新・地図のない旅シリーズの二冊目。


第1部 身辺への旅

 34のエッセイの中で、私の過去の経験を思い起こさせてくれたのは、「笑いの渦のなかで」。


 著者が若い頃、アメリカの代表的な作家ヘンリー・ミラーと一緒に、ステージのショウを見に行ったときのこと。歌や踊りの合間に人気のある語り手が、言葉を発するたびに満員の客が、大爆笑し、腹を抱えて笑い転げる。

 それをみて、著者が思わず呟いた。

「アメリカの芸人さんは幸せだね。客が笑おうとして必死で待っているんだもの。ひとことなにか言うだけで大爆笑。日本人の客は斜に構えて、なかなか笑おうとしないからね」

 著者の友人がヘンリーさんに通訳すると、彼は首をふってこいう言った。

 「いや、アメリカ人はみんな、ふだん死ぬほどストレスを抱えているのさ。必死で笑っているんだよ。可哀想に」


 15年ほど前にアメリカの中西部に駐在していたとき、アメリカ人がストレスに弱いことを実感した。競技などでアメリカ人のメンタルの強さを見せつけられることが多いだけに意外だったが、これは特別な訓練を受けたアスリートだけの話のようだ。

 時代が代わって、最近では日本人も落語会などでよく笑うようになった。


第2部 追憶への旅

 著名人との交流や、父親や母親の思い出、自身の振り返りが追憶されている。

 「八十過ぎての手習い」では、著名な作家である著者にして、「この歳になっても知らない事が多い」という。

 50歳を過ぎて作家活動を中断して京都の大学で学んだ著者らしく、いつまでも学ぼうとする姿に心を打たれた。