<飛来>シリーズ各曲の紹介を続けましょう。

このシリーズの作品群を書いていた時期、
つまり私の20歳台後半から30歳台序盤は、
根本的な作曲語法を開発した時期ということが言えると、
今から自分自身で振り返っても思います。

特に、オーケストラ作品を発表したいという夢に向かって、
大規模作品の "時間的・精神的な時空を持続できる構造法"
を獲得することが、自分自身に課した大きなテーマでした。

この時期の私にとって主要な作品発表の場の一つであった、
<深新會>(故 池内友次郎先生門下生の会を源とする同人)
で、1987年に弦楽オーケストラ展を企画することになり、
私も出品する機会に恵まれました。
当時、クラリネットの現代的奏法に強い興味を抱いていて、
クラリネットを含む室内楽作品を幾つか手掛けていた私は、
藝大時代の同級生=板倉康明氏の独奏を前提に、
この第3作を書き進めていきました。

弦楽オーケストラは比較的平易に書かれていますが、
クラリネット独奏パートは超絶技法を駆使していて、
その両者が融合・反発・対照を繰り返しながら、
あの乗鞍岳山頂の空間から触発された音楽と音響の時空を
連綿と生成していきます。

初演の本番を客席で聴いた感動は、今でも忘れられません。
大学院を修了して初めての大規模編成作品の初演でした。
以後、益々オーケストラ作品への想いを強くしていったのです。
特に、協奏曲作品の多様・多彩な可能性を
意識するようになったことも、
この作品の作曲が契機と言って良いと自分で思います。

また一方で、このようなクラリネット作品に於ける経験が、
やがて二重奏作品の<DISTRACTION>シリーズの
第1作の誕生にも繋がっていったのです。

人生の一コマ一コマ、何一つ無駄な瞬間は無い・・・
そして、何らかの形で次の人脈や行動に繋がっていく・・・
だから、人生は苦しいけれど楽しいのでしょう!

###<飛来>Ⅲ~クラリネットと弦楽の為の協奏曲~###
        (1987)

演奏時間:約14分

初演:1987年1月  こまばエミナース(東京)
<深新會第15回作品展>~弦楽オーケストラの夕べ~出品作品
演奏:指揮=村方千之 クラリネット=板倉康明 
   弦楽=東京メモリアルアンサンブル

再演:1999年2月 旧・東京音楽学校奏楽堂
PHONOSPHERE MUSICALE 主催
<18世紀風現代弦楽演奏会>
演奏:指揮=松尾祐孝 クラリネット=三界秀実
   弦楽=フォノスフェール・ミュージカル・
        ストリング・アンサンブル

北米でも演奏されたり、自分自身の指揮で再演もしましたが、
近年は演奏されていません。何方か挑戦してみませんか!。
独奏者さえしっかりしていれば、弦楽は
アマチュア・オーケストラでも何とか対応できると思います。

さて、今日の写真は、記事の内容とは無関係ですが、
ポルトガルの港湾都市=ポルトの新しい文化拠点、
Casa da Musica の外観です。
巨大宇宙鉱物の結晶か!?と驚くような、
斬新なデザインの建築です。
2007年に招待参加した現代音楽祭
<MUSICA VIVA>の会場でした。

$松尾祐孝の音楽塾&作曲塾~音楽家・作曲家を夢見る貴方へ~-Casa de Musica 外観