裏車掌です。
本(ほぼ新書)を紹介する記事を
中心にブログの更新を続けています。
本の紹介記事は、
主に日曜日と木曜日の朝7時に
更新となっております。
本年もよろしくお願いします
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
本ブログは、本年も昨年と同じ方針で続けるつもりです。
本年最初の記事は”海老原嗣生著『外国人急増、日本はどうなる?』”の紹介記事となります。
はじめに:タブーが「主要テーマ」になった背景
日本社会で長らく正面から語られにくかった「外国人問題」。
本書は、「外国人問題」が政治・社会の中心議題へと浮上してきた現状を、データと制度理解に基づいて捉え直す新書です。
クルド人をめぐる事件報道や不法滞在の話題が注目を集める一方で、議論が過熱しやすいテーマだからこそ、著者は「感情ではなく事実」に立ち返る必要性を強く訴えます。
本書は排外主義にも、性急な受け入れ礼賛にも寄らず、現実に即した「落としどころ」を探るための土台を提供してくれます。
論点の整理:焦点は「2%」ではなく「98%」です
本書の核となる問題提起は明快です。
世間の関心が「不法在留外国人が増えているのでは」という不安に偏りがちな一方で、不法在留者は外国人全体のわずか2%に過ぎず、残り98%は正規に在留している――この事実をどう受け止めるべきか、という点です。
国政選挙の争点にまでなるほど社会が揺れる場面でも、「例外」にスポットが当たり続ければ、制度設計も現場対応も歪みます。
著者は、治安やルール違反への対処は当然必要だとしつつも、それだけでは将来の日本を支える議論にならないと説きます。
現状認識:人口減少と労働力不足は「回避不能」の前提
日本が直面する最大の構造問題として、本書は人口減少と労働力不足を据えます。
2030年代後半には労働人口が年間約100万人規模で減り続ける可能性が語られるなか、外国人の受け入れは「好き嫌い」ではなく、国家運営上の前提条件になりつつあります。
ここで重要なのは、単に人数を補う発想にとどまらず、どの領域で、どのような制度で、どのように共生を成立させるのかという設計図です。本書は「人手が足りない。
しかし不安もある」という社会の矛盾を直視し、議論を現実の課題に引き寄せます。
誤解への検証:賃金低下・治安悪化は本当に起きるのか
外国人労働者の増加に対して、「賃金が下がる」「治安が悪くなる」という通念がしばしば語られます。
本書は、こうした見方を頭ごなしに否定するのではなく、データを用いて再検討する姿勢を取ります。
どの職種・地域・雇用形態で何が起きているのかを切り分け、イメージ先行の議論に「検証」というブレーキをかける点が特徴です。
読者に求められるのは、賛成か反対かの二択ではなく、どのリスクが実在し、どのリスクが誇張されているのかを見分ける目だといえるでしょう。
制度と現場:リベラルな性善説にも冷静に向き合う
本書は「受け入れ推進」の立場を単純に採るのではなく、制度運用の歪みも具体的に扱います。
たとえば難民認定制度をめぐっては、本来の趣旨と異なる運用や、就労目的の偽装申請といった問題にも触れ、理念先行の性善説だけでは制度が持たない現実を指摘します。
つまり、共生を語るなら、ルール整備と執行、現場の負荷、悪用への対策まで含めて設計しなければならない、という立場です。
このバランス感覚が、本書を「実務に資する議論」へと引き上げています。
社会の選択:共生を拒み続けることの地政学的リスク
さらに著者は、外国人政策を国内問題としてだけ捉える危うさにも言及します。
もし日本が在留外国人との共生を拒み続け、排除の姿勢を強めれば、将来日本が危機に陥ったとき、支援や協力を申し出てくれる国が現れにくくなるかもしれない――この指摘は、外交・安全保障の観点からも示唆的です。
外国人受け入れを「国内の摩擦」だけで判断するのではなく、国際関係の中で日本がどう見られ、どう振る舞うかという長期視点を促します。
後半の提案:「守り」から「攻め」の外国人材戦略へ
本書後半で特に印象的なのは、外国人を単に労働力として受け止めるのではなく、日本で学び働いた外国人が帰国後に“親日派・知日派”として各国で影響力を持ち得る点に光を当てていることです。
著者は、こうした人的ネットワークを外交・経済・安全保障に活用する「攻めの戦略」へ転換する構想を提示します。
日本語の普及構想も含め、外国人政策をコストや不安の対象としてのみ扱うのではなく、長期的な国益を生む投資として再設計する――本書はその方向性を具体的に想像させます。
まとめ:極論を離れ、理性と戦略で向き合うための一冊
『外国人急増、日本はどうなる?』は、外国人問題をめぐる議論が感情や印象に流れやすい時代に、まず事実を整理し、次に制度と現場を見つめ、最後に国家戦略へと視野を広げる一冊です。
不法在留という「2%」への対処を怠らず、同時に正規在留の「98%」とどう共生し、どう国益に結びつけるのかを問う構成は、読者の思考を現実へ引き戻します。
外国人受け入れを「賛否」で片づけず、日本の将来設計として考えたい方にとって、有用で示唆に富んだ新書だといえるでしょう。


