裏車掌です。

 

昨年から本(ほぼ新書)を紹介する

ブログになっております。

 

本の紹介記事は、

日曜日と木曜日の朝7時

更新となります。

 

よろしくお願いします。

 

「最期の居場所」が見つからないという現実

「貯蓄があっても、賃貸住宅に入居できない」——そんな話を耳にしたことはあるでしょうか。

 

高齢者、とりわけ単身で暮らす高齢者にとって、住まいの確保がいかに困難であるか。

 

本書『単身高齢者のリアル――老後ひとりの住宅問題』(葛西リサ著)は、その厳しい現実を多角的に検証した一冊です。

 

 

著者によれば、8日以上発見されない「孤立死」は年間2万件を超えるといいます。

 

核家族化や未婚率の上昇、離婚の増加により、単身世帯は今や社会のマジョリティになりつつあります。

 

それにもかかわらず、日本の住宅システムは依然として「一住宅一家族」を前提としたままです。

 

本書は、こうした構造的な問題を浮き彫りにしながら、単身高齢者が安心して暮らし続けるための社会の仕組みを模索しています。

 

 

 

 

孤独死の現場が物語るもの

本書の冒頭では、孤独死の現場から見えてくる問題が詳細に描かれています。

 

「変な匂いがする」という近隣からの通報で発見されるケース、いわゆる「よくわからない死」の増加。

 

不動産業界が孤独死を敬遠する背景には、事故物件化による資産価値の低下という経済的な理由があります。

 

 

さらに深刻なのは、セルフネグレクト(自己放任)の問題です。

 

生活意欲を失い、食事や衛生管理ができなくなる状態は、いわゆる「ごみ屋敷」問題とも密接に関連しています。

 

これらは単なる個人の問題ではなく、社会保障制度の死角を突く構造的な課題であると著者は指摘します。

 

家族による「自助」が限界を迎えた今、その代替機能を社会がどう担保するのかが問われています。

 

 

 

持ち家神話の崩壊と市場からの排除

「持ち家があれば老後は安泰」という考え方は、もはや過去のものとなりつつあります。

 

第二章では、高齢者の住宅問題が多面的に検証されています。

 

 

日本の公的住宅政策は、諸外国と比較しても極めて乏しい状況にあります。

 

住宅政策は長らく持ち家取得の促進に偏り、賃貸住宅に暮らす人々、特に高齢者への支援は手薄でした。

 

その結果、民間賃貸市場では高齢者が「入居拒否」に遭うケースが後を絶ちません。

 

孤独死のリスク、家賃滞納の懸念、保証人の不在——こうした理由から、市場原理のもとで高齢者は住まいから排除されやすい存在となっています。

 

 

近年、「住宅セーフティネット法」の改正により、住宅確保要配慮者への支援が制度化されました。

 

空き家の活用と組み合わせた施策も進められています。

 

しかし、制度の運用は緒に就いたばかりであり、実効性の検証はこれからの課題です。

 

 

 

「住宅すごろく」の崩壊と住宅難民予備軍

第三章では、単身化が進む日本社会において、将来の「住宅難民」となりうる人々の実態が描かれています。

 

 

かつての日本では、就職・結婚・出産とともに住居も「すごろく」のようにステップアップしていくライフコースが標準とされていました。

 

しかし、非正規雇用の拡大、就職氷河期世代の経済的困難、離婚による母子世帯の増加など、従来の「標準」から外れる人々が増えています。

 

 

特に深刻なのは、中高年単身者、とりわけ女性の住まいをめぐる問題です。

 

「女は三界に家なし」という言葉が示すように、女性は結婚や離婚によって住居の安定性が左右されやすい構造にあります。

 

非正規シングルが利用できる住宅政策は極めて限られており、氷河期世代の居住貧困は今後さらに顕在化することが予想されます。

 

本書は、こうした見えにくい貧困層の存在に光を当て、住宅政策の再構築を訴えています。

 

 

 

 

民間による「隙間のケア」の試み

では、制度の網の目からこぼれ落ちる人々を、誰がどのように支えればよいのでしょうか。

 

第四章では、不動産会社や民間団体による先進的な取り組みが紹介されています。

 

 

注目されるのは、高齢者向けシェアハウスの広がりです。

 

60代以上のシングル女性を対象としたシェアハウス、外国人と共に暮らす多文化型の住居、多世代が交流しながら暮らす集住の仕組みなど、多様な選択肢が生まれつつあります。

 

空き家の増加という社会課題を逆手に取り、集住を「カジュアル」なものとして提案する動きも見られます。

 

 

また、一部の不動産会社は入居者の生活サポートに踏み込み、センサーによる機械的な見守りではなく、人間による支援を重視しています。

 

中には「臨終までかかわり続ける」ことを掲げる事業者も存在します。

 

こうした「隙間のケア」の担い手が、公的制度の不足を補っている現状があります。

 

 

 

安心して最期を迎えられる社会を目指して

最終章では、「どの死が許されないのか」という根源的な問いが投げかけられます。

 

韓国における孤独死の実態や、公営葬儀という取り組みなど、海外の事例も参照しながら、日本社会に必要な支援のあり方が考察されています。

 

 

著者は、持ち家か賃貸かという二項対立を超え、高齢期を幸せに暮らすための選択肢を広げる必要性を説いています。

 

民生委員への相談、低料金の見守りサービスの活用、そして非血縁で暮らす仕組みの構築——個人でできることと、

 

社会が整えるべきことの両面からアプローチすることが求められています。

 

 

 

単身世帯がマジョリティとなる時代に

本書の意義は、単身高齢者の住宅問題を「特殊な事例」としてではなく、「誰もが直面しうる普遍的な課題」として提示している点にあります。

 

単身世帯はすでにマジョリティ化しつつあり、従来の「一住宅一家族モデル」は制度疲労を起こしています。

 

 

高齢化と単身化が同時に進行する日本において、「許されない死」を防ぐための住宅政策とは何か。

 

本書は、その問いに正面から向き合い、現状の課題と解決の糸口を丹念に描き出しています。

 

自らの老後を考える方、住宅政策や福祉に関心を持つ方にとって、必読の一冊といえるでしょう。