるCDは、この2枚です。

CD:ショスタコーヴィチ/交響曲第7番&第9番
   レナード・バーンスタイン指揮/シカゴ交響楽団
   グラモフォン / UCCG-4101/2
バーンスタイン盤

CD:ショスタコーヴィチ/交響曲第3番&第9番
   エリアウ・インバル指揮/ウィーン交響楽団
   DENON / COCO-70825
ショスタコーヴィチ交響曲第3&9番