ロシアによるウクライナ侵攻(侵略)に関する報道で、
テレビやネットが埋め尽くされている今日この頃です。
ロシアは広大な国土を持ち、東端は海を跨いではいるものの、
日本との隣国という関係にもあります。

日本の北方領土の話題が時折ニュースに上がってきています。
長年にわたって断続的に行われている日露首脳会談ですが、
このところ沙汰止みのようです。今後どのように推移していくのでしょうか。

さて、その北方領土に因んだ名作の紹介を再アップしましょう。
日本とロシアの交流の黎明期に、このような高田屋嘉兵衛という民間人が
強固な思考力と行動力をもって壮絶な生き様をみせていたことは、
知っておいて損はないと思います。

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忙しい日常の中で時間を見つけて、
良い本を読み終えると、清々しい気持ちになります。
司馬遼太郎著「菜の花の沖」(文春文庫全6巻)を
読み終えた時も、そのような感慨に浸りました。

司馬遼太郎の長編小説の中では、例えば
「竜馬が行く」(主人公=坂本龍馬)、
「燃えよ剣」(主人公=土方才蔵)、
「国盗り物語」(主人公=斎藤道三、織田信長、
明智光秀、豊臣秀吉、他)、等に比べると、
幾分地味な主人公の設定に思われて、
長らく読まずに居たのですが、
このところの尖閣諸島問題に見られるような
日本の領土問題に興味を持ち直して、
読んでみたという訳です。

最初は、主人公である高田屋嘉兵衛の出生地=
淡路島での出来事が綴られて、
江戸時代後期の農民や漁民の暮らしぶりや、
若者が育っていくにあたっての階級社会の仕組み等が、
丹念に描かれていきます。
時にあまりに理不尽な仕打ちを主人公が受ける場面も、
決して少なくはありません。

それでも必死に生き、知恵を絞り、
時に勇気を奮い立たせて、
主人公はやがて(坂本龍馬の脱藩にも似て)
故郷を脱出します。
やがて妻となる“ふさ”も嘉兵衛を追って、
兵庫に出てきます。
そして、天性とも思える航海術と様々な恩人との
出会い、そして幾ばくかの幸運にも恵まれて、
嘉兵衛は船持ち船頭から、
やがて廻船問屋にまで出世していきます。

この時代の北前船や樽廻船・檜垣廻船についても
記述がとても詳しく、
当時の日本の経済・流通の仕組みがよく理解できます。
その中で、松前藩が支配していた蝦夷地(北海道)が、
素晴らしい水産資源の宝庫だと見抜いていた嘉兵衛は、
蝦夷地に拠点を置いた活動を夢見るようになり、
やがてそれを実現していきます。

しかし、この時代はロシアが既に千島列島をつたって
南下を繰り返してきていて、蝦夷人(アイヌ)を介しつつ、
日本人とロシア人の領域は一触即発の状況でもあったのです。
私にとっては、北方領土の問題を改めて考え直す
機会にもなる、「菜の花の沖」の読書となったのです。

高田屋嘉兵衛の生き様に見る日本人魂と北方領土の歴史を、
じっくりと噛みしめながら、
現在の国際情勢を見つめたいと思います。

$松尾祐孝の音楽塾&作曲塾~音楽家・作曲家を夢見る貴方へ~-司馬遼太郎「菜の花の沖」第4巻&第5巻