(60)新海誠監督SF恋愛アニメ「雲の向こう約束の場所」とPTSDの薬物治療
2004年暮れに第3論文「るいそう、下肢麻痺など多彩な症状を呈した 複雑性外傷後ストレス障害に精神療法と薬物療法が著効した一例」を執筆していてPTSD患者にどういう条件でSSRI(パロキセチン)の外傷記憶回復作用が生じるのか考えあぐねていました。ネットの予告で気になった新海誠監督のアニメに惹き付けられるように、福岡に新幹線で見に行きました。少年と少女が交わした約束とその履行が壮大な未来科学を巻き込んで世界の破滅と救済の要になるというストーリーでした。帰路の駅のホームで突然ひらめきました。患者と治療者の私が交わした暗示(ラポール)による約束(治療契約)が後催眠暗示(アンフリュアンス)として持続し、その時に服用したSSRIのみが治療的に作用するのです。後催眠暗示の重要性は当時精読していたエレンベルガーの大著「無意識の発見」の中でPTSD研究先駆者のピエールジャネが強調していたことながら、初めて自分の臨床経験の中で消化されたのです。新海氏とはいつも舞台あいさつを逃してしまうのですが、優れた創作者の作品は科学的精神医学の発見としばしば重なりあうという好例でしょう。