R.シュトラウスは、駆け出しの時期の試行錯誤を経て、
やがて多楽章構成の交響曲への未練を断ち切って、
交響詩を中心に発表する道を選びました。
7曲の交響詩を発表した後、標題交響曲を2曲書き、
後半生はオペラの作曲にほぼ専念していきました。

###交響詩作品リスト###
交響詩『ドン・ファン』(1888年)
交響詩『マクベス』(1890年/92年改訂)
交響詩『死と変容』(1889年)
交響詩『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』
                     (1895年)
交響詩『ツァラトゥストラはこう語った』(1896年)
交響詩『ドン・キホーテ』(1897年)
交響詩『英雄の生涯』(1898年)

ここまでを先々週と先週にご案内しましたが、
この後のシュトラウスは、更に標題音楽を究めていきます。
タイトルも交響詩から標題交響曲に衣替えしました。

###標題交響曲作品リスト###
<家庭交響曲(Sinfonia domestica)> (1903年)
<アルプス交響曲(Eine Alpensinfonie)> (1915年)

今日はいいよ、これらの標題管弦楽作品の最後となった
<アルプス交響曲>のご紹介となります。
この作品は演奏時間が50分を超え、『英雄の生涯』を凌ぐ
標題管弦楽作品の中でも最大の作品となっています。
私の仕事場のライブラリーには、下記の通りの
LPやCDが在ります。

LP=R.シュトラウス/《アルプス交響曲》
   ルドルフ・ケンペ指揮
   ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
   EMI / EAC-80099
ケンぺ盤LP

CD=R.シュトラウス/《アルプス交響曲》
   ズビン・メータ指揮
   ロスアンジェルス・フィルハーモニック
   London / KICC-8490
メータ盤CD

####R・シュトラウス/アルプス交響曲####

一日のアルプス登山を音楽で表現している作品です。
この作曲家一流の楽想とオーケストレーションが
次から次へと繰り出される音楽は、
まるで映画のサウンド・トラックのようでもあります。
簡単に要約すると、次のようなストーリーに添って
楽想が進行していきます。

朝早く起きて、日の出の中を登山開始、
アルプスの山容を仰ぎながら次第に森に分け入り、
途中で滝に出くわし、水煙の中に幻影を見るも、
更に歩を進めて森を抜けて花咲く草原に出ます。
牛が放牧されている草原を横切って林に入ると、
深くにも道に迷ってしまいますが、
やがて道を見つけて林を抜けて氷河に出ます。
(この辺りまでを序奏と提示部と捉えることができます)

遠くで雷鳴が響く中、急峻な岩場を登りきって、
遂に頂上に立ちます。
暫し頂上からの眺望に見とれていますが、
次第に霧が立ち上ってきて太陽が翳ってきます。
何故か孤独で兼重な歌を口ずさんでいるうちに、
静寂の彼方から雷鳴が近づいてきて、
ポツリポツリを雨が落ちてきて、
嵐の前の静けさから次第に風雨が強まってきます。
(この頂上付近の部分を展開部と捉えることができます)

ウィンドマシーンによるによる風の音とオルガンの和音が
表現する雷雨の中を、急いで下山します。
登山の時の逆の順序で数々の動機やテーマが再現され、
それが下山の様子を表しています。
遂にはサンダーマシーン
(作曲家と特注で誕生した鉄板製打楽器)による
落雷まで炸裂しますが、やがて雷雨は収束していきます。
そして日没となり、登山者は哀歌を口ずさみます。
無事に帰り着いて一日を回想する中、
夜の帳が降りてきて静かに全曲を閉じます。
(逆行再現部と終結部と捉えることができます)

( )書きの注釈の通り巨大なソナタ形式とも捉えられるような
前後対称シンメトリックな構成を持つ音楽になっています。

YouTube / R.シュトラウス/アルプス交響曲 作品64
     【洗足学園音楽大学管弦楽団第57回定期演奏会】
      演奏:洗足学園音楽大学管弦楽団
      指揮:秋山和慶(本学芸術監督)
      日時:2008年12月7日 
      会場:洗足学園 前田ホール


リヒャルト・シュトラウスの交響詩と標題交響曲の探訪は、
この記事で一先ずお開きとしましょう。
まだオペラや協奏曲や晩年の管弦楽曲等に、
様々な名曲が在りますので、皆さんもどんどん聴いて
楽しんでみてください。