任侠一門に生まれながら、縁あって歌舞伎の世界に足を踏み入れた喜久雄。以降その世界にのめり込んでいく。
三代目花井半二郎を襲名するも、血筋という確固たる後ろ盾がない喜久雄にとって、歌舞伎界で上を目指すのは容易なことではない。
世間の荒波に翻弄され不遇の日々が続く。
しかし、持って生まれた類まれなる美貌と舞台で輝くカリスマ性、そして全てを芸に捧げる強い意志が、喜久雄を次第に確固たる存在に押し上げていく。
胸の内を共有できる者もおらず、神格化され、孤高の存在となった喜久雄は、自分の世界だけで生きるようになる。舞台と現実との区別はなくなり、その目に映るのは現か幻か。そして求め続けた「美しい景色」についに辿り着いたとき喜久雄は・・・
前半はストーリー展開がスピーディーで、どんどん時代が流れる。ちょっと呆気ないくらい。
それが後半にかけて次第に濃密になり、ラストに描かれる舞台の描写は圧巻だ。
芸の上達以外すべてを犠牲にしてもかまわないという喜久雄の生き方は、周囲の不幸を踏み台にしてのし上がっているようにも見られてしまう。それでも、その才能に惚れ込んだ人々によって支えられ、陰の部分は引き受けられ、表舞台に立つ喜久雄の光はますます強く輝く。
凡人からすれば、引退した後、孫たちとゆっくり余生を送ってほしいと思ってしまうけれど、そんなことは喜久雄からすれば死より辛いことなんだろう。
永遠に舞台に立ち続けていたい。
そんな芸人魂に魅了される。
でもやっぱり、子どものころから「弁慶と牛若」のような関係だった徳次と再会して、少しは人間味を取り戻してほしいなと思わずにはいられない。
喜久雄は吉沢亮さん、切磋琢磨するライバル俊介は横浜流星さんで映画化されるらしい。ビジュアル的にぴったりだな。