気分が悪い。
それはそうだ、毒を盛られ、悔恨の歴史を見せつけられれば誰だって気のいいものではない。
「それにしても、夢の中で殺されかかるって・・・・・・」
それほどにアリスに対して負い目を感じていることなのだろうか。
神綺にとって最も大きな失敗である。魔界が侵略されたことではない、小さな女の子の心に深い傷をつけてしまったのだ。
「ああ、もうっ!」
首を振って気分を切り替える。今ここでいくら悔やんだって過去が変わるわけでもないんだ。
神綺は椅子の背もたれに寄り掛かった。
「まだ帰ってきてないか。」
かの少女は『オモテ』の様子を見に行ったきりだが、そもそもどれくらいの時間がたったのだろうか。
――――眠い・・・・・・
たった今まで寝ていたというのに三度眠気が襲ってきた。
まぶたを閉じると誘われるかのように夢の世界へ落ちて行った。
――――夢・・・・・・だな。
神綺は白い部屋にいた。床も壁も天井すらも真っ白だ。今壁の一部に触っているが、こうでもしないと距離感が全くつかめない。
まぎれもなく夢の中だろう。こんな不可思議空間は現実の世界にはありえない。
しばらく見まわしていると、一冊の分厚い本が床に落ちているのが見えた。
「これは・・・・・・」
見覚えがある。以前、神綺自身が所持していた魔道書だ。使い手を選ぶが持てば強大な力を得る。
ちなみに今これはアリスがもっているはずだ。
‥‥‥‥‥‥いつ渡した?
侵略事件当時はアリスはこれを持っていなかった。持っていたら間違いなくこの本を持って侵入者に立ち向かっていただろう。しかし、アリスは使い魔を従えていっただけだった。
――――『今度こそやっつけたいんだ!』
――――『このまま引き下がってなんかいられないわ!』
――――『え、そんな大事なもの、いいの?』
――――『ありがとうっ!』
そう言ったアリスは最高の笑みを浮かべていた。
「――――っ!!」
なんだ、今のは。
神綺は壁を背にして頭をおさえた。
確かに神綺はアリスにグリモワールを渡した。これは事実だ。しかしいつ、どのように渡したのだ?
「よぉ。」
「!?」
突然声をかけてきたのは白黒の、いかにもな魔女の格好をした少女だ。
「お前さんからしても、お久しぶりかね?」
少女は向かい合わせに置かれた二台のソファの片方に腰をかけていた。久しぶりということは以前会ったことのある人物だろうか。いや、容姿はどことなく―――
「・・・・・・誰だ?」
「おや、わすれられちまったかい?暴れん坊の巫女と一緒にお邪魔した魔法使いだぜ?」
―――いつぞやの似非魔法使いにそっくりではないか?