<東京フィルハーモニー交響楽団ヨーロッパ演奏旅行1994>
回想録もいよいよ最終回です。
ツアーの最後は、最重要公演と目されるロンドン公演でした。

国際オーケストラシリーズ案内冊子

このロンドン公演は、ロイヤル・フェステフィバル・ホールの
<The London International Orchestra Season
of the Royal Festival hall>シリーズに組み込まれた
注目の演奏会となっていました。
そのシリーズのラインナップを紹介しておきましょう。

◉1994年 9月26日:
    ロンドン @ ロイヤル・フェスティバル・ホール
 NHK交響楽団 / 指揮:エリアフ・インバル
♪マーラー/交響曲第9番

◉10月23日:ロンドン @ ロイヤル・フェスティバル・ホール
 東京フィルハーモニー管弦楽団 / 指揮:大野和士
♪R.シュトラウス/交響詩「ドン・ファン」
♪プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第2番
      (ヴァイオリン独奏:ラファエル・オレグ)
♪松尾祐孝/フォノスフェール第1番
      (尺八独奏=三橋貴風 付打ち=松尾祐孝)
♪ラヴェル/「ボレロ」

◉11月4日:ロンドン @ ロイヤル・フェスティバル・ホール
 ベルリン・ドイツ交響楽団 /
         指揮:ウラディミール・アシュケナージ
♪シューマン/「ヘルマンとドロテーア」序曲
♪シューマン/序奏とアレグロ
      (ピアノ独奏:クリスティナ・オルティーズ)
♪メンデルスゾーン/交響曲第2番「讃歌」
      (合唱:ブライトン音楽祭合唱団)
      (ソプラノ独唱:ジュリアン・バンセ)
      (メゾ・ソプラノ独唱:シビラ・ルーベンス)
      (テノール独唱:ヴィンソン・コール)

◉11月15日:ロンドン @ ロイヤル・フェスティバル・ホール
 ブルノ・フィルハーモニー管弦楽団 /
         指揮:レオシュ・スワロフスキー
♪ヤナーチェク/歌劇「売られた花嫁」序曲
♪ストラヴィンスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ調
      (ヴァイオリン独奏:イゴール・オイストラフ)
♪スーク/幻想的スケルツォ
♪ヤナーチェク/シンフォニエッタ

◉1995年 2月20日:
    ロンドン @ ロイヤル・フェスティバル・ホール
 ノヴォシビルスク・フィルハーモニー管弦楽団 /
         指揮:アーノルド・カッツ
♪プロコフィエフ/組曲「キージェ中尉」
♪ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲第2番
      (ピアノ独奏:ポール・クロスリー)
♪ラフマニノフ/歌劇「吝嗇な騎士」より~騎士のモノローグ
      (バス独唱:アナトリ・サフューリン)
♪ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」

ロンドン公演チラシ

ロンドンでは、地下鉄の駅にもチラシと同じデザインの
特大ポスターが掲出されるなど、
広報にも力が入っていた模様でした。

3140人収容という巨大なロイヤル・フェスティバル・ホール
での公演に一抹の不安があったものの、蓋を開けてみれば
2800名近くの動員に恵まれてビックリ仰天、
会場は熱気に溢れていました。

プログラム頁

冒頭の「ドン・ファン」から気勢を上げた東京フィルは、
オレグ氏の独奏と共にプロコフィエフを見事に彫琢。
そして休憩を挟んでいよいよ拙作「フォノスフェール第1番」
の荘厳な序奏が始まりました。
この日の三橋氏は、人生を賭けたパフォーマンスを
心に期しておられた様子で、現代作品であるこの作品を
何と全曲暗譜で演奏されました。

オーケストラが静止する中での
三橋氏の尺八独奏と小生の付打ちの掛け合いは、
3000人近くが固唾を呑むように注視する緊張感が、
プレッシャーを超えて心地よくさえあり、
素晴らしい時間を体験できました。
彷徨一撃全曲を閉じた後の拍手喝采は想像を絶するもので、
何度も何度も私たちはステージに呼び戻されました。
遂に、三橋氏がアンコールとして「鶴の巣篭り」の
一節を吹くというパフォーマンスが追加されました。

ロンドン公演ステージ

さて、感激に浸ってばかりも居られません。
直ぐに下手の回って、ジュー・ド・タンブルを
演奏しなくてはなりません。
「ダフニスとクロエ」組曲第2番の繊細かつ鮮烈な響きの中で、
充実感と幸福感を全身で感じながら、
最後の演奏にあたったのでした。

「ダフニス」最後の和音が炸裂し終わるやいなや、
再びホールは大喝采となり、
拍手は延々と続くように思われました。
サティ/ジムノペディ第1番(ドビュッシー編)が
アンコールで演奏されて、それでもまだ拍手は盛大に続き、
開演から2時間半を超えて漸く終演となりました。

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CD「'94年 東京フィル ヨーロッパ演奏旅行ライヴーⅠ」
(ミュンヘン&ロンドン) Live Notes / WWCC-7262
$松尾祐孝の音楽塾&作曲塾~音楽家・作曲家を夢見る貴方へ~-PHONOSPHERE1東京フィルCD
このジャケット写真がロイヤル・フェスティバル・ホールの
ステージでの演奏風景です。この中に、紋付き袴姿のまま
ジュー・ド・タンブルの前に佇む私が小さく写っています。
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終演後、ホールの楽屋の大きな一室に、
楽員全員とスタッフが集まり、
軽食と飲み物で打ち上げとなりました。
丁度、当時の手兵のノールショピング交響楽団の
日本演奏旅行を終えてロンドンに戻って来られた
若きマエストロ=広上淳一氏も演奏会に駆けつけてくださり、
打ち上げから深夜の二次会まで同席してくださいました。

皆々、演奏の充実の手応えと、重圧からの解放感から
すっかり陽気になっていて、現地スタッフのスピーチに
「日本人がこんなに陽気になるとは知らなかった!」
と言わしめるほどの盛り上がりとなりました。

ホテルに戻ると、今度はBARコーナーを占拠して、
最後には大野和士vs広上淳一の指揮者漫談&物真似コーナー
に発展して、飲みながら、笑い転げながらの、
痛快な一夜になったのでした。

ロンドン公演プログラム冊子

素晴らしい経験と想い出を胸に刻んで、
25日に帰国の途についたのでした。