外界から侵入した者があると聞き、私はその場に赴いた。
「………………」
そこは広大な草原地帯だった。
そこに、幼い少女がただ虚空を見つめてたたずむ姿を見つけたのだ。
私はその子を創った覚えはない。であれば必然的にその子が侵入者だということなのだろう。
私は少女に声をかけてみた。害意がなければ交渉の余地は十分にある。
「・・・・・・何してるんだい?」
その声に反応し、少女は視線をこちらに向けた。
生気のない、光を失った目だった。
「なんでもない」
何もわからない。と、彼女は言った。
魔界に足を踏み入れた経緯はおろか、それ以前にいた場所も自身の名前すら思い出せない、と。
あの瞳はすべてを失ったが故に虚無を有していたのか。
――――放ってはおけないな。
「それじゃあ、この子は私が引き取るよ。」
「よいのですか?」
立ち会っていた警備の者が訊ねた。そういえば初めて口を開いたな。
「構わないさ。どうせ、暇だしね。」
神綺は自虐も込めて返した。
「という訳だから、よろしくね。」
「…………」
私が話しかけるも、少女の反応はない。いや、顔はこちらに向けてはいるから、何を言えばいいのかわからないという風が妥当なところか。
「………では、私はこれにて失礼させていただきます。」
「あ、うん。おつかれさま。」
生真面目な性格をしている彼は自らの職務に関係がないと判断したのか、速やかに退室していった。うむ、いい部下だ。
しかし、引き取るとは申し出たものの、どうしたものだろうか。
少女はただまっすぐにこちらを見つめ続けている。
「とりあえず、私の名前は神綺っていうの。」
「しん……き?」
「そう。貴女は・・・・・・そうね、名前を付けてあげる。」
私を見つめたまま彼女は小首をかしげた。その姿に、突如見知らぬ世界へ迷い込んだ童話の主人公を重ねてみた。
「”アリス”・・・・・・でどうかしら?」
「ありす」
少女は復誦した。気に入ってもらえると嬉しいな。