部活も楽しく励み、共学らしく彼氏もいて、明るく前向きな子でした。
きちんとした性格だったので、定期試験の成績はとてもよく、もちろん赤点など取ったことは一度もありません。私としてはこのまま堅実に勉強を継続させて、岐阜大学を狙わせていけばよいという方針を立てていました。
ところが事件が起きます。高2の学年末試験、彼女は体調不良や疲れなどから若干集中力を欠いていたようです。人生初めての赤点を取ってしまいました。普通の人であれば、そんなことは気にしないで普通に追試を受けるだけですよね。
でも彼女はその事で深く傷付いてしまいました。自分を全否定されたような気持ちになってしまったようです。
精神的に病み、過食に走り、すっかりふさぎこんだ様子になってしまいました。精神科の病院で薬を処方される事態にまでなりました。
その件は春休みを経ることで、また落ち着きを取り戻し、元に戻った様子でしたが。
この件で私は、入試に関する方針を変更することにしました。ギリギリまで追い込み、センター試験を目指し、二次試験まで、これを彼女に課すことは難しいのではないかと考えたのです。
そこで伝家の宝刀、指定校推薦を使うことを提案します。なんといっても彼女は、一回は赤点を取りましたが、元来真面目な優等生です。成績は申し分ありません。私は名古屋のとある私立大学をお勧めしました。本人もお母さんもこの提案に賛成で、その線でやってみることになりました。
しかし、再び事件が起こります。その頃彼女の高校は、校長先生の勇退間近ということで、それを盛り上げようと、国公立大学合格者数を増やす計画に邁進中だったのです。進路指導の先生に指定校推薦の相談に行ったところ
「みんなが団結して受験に向かおうとしているところに、そんなずるい手段で大学に行こうなんて、和を乱す行為だ」
とか言われたらしいんですよね。
ということで、精神科に逆戻りです。
参ったなー、と私も思いましたよ。
結局、お母さんと話し合いながら、うまく進路指導の先生を抜きにしながら指定校推薦の話を進めてもらうことにしました。
指定校推薦でいくとなれば簡単な話です。国立推進主義には競合相手がいないのですから。彼女は10年前のちょうど今頃、大学合格を決めました。
大学進学後は楽しく大学生活をしているということは聞いていました。田舎娘でしたが、都会生活で実家も近いのは、好奇心も満たせてかつ安全安心です。そして教員採用試験にも一発合格で教師になります。3年前に彼女の妹さんの大学入試対策に彼女の家に行ったのですが、彼女から「もうすぐ結婚する」と報告をもらいました。今でも教員として頑張っているようです。
楽しい人生になってよかったと思いましたよ。やっぱり文科大臣の発言の通り、身の丈に合った受験をしたからでしょう。
元を辿ると、実は高校受験のときから選択がうまくいっていたようです。中学でも彼女は優等生ですから、高い内申点を持っていました。しかし、中学の先生が彼女の揉まれ弱さに気が付いていて、持っている内申点より低めの高校をお勧めしてくれていました。
それが幸いして、高校生活も楽しくなり、大学進学もうまくいき、そうしている間に精神面でも成長して、教員としてもやっていけているんですね。
ちなみに彼女は、高校3年のときにもう一度だけ赤点を取ってしまいます。そのときには全然パニックにならず、平然とむしろ逆にネタにして楽しんでいるような雰囲気でした。
人生の中で失敗は必要不可欠です。私達大人の役割としては、転ばぬ先の杖を用意することではなく、うまく適切に転ばせてあげることですよね。大怪我をしないように見守るだけです。
こうして、転びながら立ち上がりながら歩んできた彼女ならば、子供達をうまく転ばせてあげられると思います。
いくた