ドミートリイ・ドミートリエヴィチ・ショスタコーヴィチ
(Dmitrii Dmitrievich Shostakovich / 1906-1975)の
交響曲(全15曲)の探訪を一昨日からアップしています。

<交響曲第1番>(1926)が大評判となって、
国際音楽界に衝撃的なデビューを果たした
ショスタコーヴィチは、ソヴィエト体制からも
文化の担い手をして期待されたことでしょう。

1927年には、ソ連当局の一機関、
国立出版のアジアプロット局からの委嘱作品として、
前衛的な気概にも満ちた単一楽章構成による
<交響曲第2番「十月革命に捧げる」>を作曲しました。
少なくとも国内では大絶賛されました。

続く交響曲は、今度は委嘱作品ではなく
自発的に作曲されました。
その<交響曲第3番「メーデー」>は
1929年に発表されました。
第2番と同じように単一楽章ですが、
前衛的な表現は影を潜めて、
祝祭的な雰囲気が全面に出されています。
当時の国内で活動するにあたっては、
全世界のプロレタリアートの連帯や
ソヴィエト連邦建設の推進を賛美する作品を
書かざるを得ない事情が、きっとあったことでしょう。

このような点から、第2番と第3番は、
西側ではほとんど顧みられず、
長らく埋もれた作品になっていました。
しかし、作曲家の死後、その証言集などが
明るみになるに従って、ショスタコーヴィチが
巧みに体制批判のメッセージを作品に込めながら、
したたかに創作活動に続けていたことが
知られるようになりました。

##<交響曲第3番 変ホ長調『メーデー』作品20>##

前述の通り、第2番に続いて単一楽章で構成されています。
段落構成としては、次のような
4つの部分を指摘できるでしょう。
多楽章交響曲の伝統を活用しながら、単一楽章に
まとめた痕跡が感じられるように、私には思えます。
演奏時間は約30分で、約20分の第2番よりも
スケールアップしています。

[序奏+冒頭楽章部]
全曲を通してほぼ一貫して4/4拍子で進行します。
静かな序奏がしばらく奏でられた後、一転して、
早いテンポに変わって、前進的な音楽に入るところからが
主部と考えられます。
後年の交響曲第5番の第1楽章の第1主題の
発展を想起させる音楽が展開されます。
不協和音によるクライマックスの到達すると、
更に楽天的な行進曲調による前進が続きます。
やがて少しテンポを落としたところから、
ややゴツゴツした肌触りの音楽になって、
対位法的な発展も織り交ぜながら、展開部が進行していきます。
そして、ソナタ形式であれば再現部が置かれるべき部分に、
行進曲調に変容された音楽が置かれますが、
やがて消え入るように収束します。
自由にデフォルメしたソナタ形式のおうようによる、
冒頭楽章部、と捉えて良いでしょう。

[緩徐部]
突如金管の彷徨が鳴り響いた後、静謐な緩徐部が始ります。
哀切な旋律が心に滲みます。この部分でも、
交響曲第5番との近似生が感じられます。

[展開部+クライマックス]
再び、音楽は行進曲調になり、前進的に発展します。
クライマックスに上り詰めるかと思いきや、
更にリズム感が変わって、展開の様相に変化が加えられて、
更にスピーディーに疾走します。
やがて、テーマがたっぷりと歌い上げられつつも、
目まぐるしく楽想が転換するクライマックスに到達して、
小太鼓のロールと大太鼓のインパクトが印象的な強奏が
終わると、一端音楽は収束します。

[終楽章部]
何かの意志が動き出すような予兆のような低弦の響きと
金管の叫びが対話をするような序奏的(或いは間奏的)な
経過部の後に、合奏が登場して、メーデーを祝う讃歌
「最初のメーデーの日に」が高らかに歌い上げられます。

終盤の合唱で歌われる歌詞の内容はともかく、
確かな筆致によって書かれた発展的な音楽で、
後年の傑作の萌芽が随所に見てとれる作品です。
なかなかの佳品であると、私は思います。

仕事場のライブラリにはこのCDがあります。
CD:ショスタコーヴィチ/交響曲第3番&第9番
   エリアウ・インバル指揮/ウィーン交響楽団
   DENON / COCO-70825

ショスタコーヴィチ交響曲第3&9番