吉祥寺ハードロマンス 01 | Phizatto Official Blog "POP" ON THE RIGHT HAND, "ROCK" ON THE LEFT HAND.

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ベースギターを弾きながら歌うPhizatto(ふぃざっと)の日常ズラズラブログ。立川・八王子で活動中!?

とある日の11時頃。此処、東京都武蔵野市吉祥寺。男と女が二人居る。

朝から何故か知らないが騒々しい。元々この街は賑やかなのだが、どうも二人が立つ間だけが異様に重苦しい雰囲気が出ていて、騒がしいのだ。

どうやら男が女に責められているようだ。必死に謝る男を無言で見下す女の目から冷徹且つ一方的で、立ち上がれなくなるような重圧を発していた。男は怯えながらも土下座し続けていた。

 

男の名は十津川猛男。28歳。冴えないプログラマであり、役職無しの一般社員である。父と母と3歳年下の妹と4人暮らしである。平凡な大学を無事に卒業し唯一採用された中小企業に就職している。仕事の出来はそこまで良いものではなく中の下程度。特に先輩や後輩から大いに慕われることはなく、昼食も一人でとる時が多い。休みはほぼゲームかお絵かきに費やす。要するにオタクなのだ。男は必死に叫んだ。

「済まない…約束守れなくって…。残業で仕事が延びちゃったんだよぉー!

一緒に此処で遊んだり買い物したりしようていう約束、守れなくて…本当に…本当に申し訳ございません!許してくださいっ!!!」

男の必死の謝罪を女の雷撃が遮った。

 

「何よ!」

女の名は勝馬栄美。26歳。とある会社でOLをやっている。男とは違い仕事はできる方で後輩から慕われている。時間を守ることを厳しく心掛けている。都内のアパートで独り暮らしをしている。しかし親の教育が良かったのか、だらけた生活をしておらず、勉強や運動そして規則正しい生活をこなしている。女はさらに追撃した。

「今更謝ったところでね、失った時間は取り戻せないのよ!

あんたが左手につけてるもの何?時計でしょ?なんのために時計つけてるの?普段からろくに時間管理もしようとしないくせに…。」

女の雷撃は止まらない。

「そうやって、仕事も残業しないと終わらないとか短期間でこれやれと頼まれたとか、あんたバカなの?無能への道をたどってるだけじゃない!その無能さが、一生に一度のかけがえのない時間を無駄にしてるのよ!!」

 

雷撃が止まり、二人の間に沈黙が発生した。男は何も言い返せず、うううとうなっている。その数秒後、男が突然何か閃いたように返した。

「そ、そんなのわかってるよ!わかってるよ!

じゃ、じゃあ!じゃあさ!じゃあ、その!!そのお詫びは何時か、そう、100倍!100倍にして返すよ!!」

「...100倍?」

女は冷徹な瞳で男を睨んだ。本当に哀れで馬鹿な男だ。これまで約束を何回破り、何時間無駄にしたというのだ。

付き合って3年間の中、交わした約束を18回パーフェクトで破ってるんだぞ。しかも1回につき一緒にいるはずだった時間は3時間で合計54時間。それを100にした5400時間、即ち225日間をどう償うというのだ。

「そうそう!ひゃ、100倍!100倍!ふひひひひ...」

男が苦し紛れにとった行動は、手でメガネの形を作り哀れなギャグで女をなだめようとしたことだった。しかも左手の全ての指で丸を作り、右手は親指と人差し指で丸を作り、それ以外の指をまっすぐ立て、「100」の形を成している。女が真剣にキレている最中よくこうふざけられるものだ。

 

女は当然キレている。もう、このクズ男には何も期待しない。容赦しない。哀れみすら感じない。

我慢できなくなった女は男を殴った。

「てめぇ、ぶっ殺すぞ!?自分が犯した過ちと今言ったことの重みとか全然わかってないでしょ!?」

男は倒れ、わーわーわーごめんなさいーすみませんでしたーと必死に喚いている。その中、女は続けた。

「どうせ100倍とか返しきれないの、もう見え見えなのよ!

そんなものは、もう要らないの。その代わり一つだけ許す方法を教えてあげる」

女がそう放つと、男の胸ぐらをつかんだ。

男はおびえ、顔をこわばらせている。きっと何かが来る!で、でも、痛いのだけは勘弁な!?そんな恐怖に飲み込まれた男も気にせず、女は宣言した。

「貴方の顔を、一発、ぶん殴りますわよ!!!」

 

バキッ。

吉祥寺の中から生々しい打撃音が響いた。

こうして二人の時間は終わった。それぞれが家に帰った。そうして吉祥寺の空も紅く染まっていく。特別に変わったことがあるならば、強いて言えば、二人の顔も赧く染まっているところだろう。

男の顔は女の裁きにより赧く腫れている。女の顔は男への怒りで赧く燃えている。だけど不思議なことに何故か別れに発展することがない。このサイクルが何回も続くのだ。繰り返されるこの「赧」で辛くも二人は結ばれ続けているのだ。

これが吉祥寺ハードロマンスである。