津波に飲み込まれ、一夜にして壊滅状態になった美浜島。
そこで生き残った島民はたった5人だった。
中学生の信之と美花、小学生の輔。
輔の父親。そして灯台守のじいさん。
抗いようもない圧倒的な自然の暴力に見舞われた直後、信之は愛する美花を守るために罪を犯す。
それは封印されたまま20年が経った。
それぞれの道を歩んでいるかに見えた5人の運命が交差するとき
闇に葬られた過去と新たな暴力が蘇る・・・
え、これ三浦しをんさんだよね?と何度も確認してしまうくらい
今まで読んだ本とはテイストが違った。
東野圭吾さんの『白夜行』や『幻夜』を彷彿させるような不穏な空気を感じながら
ストーリーに引き込まれ、一気に読んだ。
(以下ネタバレ含みます)
幼い頃から父親の理不尽な暴力を受けて育った輔は、
信之が自分のことを蔑み嫌悪していることを感じつつもつきまとわずにいられない。
思慕と憎しみがない交ぜになった屈折した心情。
「ゆき兄ちゃん」は自分を助けてくれると信じたい気持ちを持ちつつ、
自分を軽蔑している信之に対して優位に立つことに喜びを感じつつ、
信之に殺されるかもしれないと怯えつつ。
でも、最後に大事な切り札を信之の妻宛に送ったのは、輔の優しさだと信じたい。
「使命」を終えた信之が、妻子の待つ家に帰るのも興味深い。
そこが信之の「帰る場所」になっていることに、信之自身は気づいているのだろうか。
嘘や秘密で固められた偽りの家族だったとしても
打算や諦観によって結びついている関係だったとしても
紛れもなくそこに「家族」がいることに。
やがてまた罪が暴かれるときがくるかもしれない。
でもそのとき、自分が孤独ではないことに気づけるといいなと思う。
なんかやりきれないストーリーだなと思ったけれど、そう考えると少し光が見える気がする。