「勉強は順調?」
と聞くと、
「一つも単位を落としていません。私は優等生ですよ。」
それは予想通りだ。
この生徒を初めに受け持ったのは、高校三年生の夏。私立医学部の推薦試験を控えていた。優秀だったから、私が熱を入れて指導しなくても、あっさりと理解が及ぶ生徒だった。
想定通りに推薦の学力試験に合格した彼女は、面接試験に進んだ。面接試験の倍率は1.4倍くらいだったかな。まあ楽勝だと思っていた。
ところがこれに落ちるんだよね。理由は、医学部入試の難しいアヤによるもの。
推薦入試は定員も多くないから、大学側はなるべく同じ高校から重複で合格させたくないと思っていたのだろう。実は彼女の他に同じクラスから出願していた生徒がいて、彼女は落選してしまった。
失意の内で、その年の一般入試も落としてしまった彼女は、うちの予備校で浪人生活を始めた。その頃にはもう前向きな気持ちになっていた。
その年、別の私立医学部を今度はしっかりと射止めて、今に至る。
実はこの話には、本当に大きなアヤがあった。
彼女が落ちた医学部には高校のクラスから他に一人出願していた。彼女が今通っている医学部にも、同じクラスから一人出願していた。
つまり彼女は、どちらに出願するかを選べるが、どちらに出願しても競合することになっていたわけだ。
そして、彼女は競合に敗れるわけだが、もし別の選択をしていたら?
実はもう一方の大学に出願していた生徒は、私の教え子だった。学力的には彼女には全く及ばない。しかし奇跡的に推薦合格を掴んでいた。もし奇跡の合格がなかったら、あと一年どころではない時間がかかっていたかもしれない。
もし仮に、彼女が別の選択をしていたら、どういう結果が起こったのか?
この話は、彼女が予備校を卒業するときに話したのだが「入試は微妙なものですよね」と彼女は言っていた。
入試も人生も、観客には結果しか映らないけれど、その過程は凄く複雑なものだ。
いくた
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